18話:帝王来たりて
「ではこれより決勝トーナメント1回戦。 生島北斗選手 対 アシナ選手 を行います」
マイクを持った司会っぽい人が進行する。
予選と同じく20m四方のリングを観客席が囲んでいる。
観客席は魔法で守られているらしい。
そして俺とアシナは対面する。
俺はチラリと観客席より上にあるVIP席を見る。
賞品の姫がまだ寝ている。
……ったく、面倒かけやがって。
「それでは始めて下さい!」
開始の合図に反応し構えるが、相手は意外にも話かけてきた。
「お前……生島とか言ったな。
あの副賞の娘を取り返したいらしいな」
「なんで知っている?」
構えをとかずに言う。
スキを出すための罠だったら困るからな。
「なに、予選の最中に聞こえたのでな」
予選の最中って……戦いながら聞いてたのかよ。
「その様子では図星のようだな。
今回の大会は見たことの無い奴が3人も決勝トーナメントに進んできて何かと思ったが……
副賞も過去に例がなかったからな」
どうやら大会常連さんのようだな。
「まぁ、おおかた当たってる」
「そうか、だが負ける気はないのでな。いくぞ!」
構えるアシナ。
その瞬間纏っていた空気の質が変わる。
これは……闘気?
否、殺気だ。
どうやらマジに来るんようだな。
俺とアシナはほぼ同時に地を蹴り、互いの距離を詰める。
2つの影が交錯する。
皮一枚ってとこだな。
俺の肩は切れ、血が吹き出る。
アシナも同じだ。
すぐに向き直る。
腕は互角……いや相手が一枚上だな。
俺の方が踏み込みが甘かったのか傷が広い。
次は
「待ち」を選択した。
アシナはこちらに向かってくる。
俺はアシナの繰り出してきた一撃目を刀でいなす。
しかしアシナは逆の手で小太刀を握り放ってきた。
かろうじて避けた先には既にアシナの足があった。
蹴られ、吹き飛ばされる。
くっ、小太刀が厄介だな。
そして
「待ち」の選択肢はないな……
俺はよろよろと立ち上がり、構える。
ぐっと足に力を込め距離を詰める。
そしてアシナの前まで行くと、飛び越し背後をとる。
アシナは振り向き様に剣を横に振るがしゃがんで避け足払いをかける。
アシナはそれにかかって転倒するが地に着くか着かないかのうちに受け身をとり俺と距離をとる。
俺は慌てず次の行動に移った。
次は正攻法をとった。
距離を詰め、連続で刀を振る。
一撃、二撃、三撃と全て受け止められる。
やばい。マジ強い。
4撃目を放ち飛び退く。
刀4本分くらいの距離で睨み合う。
今気付いたが観客席は静まり返っている。
多分、声が出せないのだろう。
何せリングは今殺気がぶつかっているのだから。
俺はフラッとよろける仕草をフェイントに距離を一気に詰める。
刀を振り下ろすが、寸前で阻まれる。
だがここからが俺の狙いだ。
片手をパッと離し、よろけたアシナの腰にある小太刀をとる。
それに気付いたアシナは急いで距離をとる。
が、俺は抜き取った小太刀を投げつけた。
飛び退く最中だったアシナは身動きがとれず腕で庇うことになった。
これで左腕はつぶしたな。
「ちっ、思った以上にやるようだな」
戦いの間は一切口を開かなかったアシナが口を開く。
「しょうがない。
いつもなら決勝までは使わないんだが」
アシナの右腕が淡く光る。
「ヒール」
ヒール?
どっかで聞いたことあるような。
……………………
はっ!?
よくある回復呪文の名前じゃねぇかぁ!
すると小太刀が抜け落ち、傷がみるみるうちにふさがった。
……反則だろ。
「魔法あり、だからな」
口に出てたか。
しかし……
「勝ち目ねぇじゃねえか」
だって怪我もすぐ治るんだろ?
「一気にけりをつければいいんじゃないか?」
簡単に言うなよ。
あんた自分の実力わかって言ってるだろ。
「まぁもっとも次で決着がつくだろうがな」
なんで?
「フレアランス」
再びアシナの手が淡く光り、炎が出る。
マジ?
炎はものすごいスピードでこちらに迫り俺の体を貫いた。
他人事みたいに言ってるけど実際はものすごい痛い。
俺の本能が体を動かし、なんとか意識をつなぎとめているという状態だ。
「急所をはずしたか。だがもう終わりだ。あきらめろ」
たしかに、な。
そんな時、志摩さんの声が響き渡る。
「生島ァ!!
いいのか!?
新島が遠くへ言ってしまうぞ!!」
…………そうだ。
俺の本来の目的。
姫…………
痛む体を無理やり立たせる。
「何が、お前をそこまでさせる?
下手すれば死ぬぞ」
たしかに、な。
だが……
「俺は……姫を守るって決めたんだ!!」
すると、刀が光る。
この現象は……
刀身を見る。
徐々に刻まれていく文字。
『参撃放つは降臨せし帝王』
帝……王?
また刀身が光る。
目も眩むような光だ。
光が晴れると目の前に2つの小さな影が。
え〜と……何?
