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85.マリアナ祭の開幕

 

 ついに、マリアナ祭が幕を開けた!

 綺麗に飾られたアーチ! 華やぐ校舎! 普段と変わらない駅や学校への坂道さえも、なんとなく輝いているように見える。


 ……結局私は昨日の夜、ほとんど眠ることが出来なかったんだ。だけど、気分はこれまでにないくらい晴れやかだ。ある意味″肝が座った″と言ってもいいだろう。

 今日は、泣いても笑っても″最終日″。悔いの無いように過ごさないとね。


「よーし、がんばるぞぉ!」

「おっすアカル! なんか気合い入ってるなぁ!」

「おはようアカルちゃん、今日は頑張ろうね! あ、でもコンテストは負けないよ!」


 一人で気合を入れてたら、たまたま同時間に登校していたシュウ&布衣のカップルに遭遇してしまった。くそっ、朝っぱらからリア充カップルに会うなんてついてないな。ラブラブオーラがロンリーには沁みるぜ。


「やぁおはよう。二人揃って登校かい? まったく、朝からラブラブなことで」

「あらー? アカルちゃんってば、もしかしてひがみ?」

「アカルだってモテるんだからひがむことなんてないのにな。ま、ヌイのほうが可愛いんだけどな?」

「まぁ、シュウってばいやーん!」


 くっ……このバカップルどもめ、爆ぜてしまえ!

 ぶっちゃけミスコンなんてまったく興味無かったけど、こいつらにだけは絶対負けたくない気分になったよ。ぷんぷん!



 教室に着くと、すでに半分くらいのクラスメイトが到着していて、模擬店の準備を進めていた。私もさっさと着替えて、メイド役のみんなにメイクを施していく。


「はーい、じゃあ口紅塗っていくね?」

「日野宮、顔が近いよっ……」

「はいはい黙って〜。よーし、じゃあ『んぱっ』てして」

「んぱっ」

「うん、グロスが乗ったね。そしたら鏡で確認して見て。はい次の人〜」

「こ、これが俺……」


 クラスメイトの一人(男子)が、なにやら鏡とにらめっこしながらブツブツと呟いている。どうやら私がメイクを施した顔に見入ってるみたいだけど、そんなのに構ってる暇はないので、無視して次の子のメイクに移る。

 なにせこちとら全部で九人にメイクしなきゃならないんだ。大忙しったらありゃしない。


「日野宮、オレ……新しい扉を開いちゃったかも」

「そんなの知らんがな」


 こっちゃ猫の手も借りたいくらいなんだ。勝手に扉でも何でも開いてくれよ。


 ふと気がつくと、教室の外は他のクラスの生徒たちで溢れていた。どうやらうちの模擬店のメイド服姿を一目見たくて集まったらしい。

 時折「アカルちゃーん!」「薔薇姫、手を振ってー!」などと呼ばれるので、これもサービスの一環だと諦めて、仕事の手を止めて笑顔を振りまく。

 こいつら、私が中身男だって知ったらどう反応するんだろうか。そう思うと、ちょっとだけ愉快な気分になった。



 さて、メイクも終わったら今度は接遇の練習だ。メイド役のメンバー全員を集めて挨拶のレクチャーをする。


「はい、みんなで声を合わせて。『いらっしゃいませ』」

「「「いらっしゃいませー!」」」


 よし、みんなずいぶん上手になったぞ。準備はバッチリだ。……ってそこの男子! 腰をクネクネしないっ!


