16話:戦いの後
ふむ……
お?
今回は私視点か?
何? 最初ちょっとだけだと?
……まぁいい。
今は森の中だ。
で、目の前には生島、水橋、良平、稲葉が気絶していて、新島とイリエがせっせと介抱している。
急な展開に私も少々動揺している。
急に訪れた世界。
そして急に現れた敵……
おそらくは私でもてこずるだろう強さだった。
しかしこの世界、いや、少々前から気になっていることがあるのだが……
「イリエ」
「なんでしょう?」
「少し聞きたいことがある。
ちょっと来てくれ。新島! そいつら頼んだぞ」
私達は少し離れたところに来た。
「なんですか?」
突然のことに訝しむイリエ。
「単刀直入に聞こう。貴様……何者だ?」
私が気になっていた疑問、イリエという女は何者かということ。
「何をいきなり」
バン、とイリエの顔の近くの木を叩く。
「ふざけるなよ。
貴様のことはずっと気になっていたんだ。
都合よく現れ、都合よく仲間に入り、都合よく森の構造も知っている。
偶然にしては出来すぎている。
何が目的なんだ?」
するとイリエはニヤリと笑う。
「さすがですね。
この一行の中で、一番勘の鋭そうなあなたの前ではボロを出さないようにしていたのに」
「前置きはいい」
「はいはい。
まず言いますと、私は敵ではありません。
というより別の目的があって動いているんです」
「ほぅ」
「そしてあなた達といた方が動きやすいんですよ」
「なるほどな……
私達に言ったことも全て嘘か?」
「いいえ、魔城へは私の言った通りに行けば間違いなく着きます。私のついた嘘はひとつ……神器についてのみです」
「それを言え!」
「分かりましたよ。神器について私は文献を見なければ分からないと言いましたが、嘘です。
神器とはその人の心、すなわち神器に触れた最初の瞬間にその人が触れた一番強い意識が具現するんです」
つまり生島は新島を守りたい気持ち。
水橋は闘争心。
良平は前向きな心。
……か。
「そしてそれがいっそう強くなった時、神器に文字が刻まれ、新たな力が覚醒するんです」
なるほど……
「しかし、何故そんなことを教えるんだ?」
「ギブ&テイクですよ。私はあなた達に付いて行けば動きやすい。あなた達は情報が手に入る。
お互いが得するでしょ?」
なるほど。
こい つはとんだ曲者だな。
しかし……
個々の力を上げるにはどうすればいい?
生島は新島を守らせる。
水橋は強い相手をぶつける。
良平は前向きに考えさせる。
3つを一度におこなうには……
ふむ。
難しい問題だな。
「志摩先生、イリエさん、北っくん達が目を覚ましたよぉ!」
負けた……
俺が最初に思い浮かんだ言葉はこれだった。
目を覚ますと姫達が介抱している。
だが俺は何も行動する気が起きない。
ただの負けじゃなかった。
圧倒的な……力の差。
最後の一撃は別だった。
受け止めたはずだ、という疑問より先にくる自責の念。
守れなかった。
以前に志摩さんに負けたのとはまた別格だ。
下手すれば姫がこの場からいなくなっていたかもしれない。
どうすれば……いいんだろうな。
「簡単な話だ」
最後だけ口にでていたのか、志摩さんが応える。
「相手より強くなればいい。
私達が何も心配しないほど強く……といいたいところだが、貴様、前言ったことを覚えているか?」
「俺の……本分」
「そうだ。
それを考えろ。
貴様にその決意はあるかどうかは知らないがな」
俺の決意。
あの日誓った決意。
よし!!
「志摩さん、俺まだ覚悟がなかったよいだよ」
そして力も……
「ああ、不足を感じたならいつでも私のところに来い。
いじめぬいてやる」
……志摩さん、台無しだよ。
俺は他の奴らを見る。
良平、水橋は相当落ち込んでいるようだ。
まぁいきなり倒されたのだからな。
「ぐずぐずしてるヒマはねぇ!
行くぞ!!」
志摩さんが言う。
あの人も2人のことをそれなりに気を使っているんだろう。
行こうとして立ち上がる。
「北っくん〜!!」
……………………
「またおんぶか?」
「うん!」
はぁ。
まぁしょうがない。
「ねぇ、北っくん」
その真剣な声に思わず耳を傾ける。
「次は怪我しないでね? ほんとに……ほんとに心配だったんだから!」
そう言って俺の背中に顔をうずめる。
…………
「次は心配させないから」
ボソッと言う。
「え? 何? 北っくん」
「なんでもないよ」
「うそだ!
なんか言ったよ!
教えてよぉ!」
「ちょ、首絞めるな」
何もできなかった。
気付いた時にはやられてた。
これは……悔しいのか?
いや、うれしいんだ。
世の中は広く果てしない。
つまりまだまだ強いやつはいるんだ。
そう思うとチンピラ倒していきがっていた自分が情けなかった。
やっぱり、悔しいんだな。
しみじみ感じる。
だが……
「次は負けねぇ」
軽く決意した瞬間だった。
……はっ!?
「しずくちゃ〜ん!怪我してない?」
しずくちゃんが心配で抱きついちゃう俺。
「はぐぁ」
また金蹴りですか……
涙をぐっとこらえる。
「す、すまない」
おや? 珍しく素直に謝るんだねぇ。
「だ、大丈夫だよ」
なんでだろ?
しずくちゃん見てたらなんか悔しさがこみ上げてきた。
思わずもたれかかってしまう。
「ごめん、しずくちゃん。もう少しだけこのままで……」
珍しくしずくちゃんは何もしなかった。
「ぐずぐずしてるヒマはねぇ!
行くぞ!!」
志摩姐さんの号令でみんな歩き出した。
世界は広い。
だが俺はまだまだ強くなる!
最近は少しは慣れてきたつもりデシタ。
戦うという行為。
もともと内気な私はあまり好きではありまんデシタ。
そして今日、それがいっそう強くなりましタ。
私はどうすればいいでショウ?
「ぐずぐずしてるヒマはねぇ!
行くぞ!!」
志摩先生の号令に私は気乗りしないながらも歩きだしましタ……
おぉ! でっけぇ。
森を抜け、少しいったところに魔法都市はあった。
全体的にカラフルだ。
まだ中はあまり見てないが、大きな建物がいくつもある。
すげぇ。
なんかワクワクしてきた。
「わぁ!
北っくん! あとで買い物行こうよぉ!」
姫も同じようだ。
でも……
「姫、俺ら金無いだろ?」
「あ」
すごいがっかりする姫。
う〜ん、どうしたものか……
その時ふとあるポスターに目が留まった。
『年に一度の武道家大会!!
魔法ありの戦いを勝ち抜くのは誰か!?賞金1120G!!
参加者募集中!』
これだ!
俺達はこの大会に参加することにした。
若干志摩さんが
「使える」
つぶやいた言葉が引っかかったが金、力が欲しい俺達にはとてもうれしい行事なので、参加する。
だが……
「ほんとにいいのか? 良平。参加しなくて」
「ハイ、気にせず頑張ってくだサイ」
……まぁ、体調でも悪いんだろう。
ってことにしておく。
しかし……
「やばい。
ワクワクしてきた」