『俺達は……』
影の一つが喋る。
よく見ると、すべすべした体表に、つぶらな瞳がちょこんとついている。
小さな足、腕、尻尾。
背中には申し訳程度に翼がついている。大きさは俺の膝までくらいだ。
今、しゃべったのが青色で、
『私達は……』
今、しゃべったのが薄い赤色だ。
『『龍だ!』』
…………………
「「は?」」
俺どころか、アシナ、観客全てがハモって素っ頓狂な声をあげる。
「いいか? 龍ってのはウロコびっしりのもっと大きい蛇みたいなのを言うんだぞ? お前らぬいぐるみじゃねぇか。
つぅか、どっから湧いてきた?」
俺の問いに無言で刀を指す自称龍達。
………………
勘弁してくれ。
こっちは死にそうなダメージ受けてんだぞ?
帝王って刻まれてんだぞ?
くそったれ。
もうやけくそだ。
一か八かの特攻だ。
相手が油断してると思ったからな。
しかし、さすが熟練。 すでに構えていて、手のひらをこっちにかざしている。
「これで終わりだ。フレアランス」
炎が迫る。
しかしさっきでてきた赤色の方が俺の前に立ち、炎を呑み込む。
うそぉ!?
驚いたのは相手も同じでその場で呆然と立ち尽くしている。
俺は気を取り直し、再び接近を試みる。
近付き、袈裟掛けに斬るがアシナは難なく避ける。
そして態勢を立て直せない俺に剣が振り下ろされる。
しかし今度は青色が俺の前に立ち、防御膜みたいなので剣を防いだ。
今度は相手が驚いたスキを見逃さず、刀を振るう。
かろうじて受け止めたアシナだが吹き飛び、観客席の手前で何かに当たり、そのままぐったりとなった。
「アシナ選手気絶!! 生島選手の勝利!!」
司会の声を最後に俺は気を失った。
目を覚ますと白いベッドの上だ。
体の痛みは……ない。
上半身を起こし、まわりを見る。
どうやら医務室のようだ。
しかし、消毒液の匂いはしないな。
『おう、起きたか』
『起きられましたか』
室内に2つの高い声が響く。
「なんなんだよ、お前ら?」
『『龍』』
………………
まぁいい。
それより、
「じゃあ、さっきのはなんなんだ?」
あの魔法と剣撃を受け止めた……
『あれは、俺達の能力だ。俺が打撃を』
『私が魔法を止めるんです』
便利だな。
刀からでてきたってのもあながち嘘じゃなさそうだ。
『それでは、私達は戻らせていただきますね』
『今度俺達が必要な時は名を呼びな。俺はゴン』
『私はドラ』
そういって2匹は光になり刀に戻った。
2匹あわせて『ドラゴン』ね、てバカ!
…………………
む、むなしい。
にしても、あれが帝王なのか?
なんか納得いかないが……
ところで……
「ここ、どこだ?」
声に出してみる。
まぁ、医務室なんだろうが……
「起きたか。生島」
志摩さんが入ってきた。
「志摩さん、俺どうなった?」
「ん? 勝ち進んだぞ。今は一回戦が全て終わったところだ」
「次の試合は?」
「1時間後だ。
それより生島、お前に言ってなかったことがある」
……?
「何?」
志摩さんは頬をポリポリと掻き、
「実はな、新島が副賞になったのは私がそう仕向けたんだ」
……………………
え? ええ?
「マジ?」
「ああ」
怒るより先に疑問がわく。
「どうやって?」
「ん? 大会運営委員会に行って、脅したんだ」
「…………」
すげぇ。
まず異世界なのにそんなことできるってのがすげぇ。
でも……
「なんで?」
「それについては全員が揃っている時に言いたいが。
まぁ各々の強化を図るためだ」
「たしかに強くなったけどさ」
あの2匹の龍は形はともかく能力はすごいと思う。
「私はちょっとしたことで神器について情報を得たのでな。だからどうなれば強化できるかが分かったんだ」
「へぇ」
納得と同時に怒りがこみ上げる。
「もし、俺が勝たなかって姫がどっかいったらどうするつもりなんだよ?」
「私が優勝しただけの話だ」
すげぇ自信。
「でもこれからもまだ優勝できるって決まったわけじゃないぞ?」
「それに関しては心配ない。必ず私か生島か水橋が優勝する」
「なんで言い切れるんだ?」
「まぁ次の試合で分かるさ」
……まぁいいか。
「さぁ、第2回戦を始めたいと思います!!」
1時間後、俺は再びリングに立っている。
怪我は魔法で治したようだ。
魔法ってすげぇな。
「それでは第2回戦始め!」
俺は構えるが相手は何故か様子がおかしい。
「どうしました?」
司会が聞く。
「こ、降参します!」
えぇ!!?
「おおっと、降参するようです!
生島選手の勝利!!」
……めっちゃ不完全燃焼って感じなんですけど。
「な? 心配ないと言っただろう?」
リングを降りると志摩さんから声がかかる。
「なんで?」
「お前は1回戦で優勝候補筆頭のやつを最後は圧倒的に倒したからな。並のやつは逃げ出すに決まっている」
なんか納得いかないなぁ。
「そういうわけだ。だからお前は次の水橋相手の準備でもしておけ」
その後水橋も試合に勝ちすすみ、次は俺と水橋の試合になった。
……あいつと本気でやるのって実は初めてなんだよな。
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