【番外編】アイドル大戦争
お待たせしましたっ!
リクエストにもありました、アイドル活動の番外編です( ´ ▽ ` )
アイドル戦国時代。
そう呼ばれる時代が、まさに今ここに来ていた。海のものとも山のものとも知れぬ大量のアイドルたちが世間に溢れ、我こそは覇権を取ろうと、日々しのぎを削り合っている。
そんな中で、現時点で頂点に立つ存在として誰もが指差すのが、星空メルビーナ率いる『トキメキシスターズ』だ。
特にドラマなどでも大活躍しているリーダーの″星空メルビーナ″は、まるでアニメやゲームの世界から飛び出したかのような可憐なルックスから絶大なる人気を誇っていた。
--そんなトキメキシスターズに、これまでにない強敵が現れた。そのアイドルグループの名は、アーティスティック・アイドルユニット『アカレーナ』という。
『アカレーナ』は、大人数が基本ともいえるアイドルグループとしては珍しい、レーナとアカルという二人の少女によるユニットだ。
とはいえ、リーダーであるレーナは元々別のアイドルグループ『激甘♡フルーティ』に所属していた。それが、相方であるアカルと組むために元いたグループを脱退し、新たなるユニットを作ったのである。
それもこれも……芸能界入りを嫌がるアカルとどうしても音楽をやりたいと思ったレーナが、熱烈に勧誘した結果のことであるとwik●には記載されている。
(関連リンク:女性ファッション誌『Cherish』26号記事、【激白! 美華月麗奈脱退の真相!】)
アカレーナにおいて特筆すべきは、彼女たちの愛らしいルックスもさることながら、その圧倒的なまでの″歌唱力″にある。特に″天使の歌声″とまで称されるアカルの歌声が多くの人々の心に楔を打ち込んでいた。
そもそも彼女たちがデビューするきっかけとなったのが、動画サイトに投稿された--彼女たちが自校の学祭で歌ったライブ映像だ。
元々アカルは、知る人ぞ知る存在ではあった。地元や、特にネット界では早くからその存在を知られており、専用のファンサイトや専用掲示板まで存在していたくらいである。
もちろん学内でも圧倒的な人気を誇り、エヴァンジェリストという名誉ある称号を与えられ、すでにアイドルとしてデビューしていたレーナをミスコンで破るという快挙をも達成していた。
そんな彼女が、学内のメンバーを集めて結成した『アカル☆パラドックス』のライブ動画が動画サイトに投稿された直後、ネット界に激震が走った。
その洗練されたカメラワークや映像、可憐な美少女たちの共演、イケメンたちの華麗なる演奏、心震えるほどのアカルの歌声もあり、ライブ動画は……いやアカルは、あっというまにネットの人々の心を鷲掴みにした。
やがてその評判はネットを発信源としたムーブメントとなり、テレビなどのメディアを通じて爆発的に広がって行く。すでに数千万回再生されているこのライブ動画は、もはや動画サイトで殿堂入りを果たしているくらいである。
その後、レーナの『激甘♡フルーティ』電撃脱退や、それから突如発表された『アカレーナ』の結成を経て発表されたデビュー曲『君がいる世界』は、ネット界での圧倒的人気やニュースバリュー効果もあり、初登場ぶっちぎりの第一位を記録する。
アイドル界に彗星のように現れた『アカレーナ』。
アイドル界の頂点に君臨し続けるアイドルグループ『トキメキシスターズ』。
その二大巨頭が、ついに生放送の音楽番組で初の共演を果たすこととなる。
◆◆◆
『さー、【ミュージックファンファーレ】。今夜も開幕です!』
テレビで見慣れたアナウンサー出身の司会者の号令により、いよいよ音楽番組【ミュージックファンファーレ】が開幕した。
私は今までにないほど緊張していた。理由は簡単、すぐ近くに憧れの『星空メルビーナ』ちゃんが居るのだから。
今日は私たち『アカレーナ』の久しぶりの音楽番組出演の日だ。
イメージ戦略だとかなんとかで黒木さんマネージャーの指示もあって、私たちの出演するテレビは厳選されている。だけど今回はレーナのたっての願いで出演することになった。なぜなら今回の番組のテーマが『アイドル大戦争』だったから。
出演するアーティストがアイドルに限定されているだけでなく、レーナが元々所属していた【激甘♡フルーティ】や、妙にライバル視している【トキメキシスターズ】なんかが出ることから、レーナが「あたし、絶対に出たい!」と譲らなかったのだ。
前回の釣り番組の収録で迷惑をかけちゃった弱みと、生メルビーナちゃんに会えるという餌につられた私も同意したことで、今回の【ミュージックファンファーレ】出演となったのだった。
そのレーナが珍しく緊張している。視線の先に居るのは、人気ナンバーワンアイドルの『妖精』星空メルビーナちゅわん。
いやー、メルビーナちゃんマジかわええわっ! 夜空に広がる天の河みたいにキラキラと輝くシルバーブロンドの髪、アニメの世界から飛び出したかのようなキュートなルックス、バランスよく整ったスタイル。
一回後ろからギュッと抱きしめて、髪の毛の匂いクンカクンカしたいっ! たとえ本物の女の子になったとしても、心まで変わったわけじゃないからこの気持ちは変わらないぜっ!
