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【トゥルーエンド】アキラ

トゥルーエンドを投稿します( ^ω^ )

前作絡みのお話になりますが…オマケということでご容赦くださいm(._.)m



 

「ラー様、おかえりなさいませ」

「お疲れ様でした、”聖魔神アキ・ラー”様」

「やぁエルフィ、リーヤ。わざわざお出迎えかい、ありがたいね」


 光り輝く扉をくぐり抜けて姿を現したアキに、【G】--すなわちエルフィアーナと、【F】--すなわちカスティリーヤが頭を下げながら声をかけてくる。その二人の頭を撫でながら、アキは優しく声をかけた。


 ここは、異世界エクスターニャにある特別研究施設【オポチュニティ】。

 一般的には全く知られていない施設であるが、ここでは誰にも知られることなく、とあるプロジェクトが行われていた。


 そのプロジェクトも、今日という日をもってひとつの区切りを迎えていたのであるが。


「全てうまくいったのですね、ラー様」

「そうだね、エルフィ。長かったこのプロジェクトも、大成功をもって全部おしまいさ」

「やったー! これでもう僕たちも変なコードネームから解放されるんですね」

「ははっ、そうだねリーヤ。……きみたちには本当に苦労をかけたな、すまなかった」

「いえいえ、ラー様のご苦労に比べれば大したことございません。なにせ私たちはたかが十五年程度。対してラー様は……一千年ですからね」


 一千年。それがどれだけの重さであるのか。

 その重みを真の意味で知るのは、白と黒のストライプの髪を持ち、背中に天使のような翼を持つ女性ーー″聖魔神アキ・ラー″ことアキのみである。


「それにしても今回の仕掛け、大変でしたね」


 エルフィの言葉に、アキはこれまでの苦労を思い出す。それは、決して叶うはずもない願いを叶えるための、一千年にも渡る……とてつもなく長い旅の日々だった。




 ◇◇◇




 アキの目的。それはサトシを復活させることであった。だがその活動は当初から難航を極めるものだった。


 アキはまず、バラバラに散らばったサトシの魂を集める作業から始めた。

 のちに『神々の黄昏ラグナロック』と呼ばれることになるアキとの最終決戦の末に異空間で命を散らし、【天使の器オーブ】にまでなってしまったサトシ。彼の魂を改めて抜き出すのは、もはや神と化したアキをしても絶望的な作業であったのだ。

 例えるならばそれは、大陸ほどもある大きさのカラカラに乾いた布を絞り、そこから絞り出される水分を集めるようなものである。


 それは、すでに百を優に超える能力を手に入れ、神と呼ばれるようになったアキでさえ、絶望的に困難な作業であった。

 あるかどうかわからないものを、見つかるかわからない方法で探す。はたしてそれは、どれだけ苦痛を伴う作業であっただろうか。



 それでも、アキは人生をかけてチャレンジした。

 それは、サトシの今際の際に誓ったから。


「いつか生まれ変わったら、一緒に冒険をしよう」


 その思いは、もしかしたら叶わないかもしれない。実際、異世界であるエクスターニヤに別世界の魂を蘇らせることはほぼ不可能であった。

 だけどアキは、どうしてもサトシを蘇らせたかった。蘇らせて……この世界は無理でも元いた世界に還したいと思っていた。

 だから、たとえ絶望的なまでに難しいことであったとしても、アキは決して諦めなかった。



 --それから長い長い年月が流れた。

 アキの作業は、ほんのわずかずつではあるが前に進んでいた。絞り出すようにして、サトシの魂の欠片を手に入れることに成功していたのだ。

 また、長い年月の間でアキは様々な能力者と出会っていた。その中の一人の能力によって、元の世界の″場所″を知ることができた。

 ……これは、とてつもなく大きな進歩であった。


 アキはその人物の力を借りて、現在いる世界ーーエクスターニヤと、元の世界を接続コネクトしたうえで、時間軸を固定化する。

 なにせ二つの世界の時間の流れは大幅に違っていたのだ。そこを合わせなければあっという間に時は流れていってしまう。

 ……これでとりあえずは最低限の準備はできた。



 だが、アキはまだ動かない。足りないものばかりだったからだ。



 そんなアキの前に、さらなる幸運が訪れる。

 なんと、彼女が欲して止まなかった″能力″を持つ存在が、彼女の親しい一族の中から……しかも双子という形で生まれたのだ。


 カスティリーヤ……『調整者ザ・フィクサー』の能力の持ち主。

 明るく飄々として、それでいて頭が切れる男の子。


 エルフィアーナ……『扉の管理者ザ・ゲートキーパー』の能力の持ち主。

 引っ込み思案でコミュニケーション能力が弱いものの、強い意志を持つ女の子。


 幸いにも、サトシの魂は大分集まってきていた。もちろん、人として形取るには到底足りない。しかも異世界エクスターニャの人々の魂と元の世界の魂は形が合わないらしく、融合することすらできないでいた。

