19話:炎の舞、水のせせらぎ
「それでは準決勝! 生島選手 対 水橋選手 始めて下さい!」
司会の人が言う。
向き合う俺と水橋。
じりじりと殺気をぶつけ合い、牽制する。
先に動いたのは俺だった。
一気に距離を詰め刀を振り下ろす。
だが簡単に横に避けられた。
予想済みだ。
俺は次は刀を横に振るう。
態勢が整ってないので受け止めるしかない水橋。
ギリギリと刀身と槍の柄で鍔迫り合いをする。
ぐっと力を込め押す。
だが力は互角だ。
びくともせず、中心で動かない。
俺は力を抜き自ら力の均衡を崩す。
水橋は急に崩れた均衡にバランスを崩す。
俺は追い討ちをかけるように足払いをかける。
そのまま転けるかに見えた水橋だが、アシナと同じようにして受け身をとり距離をあけた。
「はっは〜!
楽しいぜ! 生島」
挑発のつもりか会話をしようとする水橋。
「ああ、そうだな」
律儀に応える俺。
「だがお前は本気を出していないはずだ」
……?
「どういうことだ?」
「とぼけるなよ。
あの試合で見せた力を出せ」
……ドラとゴンか?
まぁいい。
「ドラ、ゴン。
出番だぞ」
たしか名前を呼べって言ってたよな?
刀から光が2つ出て、地上に降り立った。
『呼ばれて飛び出て』
『パンパカパーン』
…………殴るよ?
お前ら。
『『マジ、すみません』』
口に出てたか。
「それだよ。生島!」
喜ぶ水橋。
「行くぜ! しずくちゃん? 実は炎爆陣はこういう使い方も出きるんだぜ♪」
何故に稲葉が出てくる?
だが槍の穂先から出てきた炎は真っ直ぐ向かってくる。
「ドラ」
ポツリと呟くと赤い方が俺の前に立ち、炎を飲み込む。
水橋は口笛を吹き、
「さすがだな」
まぁ……な。
下ではしゃぐこいつら見てるとさすがって言葉も皮肉に聞こえるが……
ちょっとここからは俺、水橋望視点で行かしてもらうぜ。
1.2回戦を軽々と突破して準決勝の舞台に立つ。
準決勝は生島が相手。
ワクワクしてきた。
1回戦で見せたあの圧倒的な力。
それをまざまざと今見せつけられている。
最初出会った時は2つ目も使えず足手まといだったはずなのに……
とんとん拍子に力を覚醒していきやがった。
悔しい反面嬉しくもある。
生島に黒甲冑に志摩姐さん……
世の中はまだ強い奴だらけだ。
そう思うと嬉しくなる。
そんな時だった。
槍が光り出す。
おぉ!?
生島も驚いて手を出さない。
柄に文字が刻まれる。
『参撃放つは業火の舞踊』
業火の舞踊?
槍の穂先と柄の先から火が出る。
……なるほど。
俺は頭の上で槍を回した。
全方位に火が広がる!
「ちょ、ドラ!
早く早く」
水橋の槍が光ったと思ったら炎が槍の両端から吹き出した。
それを頭上で振り回す水橋。
当然炎は全方位に広がる。
だから……
『こんなにいっぱい無理ですよ』
頑張れドラ!
急に炎が途切れる。
「どうした?」
俺は戦いの最中ということも忘れ声をかける。
「いや、これじゃ埒があかないからな」
そう言って槍を地面につける。
……?
「炎爆陣」
するとリングの四辺に炎が壁になり観客席とリングとを隔てた。
「ここでやれば逃げ場はねぇだろ?」
……やばい。
私は武道家大会を見に来ていマス。
戦う理由……それが見つかるかもしれないと思ったからデス。
そして1回戦で早くも心が動きマシタ。
生島クンの強さ、そして戦う理由……
すばらしいものだと思いマス。
そして今目の前で戦っている水橋クンも戦う理由がありマシタ。
私は……本当に逃げていただけデス。
でもこの勝負を見れば……何か分かりそうデス。
「炎爆陣」
え?
なんと見えなくなってしまったではありませんカ。
見たい見たい見たい見たい。
そんな気持ちが心に溢れてきます。
そして私は分かりマシタ。
今の私は……戦いを否定していないということヲ。
銃が光り出しマス。
銃身に刻まれる文字。
『参撃放つは大海原の揺らぎ』
大海原の……揺らぎ?
私はとりあえず銃を構え撃ちました。
すると、どういう原理かわからないデスガ、銃口とはくらべものにならない大量の水が、津波のように魔法防御膜をすり抜けて、リングに襲いかかりマシタ。
炎が全て消え2人の姿があらわになりまシタ。
……………………
え〜と、俺はたしかに炎に囲まれて、逃げ場なくてピンチだったんだ。
でもいきなり水が俺達に降り注ぎ……いや、襲いかかり、炎を消したんだ。
まぁ俺達もびしょびしょなんだが……
水橋ではないな。
あいつもきょとんとしてるし。
水だったら良平だよな?
見ると銃構えてるし。
「おい、良平何してくれんだぁ!!」
水橋も気付いたか。
「何勝手にあなた達だけで楽しんでいるんデスカ!?
私達も見たいデス」
正論だな。
これはあくまで大会なんだから。
それよりそろそろ再開しないか?
「だからってあんなことする必要ないだろぉ!」
早くしようぜ。
「あ! しずくちゃん。俺の活躍見ててくれた?」
……早く。
「もぉ最高だったでしょ!? でもまだ本気出してないんだよ!」
……
「それよりどう?
水も滴るいい男ってやつだよ。今の俺」
…………俺は無視?
「しずくちゃん!
優勝したらご褒美のキスお願いね!」
………………
……………………
俺は水橋に近寄り首に手刀をおとした。
気絶する水橋。
「み、水橋選手気絶! 生島選手、決勝進出!」
司会も戸惑う急展開。
当然会場もブーイングの嵐だ。
「準決勝がそんなんでいいのかー!」
「金返せー!」
「武道家大会なめんなぁ!」
ブーイングを起こした観客に俺のとった行動は一つ。
「うるせぇ!!!」
逆ギレだった……
こんなオチですいません。by作者
真面目にこんなオチですいません