「アカルちゃんって、アルバイトしたことあるの?すごく教え方上手だけど……」

「へっ?」


 一二三ひふみトリオの一人、一丸さんにそう問われて、ちょっと戸惑ってしまう。

 しまった、調子に乗って前の記憶・・・・にあるアルバイト時代の経験を思いっきり出しちゃったよ。とりあえず誤魔化さなきゃ……。


「い、いや。レーナに教わったんだよ。ほら、アイドルの心得みたいな感じ?」

「アイドルの心得ってより、居酒屋バイトの心得みたいだけど……まいっか」


 ドキッ。一丸さんもなかなか鋭いじゃないか。ま、誤魔化せたから良しとするか。



 キーンコーン、カーンコーン。

 学校のチャイムが鳴り、いよいよ年に一度の秋の祭典『摩利亞那マリアナ祭』の開幕だ。門から一斉に、模擬店とかに参加してない生徒たちや、一般の人たちが入場してくる。


 ただしこのマリアナ祭、普通の学校の学園祭と違って厳しい入場制限がなされている。

 なにせアイドルや芸能人なんかも在籍する学校なのだ。不用意に部外者を入れるわけにはいかない。


 そこで必要になるのが、生徒や学校関係者にのみ配布される『入場チケット』だ。これを持ってないとそもそも学内に入場することができない。

 チケットは厳密に管理されていて、シリアルナンバーで誰に渡されたチケットなのかを正確に把握されてる。ゆえに、もし仮にネットオークションなんかに出品したりすると大ごとだ。バレた時点でその子は最悪退学なんかの処分を下されてしまう。だから不正に横流しする生徒なんてのは存在しない。

 おまけにチケット所有者には、無闇な写真撮影禁止などの厳しい条件が課されていた。普通では考えられないレベルのセキュリティである。


 こうして学祭の安全が保たれてるはずなんだけど……なんか凄い人数だな。まるでコミケかなにかみたいに殺到してくるんだけど。


「あ……これはヤバイかも。今日はアカルちゃんは接客無しでいくね」

「うん、それがいいね。日野宮さん、あなたはオブジェね」

「はいはい、アカルちゃんは危険だから下がってー。あと男子諸君、肉壁になるように!」

「えっ? えっ?」


 私が慌てふためく横で、一二三ひふみトリオがみんなにテキパキと指示を出す。次の瞬間、うちのクラスの『メイド喫茶』に、たくさんの人たちが殺到してきた。


「うっわー! ほんとにいた!日野宮さーん!」

「ぎゃあー! めちゃくちゃ可愛い!」

「ネットの書き込みはホントだったんだ! メイド服たまんねぇ!」

「CMで見たよりも綺麗じゃない⁉︎ きゃー!」

「アカルちゃーん! すてきー! こっち向いてー!」


 --な、なんじゃこりゃあ。

 それが、私の抱いた第一印象だった。


 どうやらこの殺到してきた人たちは、うちのメイド喫茶--というよりも『アカルちゃん』目当てでやって来たらしい。

 彼らの話している内容からすると、どうやらネットで『日野宮あかるが学祭でメイド喫茶にいる』っていう情報が流出してたみたいだ。それで最初にここに駆け込んできたらしい。


 ……なるほど、それで私が接客なしなのか。このときになって私はようやく一二三ひふみトリオの戦術を理解することができた。同時に彼女たちの気遣いに心の底から感謝する。ありがとう、一丸さん、二岡さん、三谷さん。


 私というメイドが一枚欠けた状態になってしまったんだけど、一二三ひふみトリオは羽子ちゃんや他のメイド(男)たちと一緒にテキパキと来客たちを捌いていく。ときおり彼女たちがこっちにウインクなんかくれる。

 おかげで私はニコニコしながらお飾り人形よろしく笑顔を振りまくだけで済んだんだ。

 あー、私は本当に友達に恵まれてるなぁ。そのことをしみじみ痛感する出来事だった。


 とはいえ、うちのクラスの模擬店は大盛況すぎた。あまりに客が殺到しすぎたせいで、最初の頃はかなり混乱していたクラスメイトたち。

 だけど、徐々に客への対応に慣れていって、しばらくするとみんなは来客ラッシュをうまく捌けるようになっていた。気がつくと、あれほどあった長蛇の列が上手く流れるようになっている。


 少しずつ混乱が収まっていき、店の運営の方も良いリズムが取れるようになっていた。

 そんなころ、私にとって嬉しい来客がやってきた。


「おーい、おねーちゃーん!」

「あっ、マヨちゃん! いらっしゃい!」


 なんとマヨちゃんが、同級生らしい男女数人を連れて遊びに来てくれたのだ。つい嬉しくなって、みんなにマヨちゃんたちの接客を願い出る。

 ちなみにマヨちゃんは、男の子三人に女の子三人を連れて来てくれていた。しかも男の子はイケメンばっかり! マヨちゃんめ、やるじゃんか!