そんなことを考えながらメルビーナちゃんをガン見してると、隣に座る女の子から声をかけられる。
「こんにちわアカルさん、なんだかレーナさん気合入ってますね」
「……あ、こんちわセシルちゃん」
隣に座ってる女の子--【激甘♡フルーティ】の現リーダー林後 世知ことセシルちゃんに話しかけられ、私は頷き返す。あー、そういや彼女たちにはレーナが突然脱退したりして迷惑かけちゃったからな。良い機会だから謝っとかなきゃな。
「そういえば、その節はうちのレーナがご迷惑をおかけして……脱退騒ぎで大変だったでしょう? あの子もあなたたちにちゃんと気を使えばいいのにね」
「あー、そのことは気にしないで大丈夫ですよ。アイドルグループに脱退はよくあることですし、それにうちらはうちらで頑張ってますんで」
「そ、そっか……でもレーナが本当にごめんね」
「いいえ〜。それに実はあたしたちも、レーナさんがアカルさんを追いかけていった気持ちは、なんとなく分かるんですよ」
へ、そうなの?
ウットリとした顔つきのセシルちゃんにそう言われ、思わず間抜け面で確認してしまったのも仕方ないと思う。なにせ張本人である私にはその気持ちがさっぱり分からなかったのだから。
「だって……アカルさんは綺麗ですし、なにより歌が凄いですからね」
「歌は……みんな上手だと思うけどなぁ。それに綺麗って意味ではセシルちゃんもかなり可愛いと思うけどね?」
「まあっ⁉︎」
私の言葉にポッと顔を染めるセシルちゃんもなかなか可憐だよなぁ、さすがはアイドル。
「まるで少女マンガとかドラマの世界から飛び出したみたいな一連の騒動だったんで、あたしたちもお二人のことをドキドキしながら見守ってたんですよ?」
「そ、そうなんだ?」
なんというか、そういう女の子の感覚って未だによく分からないな。でもまぁレーナのことを恨んだりしてないんだったら良かったよ。
「……ちょっとアカル、なに本番中に雑談してますのっ⁉︎」
「いたっ。す、すいません……」
あちゃー、レーナに怒られちゃった。でもさ、レーナのこと気にしてセシルちゃんのフォローしてたんだから、わざわざ脇腹をつねらなくても良くないかい?
◇◇◇
『それでは次の曲です。アイドル界の絶対王者として君臨するトキメキシスターズ。彼女たちが新曲を披露してくれます。披露する曲は……【カレイドスコープ】』
お、そうこうしているうちにメルビーナちゃんたちの歌が始まったぞ。制服みたいなコスチュームでステージに登り、所狭しと飛び跳ねるメルビーナたんってばマジ妖精!