 だが、元の世界の魂であればどうだろうか。


 --もしかしたら、サトシを蘇らせることができるかもしれない。

 このときになってようやく、アキはそう実感できるようになっていた。


「……しかしこうなると、ミクローシアのやってたことを責められないよなぁ」


 誰もいない空間で、一人そう苦笑いを浮かべるアキであった。




 ◇◇◇




 手駒が揃ってからのアキの動きは早かった。

 彼女はまず、エルフィたち一族に願い出て、二人の教育係になることになった。『聖魔神』であるアキに見初められたとあり、一族のものたちは大喜びで二人を送り出した。


 そこからアキは全力で二人を教育した。持てる神の力の全てを使って、二人の潜在能力を伸ばしまくったのだ。


 ……こうして、じっくりと育てること幾年月。

 二人の実力が完全に『今回のミッションを遂行するに足る』と判断したところで、アキは二人に今回の壮大なプロジェクトの全容を話すことにした。






「【破壊神ディアス・バルバロス】の復活……ですか?」


 サトシの魂を復活させたい。そう聞かされた時のエルフィの最初の反応がそれだった。


「こらこらエルフィ。ラー様がやりたいのは″破壊神の復活″ではなく、ご友人のサトシ様の魂を復活させたいっておっしゃってるんだよ?」

「で、でも……」

「まぁまぁ二人とも。エルフィの心配は分かるよ。なにせサトシは狂ってたとはいえ、この世界を一度滅ぼしかけたヤツだからね」


 そう。彼女たちが話す通り、アキが復活させようとしているサトシは、一度は【邪神】もしくは【破壊神】と呼べるような存在となったものだ。その彼を復活させたとして、果たしてまともな存在となるのか。そんな危惧は常に付きまとっていた。

 だがアキは、その点については全く心配していなかった。なにせ相手は親友のサトシである。最後の最後まで自分を救ってくれた彼が、どうにかなるとは思っていなかったのだ。


「ま、本当に大変なことになるようであれば、私が責任を持って対処するからさ」

「ラー様がそこまでおっしゃるのであれば……」


 ということで、いよいよプロジェクトは実行段階に移ることになったのである。



 まずはカスティリーヤの能力『調整者ザ・フィクサー』によって、二つの世界が完全な形で固定化フィックスされた。これはいうなれば、今まで未開の場所に通じるあぜ道を舗装した道路にするようなものである。


 続いて、その舗装された道を通ってエルフィアーナの能力『扉の管理者ザ・ゲートキーパー』が発動する。


 こうしてついに、時空と異空間によって隔絶されていた二つの世界の間に『扉』が開かれたのだった。




 ◇◇◇




 ようやく扉が開かれたとはいえ、二つの世界を肉体で行き来するのはさすがに不可能な状態であった。

 そこで、まずはアキ本人が精神体となって元の世界に旅立つことになった。

 それは、命綱一本で洞窟を探索するようなものであったが、アキはすでに神と呼ばれるほどの領域に達していたため、双子も心配することはなかった。



 --ここまででおよそ980年。

 それだけの時が経っていたというのに、久しぶりに降り立った元の世界はわずか数年しか経過していないことにアキは驚いた。それほどに、二つの世界の時間軸は隔絶していたのだ。

 だがこれは逆に都合が良かった。その程度の時間軸のズレであれば、ある程度サトシの魂でも時代に適応出来るはずであると思えたのだ。


 約千年かけても完全な形で魂を復活させれなかったサトシ。おそらく集められた魂は半分にも満たないだろう。

 そんな状態のサトシを元の世界に復活させる手段は、それでもいくつかあった。


 最も簡単な手としては、どこかの胎児の中に入らせて、完全に別人として生まれ変わらせることだ。

 だがアキはこれを最後の手段とした。なぜなら彼は、できるだけ元のサトシの人格のまま、こちらの世界に戻らせたいと思ったからだ。


 それに、仮に生まれ変わるとしても……本人に選ばせたいとも思っていた。

 そう思うのは、もしかするとアキのワガママかもしれない。だがそれでも彼女は、サトシが元の人格を持ってこの世界に戻ることに強くこだわった。



 そこでアキは一つのシナリオを閃いた。

「そうだ! ある日突然、過去の記憶を失った状態で別の身体になったことにしちまおう!」


 そうと決まると動きは早かった。

 まずはサトシの魂に波長が合う存在を探す。それはすでに神と呼べる存在となったアキにとっては比較的容易い作業であった。


 次に、いくつか見つけた候補の中から、今にも命の炎が燃え尽きそうになっている胎児……一人の女の子の魂を選択する。


 女の子の魂をすくい上げると、持っていたサトシの魂と素早く融合させる。これは思いの外上手くいった。とはいえ不安定なことには変わらないので、アキは自分の中で安定するまで大切に管理することにする。