「ようこそみなさん、ここにいるマヨイの姉のあかるです。今日は来てくれてありがとうね!」

「は、はひっ!」

「はじめまして、おねえさま!」

「ひー!」


 なんだテンパった反応を示すお友達たちを横目に、マヨちゃんにこっそり耳打ちする。


「……で、マヨちゃん。この中に本命はいるの?」

「何言ってんのよ! おねーちゃんのバカっ!」


 真っ赤になったマヨちゃんの頭を優しく撫でると、笑いながらその場を退散することにする。あーあ、マヨちゃんってばなんか頬を膨らませたりしてるから、あとで怒られちゃうかもなぁ。


 私が直々に入れた紅茶をマヨちゃんたちに注いでいると、うちの店に並ぶ人たちから悲鳴に近い歓声が上がる。列を割るようにして出現したのは、目も眩むような美少年たち--『キングダムカルテット』のイケメン四人だった。


「やっほ〜アカルちゃん、遊びに来たよ〜!」と無邪気に手を振るいおりん。

「おーおー、なんだこりゃ。すげぇ人だな!」と周りにガンを飛ばしまくるミカエル。

「ふむ、なんとか秩序は保たれてるようだな」などとメガネを指で直しながらのたまうガッくん。

「おっ、マヨちゃんじゃんか、久しぶり!」とマヨちゃんにも笑顔を振りまくシュウ。おいコラ、シュウ。人の妹にコナかけてんじゃないよ?


 するとシュウの言葉でマヨちゃんの存在に気づいた他の三人が、ワラワラとマヨちゃんを取り囲む。


「えっ? この子アカルちゃんの妹さん? うっわー、かーわーいーい!」

「ほぉー、アカルの妹か? おいこら、おめーの姉貴はとんでもない奴だぞ?」

「こら冥林、怖い顔するのはやめておけ。妹さん怖がってるじゃないか」

「あ、あわわわ……」


 とつぜんイケメンたちに取り囲まれて、目を白黒させるマヨちゃん。「きゃー!」と黄色い悲鳴を上げるマヨちゃんの同級生の女の子たち。

 ふふふっ。マヨちゃんってば、イケメンたちに囲まれて度肝を抜かされてるみたいだな。……って、呑気に眺めてる場合じゃなかったわ。このままイケメン包囲網に囲まれ続けてると色々と悪影響がありそうだから、とりあえず助け舟を出すことにする。


「こらこら、あんたたち。あんまり私の大事な妹に変なことしないでよ?」

「ふぇっ⁉︎」


 キングダムカルテットの四人に忠告しながらマヨちゃんを後ろから抱きしめると、周りから「ぎゃー!」「うわー!」「ひえー!」とかいう悲鳴みたいな歓声が上がった。ってなんでやねん! 妹を抱きしめたらあかんのかいっ!



 ◇◇◇



 そのあと、キングダムカルテットの四人を適当にあしらって一二三ひふみトリオに押し付けたり、鼻血を出しそうなマヨちゃんの友人たちを笑顔で見送ったりして、模擬店で働き続けた。

 途中、姫妃先輩が茶化しにきたり、レノンちゃんが生ライブ中継の名目で乗り込んできたのを撃退したりして大変だったりしたけどね。あ、そういえば朝日兄さんがアカルパパとアカルママを連れて来店してくれたのは嬉しかったなぁ。あまりに嬉しかったからめいっぱいサービスしてあげたんだ。


 そんなことをしていると、あっという間に昼の時間が近づいてきていた。気づかずに働き続けていると、『プリモディーネ選考委員』なる腕章をつけた新聞部の子が、うちらの模擬店にやってきた。


「すいません、日野宮さん。そろそろお時間です」

「あ、もうそんな時間? わざわざ迎えに来てくれてありがとう」


 どうやらプリモディーネ・コンテストが始まるみたいだ。私は他のクラスメイトたちの応援を受けながら、メイド喫茶と化した教室をあとにする。


 さぁ、いよいよ次は『至高の一輪華プリモディーネ』の選挙だ! 個人的には結果はどうでもいいと思ってたんだけど、せっかく参加するからには全力を尽くすぞぉ!


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