25話:目覚めの時は今
少し多忙で更新が滞っていました(汗)
俺達はナミさんに連れられて、ひとつひとつの教室をまわった。
1コマ90分の授業に30分づつ出て回る。
6学年の合計18クラスをまわるのは少々きつい。
次は10クラス目。
「失礼します」
そういってナミさんは引き戸を開ける。
「ああ、理事。
待ってましたよ」
どうやら事情を聞いていたらしい若い教師はさっさと教壇を譲り、自らもイスを取り出して生徒達の後ろに座った。
「では、みなさん。先生から聞いていると思います。
184年前に大戦で使われた神器の後継者の方に講義をいただきます」
ナミさんの紹介についで俺は神器との遭遇から特徴までを簡単に説明していった。
もう9クラスに同じ説明をしたので慣れた。
そして俺は説明の最中に例のオレンジポンチョの女の子を見つける。
目を合わせると向こうが軽く笑ったので俺も微笑む。
「「講義中でしょ!!」」
姫とミオが何かで俺の頭を叩いた。
振り返り見ると手にはハリセンが握られている。
…………
「なんてベタなつっこみ道具もってんだよ」
つい口に出てしまう。
「いいから続けなさい!」
なんで姫はそんなにえらそうなんだよ。
「なんでお前がそんなにえらそうなんだよ?」
口に出して聞いてしまう。
「いいから!」
「なんか納得できねぇ。つぅかお前がやれよ」
何か言おうと口を開く姫だが、
「こほん、北斗さん? 続けてくれませんか」
静かなナミさんの声。
こ、怖い。
「え、え〜とでは神器の特徴は……」
結局1日かけて全クラスをまわり、俺はくたくたになった。
先生ってすごいね。尊敬しちゃうよ、ほんと。
「今日は1日ご苦労様でした」
ナミさんが労いの声をかけてくれる。
「そおいえば姫とミオは?」
最後の1クラスをまわり終わると2人の姿が見えなくなった。
「2人なら屋上に行くと言っていましたよ」
屋上か……
「じゃ、俺も行ってきます。先帰っといて下さい」
「では、お願いしますね」
俺は屋上へと向かった。
……………………
俺が屋上に着くと2人は仲良くくっついて寝ていた。
その顔はこの上なく幸せそうだ。
俺は2人に近付いて頭の近くにしゃがみこむ。
この2人ってほんとに似てるよなぁ。
実はどっちかが変装していたり……
馬鹿げた考えをした俺はおもむろに2人の頬を引っ張る。
びにょーんと効果音をあげるように伸びる頬。
おお!
面白くなった俺はぷにぷにといじくりまわす。
姫とミオは同じように顔をしかめ、俺の手をつかむ。
へ?
勢いよく引っ張られて2人の間にすっぽりと顔が挟まった。
頭の方から覗いていたわけだから、自然と顔は2人の胸あたりに挟まるのであって……
やばいやばいやばい
この状況は非常にまずいって。
俺はじたばたともがく。
抜けねぇ。
だが急に俺は引っ張りだされた。
ゴホゴホとむせたながらも、引っ張りだされた力の元を探す。
「君は……」
視線の先にはにっこりと微笑んでいるオレンジポンチョの子がいた。
「マールです」
「え?」
「私の名前です。
屋上に来ると影が重なっていたのでお邪魔かと思いましたが、あなたが苦しそうにしていたので思わず助けてしまいました。迷惑でしたか?」
上目遣いで言うマール。
「いや、別に……つぅか助かったよ。ありがとう」
「はい!」
嬉しそうに微笑むマール。
その時いっそう強い風が吹いた。
ポンチョが風になびき、青いポニーテールが露わになる。
思わず俺は見惚れてしまった。
「北っくん?」
「北斗さん?」
…………ゾワッ。
背筋が凍りつき、全身に鳥肌がたつ。
おそるおそる後ろを振り向く。
予想通り、後ろには鬼が2人いた。
「え〜と、ほら。なんだ? あの……すいません」
たいした言い訳も思い浮かばず、謝ることしかできない俺。
「「問答無用!」」
俺の頭に2本のハリセンがなんども打ちつけられた。
マールはそれを笑いながら見ていた。
なんで俺ばっかり……
屋上での一悶着を終え、俺達は玉座の間に来ていた。
稲葉と水橋、良平とイリエ、それに志摩さんは既にいた。
「しずっち、町はどうだった?」
姫……あだ名は1つに統一しろよ。
「いや、こいつを連れて行ったのは間違いだった。スキを見つけては抱きつこうとするのでな。蹴るのが大変だった」
やっぱり金蹴りかい!
「なぁ稲葉。
あんまり男のそこを蹴るもんじゃねぇぞ?
男として機能しなくなる」
見かねた俺が言ってみる。
「大丈夫だ」
しかし意外なことに、返事は水橋からかえってきた。
「しずくちゃんのおかげで何かに目覚めそうなんだ」
「「…………」」
え〜と?
水橋、それはMに目覚めるんだと思うぞ。
「どうした? みんな」
「「なんでもないです」」
どうやらみんな触れないでおこうと決めたようだ。
「そ、それはそうと王様。俺達は明日発とうと思います」
これは志摩さん達と決めたことだ。
「ふむ。そうか……色々と世話になったな」
「いえ、俺達の方こそお世話になりました」
俺達はそう言って、玉座の間を離れた。
夜。
みんなが寝たのかは知らないが、俺は寝れずに、夜風を浴びにバルコニーに出ていた。
夜風が気持ちいい。
「あら? 北斗さん」
不意にミオから声がかかる。
「どうした? 寝れないのか?」
時刻は深夜をまわっているはずだ。
「ええ、少し……。北斗さん。本当に私を連れて行ってくださるのですか?」
「俺な、この数日見ててわかったんだ。ミオは両親から愛されているって」
そう、警備だったり一日講師だったり俺じゃなくても出来るはずだ。
おそらくミオを長く引き止めたかったのだろう。
「だから……」
俺は次の言葉を紡げなかった。
あまりにも、残酷で……
「そう……ですか」
「すまないな」
「いえ、北斗さん。2つだけお願いがあるのですが……」
「俺に出来ることなら」
「1つ目は私に……その、キスしてください」
は?
「別に口じゃなくていいんです。
だめ……ですか?」
くっ、そんな目で俺を見るな。
俺はミオに近付き、触れる程度に頬にキスをする。
夜風がさっきより冷たい気がする。
「そ、それで2つ目は?」
照れ隠しに聞く。
「2つ目は……また、ここに帰ってきてくださいね!」
「わかってるよ」
俺はミオの頭に手をポンと置いた。