 その間、空っぽになった女の子の身体には、とりあえずアキの精神体を分割したもの--『分体』を入れ込んでおいた。おまけに、せっかくだからと【歌唱力】のギフトも与えておく。これはアキからのサービスだ。



 こうして生まれた女の子が、『日野宮あかる』である。


 日野宮あかるについては、エルフィアーナとアキの二人で管理することにした。とはいえアキは多忙を極めたため、多くはエルフィアーナが管理することとなる。

 管理方法については、具体的にはカスティリーヤの能力で、エクスターニャから遠隔操作で日野宮あかるを操れるようにした。そのイメージはさながら『VR』のようなものである。




 --それから、時を過ごすことさらに十六年。

 ようやく、サトシと元の女の子の魂が完全な形で融合された。


 ついに、作戦決行の時が来たのである。




 ◇◇◇




 ある年の春、いよいよ『サトシ復活作戦』が実行されることとなった。

 イメージは、「ある日突然、過去の記憶を失った状態で女の子の身体になっちまった!」である。


 もちろんいきなりそうなるとさすがに厳しいと思われたので、サポート役をつけることにする。サポート役はもともとあかるを演じていたエルフィアーナだ。

 名前で呼び合うと何か不都合があるかもしれないので、念のため互いをコードネームで呼び合うことにした。コードネームは能力名からエルフィアーナは【G】、カスティリーヤは【F】とした。


 シナリオとしては、「日野宮あかるは異世界に転生した。その肉体に事故で入り込んだ男」という設定にした。

 その際、五つのミッションを与えて、サトシに「女の子の身体と生活に慣れさせる」ことにする。だいたい慣れるのに半年から一年かかるであろう。

 ゆえに五つのミッションの内容はなんでも良かったので、そこはエルフィアーナに丸投げした。時間さえ稼げれば、それで良かったのだから。



 こうして、サトシを元の世界へと戻す盛大なプロジェクトがスタートする。



 --これこそが、今回アキが考え実行した『盛大に無駄な儀式』の全容であった。




 ◇◇◇




「ようやく、全て終わられたのですね」

「……ああ。そうだね」


 エルフィアーナの問いかけに、アキは頷く。だがエルフィアーナは重ねて問いかける。


「ラー様は、これでよかったのですか?」

「……どうして?」

「だってラー様、泣いてらっしゃるから」


 そう言われて、アキは初めて自分が泣いていることに気づいた。

 この涙が、長い年月をかけてやってきたことが報われたからなのか。あるいは疲れからくる涙なのか。もしくはサトシとの別れを悲しんでのものなのか。自分でも分からない。


 だけど、一つだけはっきりしていることがある。


 この、胸の奥にある晴れやかな気持ち。

 この気持ちは、彼女がこの千年間、決して満たされることがなかった部分を優しく覆い尽くしていた。



「ありがとう、エルフィ。リーヤ。改めて礼を言うよ。君たちおかげで、私は千年の願いを成就することができた」

「そんな、いいえ……」

「それは全然構わないんですけど、ラー様。ひとつ教えてもらってもいいですか?」


 なにげなく問いかけるカスティリーヤに、涙を拭ったアキが小首を傾げる。


「……なんだいリーヤ? 聞きたいことって」

「あの……なんでサトシ様の魂をわざわざ女の子の身体に入れたんですか? 彼は元は男……なのですよね?」


 カスティリーヤの素朴な問いかけに、アキは……最高の笑みを見せながら答えたのだった。




「なんでそうしたのかって? そんなの決まってるだろう? ……ただのイジワルだよ」

「……はい?」

「だってさ、私だけ女の子なんてずるいじゃないか」





 --完全に逆恨みであった。





 〜 【トゥルーエンド】 おしまい 〜


人物紹介の前に投稿する予定だったのですが、間に合わなかったので遅れながら投稿しました( ^ω^ )

落ち着いたら入れ替えるかもしれません。


このあとは、落ち着き次第番外編を投稿できればと考えております(o^^o)



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