「……ちょっとアカル、なにメルに見惚れてんのよ?」
「ぎっくぅ⁉︎」
あ、あかん。私がメルビーナちゃんの大ファンであることがバレたら、なに言われるか分かんないぞ。ここは誤魔化して……と。
「さ、さぁ次は私たちの出番だね。いこっかレーナ
!」
「……じとーっ」
「そ、そんな目で見ないでぇ。怖いよぉ〜」
「……ま、いいわよ」
とりあえず気を取り直してくれたレーナの肩を押して、舞台裏へと移動する。おっ、後ろから見るメルビーナたんもまた可愛いな! シルバーブロンドの髪が踊る様子は、まるで花畑を飛び跳ねる天使だよねっ!
「……アーカール?」
「は、はぁーい」
わかってる、わかってるよ!
だからそんなに怖い目で睨みつけないでぇ!
メルビーナちゃんたちトキメキシスターズの曲が終わり、カメラは司会者たちの方に戻る。その間にうちらは入れ替わりだ。
すれ違い際、メルビーナちゃんが荒い息を弾ませながら私たちに話しかけてきた。
「どうレーナ、うちらのパフォーマンスはなかなかのものだったでしょお? あなたのパートナーも見惚れてたみたいだしぃ?」
「ぐっ……メル、あ、あたしたちだって負けてないわよ。ねぇそうでしょ、アカルッ⁉︎」
「ふぇっ⁉︎」
間近でメルビーナたんの汗の香りを鼻腔いっぱいに吸い込んでいた私に、怒りを込めたレーナの雷がまた落ちる。ひえー、今日のレーナはカミナリ様だよ。
「ねぇアカルちゃん、今度あたしとゆっくりお話ししましょうね?」
「えっ! い、いいのっ⁉︎」
「うん。あたし、あなたのことずーっと前から興味があったし〜」
うおぉぉぉ、これは夢か現か? まさか憧れのアイドル星空メルビーナちゅわんからツーショット会話に誘われる日が来るなんてっ! もしかしてこの先、何かが芽生えちゃったりするっ⁉︎
なーんて妄想してたら、いきなりレーナに耳を摘まれちまう。いたたっ! いたいってレーナ!
「……ちょっとメル。アカルはあたしのものよ?」
「ふーん、そうなんだ。でもこの子、あたしに興味あるみたいだけどね?」
「残念だけどもう予約済みよ。ねぇアカル?」
「う、うん?」
訳がわからないまま、とりあえずこれ以上レーナを怒らせないためにコクコク頷くと、ちょっとだけレーナが機嫌を取り戻す。ふいぃ、よかったよかった。
「じゃああたしたちはもう出番だから行くわね。またね、メル」
「メルビーナちゃん、またぁ!」
「頑張ってねー。レーナ、アカルちゃん」
名残惜しかったものの、うちらの出番が近づいていたので、後ろ髪を引かれる思いでメルビーナちゃんと別れてステージへと向かう。
「んもう。アカルってばすぐ可愛い子にデレデレするんだから……」
その途中、まだプリプリしながらブツブツ呟いているレーナにそっと近寄って話しかける。
「さっ、レーナ。本番がんばろうね!」
「……あたりまえよ」
「私はね、レーナと一緒だから今ここにいるんだよ。だからこれからも、一緒にいようね?」
最後の一言をボソッと耳元でささやくと、レーナの顔が一瞬にして赤く染まる。続いて、照れ隠しみたいに顔をさっと逸らす。
むふふっ、これでレーナも機嫌を取り戻したみたいだ。作戦は大成功だぜ!
しっかしレーナも単純だよなぁ。でも彼女のこういうところは本当キュンッとなるくらい可愛らしいんだよなぁ。
……っと、いかんいかん。どうやら本番が始まるみたいだ。
『それでは次の曲です。超新星のようにアイドル界に突如現れたアカレーナ。彼女たちがデビュー曲として世に放った衝撃作を歌ってくれます。披露する曲は……【君がいる世界】』
目の前のカメラのランプが点灯して、映像が入ったことを示す。
さぁ、いっちょ歌ってやるかねっ!
ここからが、私たちのライブだ!
私は元気を取り戻したレーナの手を握ると、伴奏に合わせてゆっくりと歌い出したんだ。
〜おしまい〜
なんだかんだでタラシ?なアカルちゃん(^ω^)
忙しすぎてネタが浮かばない…(´Д` )