15話:黒との邂逅
オーク達にもらった果物を朝食に、俺達は下山を始めた。
ここで一つの疑問が……
「姫、何故俺の背中に乗っている?」
そう、昨日と同じように姫が負ぶさっているのだ。
「気分! いいでしょ、女の子とこんなに密着できるなんて貴重だよ〜?」
こいつ、俺が昨日から意識しないようにしてたことを……
やばい背中の感覚が……
「やかましい!
お前なんか昔から知ってるから嬉しくないんだよ」
強がりを言ってみる。
つぅかおぶっているから必然的に耳元で声が聞こえるんだよ。
「そんなことないもん!!」
「鼓膜破れるだろがぁ!!」
「「ふん!」」
まったく……
憂さ晴らしに姫を落とそうとする。
「や〜!!」
……俺って学習能力ないよな。
「首しまるって!」
「北っくんが手を離すからでしょ!」
お前がおぶさるからでしょ!
「ほんとに仲いいのな、お前ら」
じたばたしてる俺達に水橋から声がかかる。
「仲がいいように見えるのか?」
「ああ、とてもな」
そういえばこいつ最近俺達にからんでこないな。
……あ、稲葉がいるからか。
「お前は稲葉のところに行かなくていいのか?」
「私ならここにいるが?」
うわっ?!
いつの間に俺達の隣に。
「先ほどからずっといるんだが」
口に出てた。
まったく気付かなかった。
「気配を消していたからな」
また口に出てた。
つぅかさすが暗殺者。
「しずくちゃ〜ん。こっちきて一緒に歩こうよ〜」
そういえばこいつって女口説く時の特有のさむい言葉を稲葉にはいわねぇな。
……心底惚れているからか?
まぁとりあえず……
「あ〜、そういうのはどっか向こうでやってくれ。
俺このバカだけで精いっぱいなんだから」
「ちょっと北斗!!バカって私のこと!?」
「急にキャラを変えるな!」
「えへへ〜」
えへへ、じゃねえぞ。
…………
「2人ともなんでそんな真剣な顔で俺達を見てるんだ?」
「な、なんでも。(俺もしずくちゃんとあんなことしたい)」
「私もなんでもない。(うらやましい……)」
バレバレだなこの2人。
「ほら、散った散った」
離れていく2人。
しかし、あの2人が素直になる日も遠くないな。
「しずくちゃん!
俺達も……ぐはっ」
訂正。
やっぱ稲葉が素直にならないとダメだな。
しかし……
「しずくちゃん。
真面目にそこはやめて。男としての機能なくなりそうだから」
そう、それだ。
見てるだけでも背筋が凍るぜ。
ところで良平は……
イリエと道端の植物についてなんか語っている。
こっちもいい雰囲気だ。
……あれ?
「志摩さんは?」
「呼んだか?」
どわっ!
「し、志摩さん。
なんで土の中から出てくるんだよ?」
「こっちの方が安全だからな」
もうつっこむのめんどくせぇよ。
つぅか志摩さん、人間か?
そんなこんなで順調に下山が進んだ。
「ここが『ストレイ森林』か」
目の前には鬱蒼とした森林が……
まだ朝だというのに木の影で中は薄暗い。
なんつぅか……
「激しく入りたくないなぁ」
「何言ってるんですか? ここは避けては通れませんよ」
使い方違う気が……
「わかってるよ」
俺はいやいやながら森林の中に歩を進めた。
「うわ〜、迷いそうなことで」
森の中は相当入り組んでいる。
「ここは迷いやすいですから、離れないでくださいね」
「「は〜い」」
遠足気分か!?
森に入って30分ほど経ったころ。
「なぁ、まだ出ないのか?」
「まだですよ。
だってここ専門の人がいないと道が分からないくらい入り組んでいるんですから」
「マジで?
んじゃ、イリエってここ来たここあるの?」
「ええ、南と北は小さい頃から何回も往復していますから」
はぁ、すげぇな。
つぅか
「イリエさんと会ったのは幸運としかいいようがないですネ」
うん、まったくだ。
「ならば、その幸運もここで尽きたな」
突然かかる謎の声。
聞いた瞬間に思わず背筋がゾワッとなった。
「なんだ?」
出どころの分からない声に俺達は警戒し、臨戦態勢に入る。
「なんだか知らないが出てこいよ!」
「出てこいと言われて出てくるバカはいないだろう?」
正論だな。
「だが今は出てきてやろう」
んじゃ、あんたバカってことじゃ……
出てきたのは全身を黒甲冑に包んだ……男?
「へぇ、重くないの? そんな鎧着て」
相手の素性が分からないので挑発をしてみる。
「どうかな?
少なくともお前達よりは速く動けると思うぞ」
そう言った瞬間黒甲冑の姿が消える。
「なっ!?」
驚いたのもつかの間、隣にいた良平と水橋が吹っ飛び木にぶつかる。
「良平! 水橋!」
そして次は稲葉が飛ばされる。
「稲葉!」
「他人の心配をしてる場合じゃないと思うぞ」
耳元で囁かれる声。
「……!?」
とっさにガードし、吹き飛ばされるのを防ぐ。
「ほぅ。
少しはやるようだ」
鍔迫り合いをしながら男が言う。
「な……んだよ。
お前……何者だ?」
やべぇ。
力強い。
「知る必要はない。ここで死ぬのだからな」
「お決まりのこと……言いやがって!」
弾き返し斬る。
しかし刀は空を斬った。
男は既に数歩の差をあけて立っていた。
確認した次の瞬間、視界が黒に染まる。
次は不意打ちなんざ喰らわないぜ!!
俺は黒甲冑が繰り出した刀を避け、そのまま斬った。
金属の触れ合う音がして刀が弾かれる。
ちっ、予想より硬いようだな。
「いくら神器とはいえ、この鎧は簡単には斬れん」
神器のこともお見通しか……
こりゃ敵の重役が出てきたな。
「うぉら!!」
立っていた黒甲冑がいきなり吹っ飛ぶ。
ナイス! 志摩さん。
「くっ、ギャラリーはいらん」
再び黒甲冑の姿が消える。
志摩さんは心配ないが、
再び森林に金属の触れ合う音が響く。
「こいつだけはやらせねぇよ」
姫を背に刀を防ぐ俺。
「ほぅ……」
「志摩さん。
ちょっと引っ込んでてくれないか?」
ちょっと俺の禁忌に触れたからな。
「フッ、いいだろう」
「姫に手を出す奴は許さねえ!」
俺は刀で空を斬る。
紫の衝撃波が黒甲冑を襲う。
しかし黒甲冑はそれをかろうじて回避した。
「今のは……!?」
黒甲冑の肩の部分が斬れた。
「この『血煙の鎧』をも斬るか。
だが、次の段階はまだのようだな」
へぇ。
次がまだあるんだ。
「そんな余裕でいいのか?」
「ふん、あんなもの2度と当たるか」
……たしかに。
だが
俺はもう一度空を斬る。
紫の衝撃波が黒甲冑を襲う。
黒甲冑は苦もなく避けた。
しかしそれも予想済みだ。
わざと誘い込むように放ったので、避けた先に先回りし、斬る。
三度響く金属音。
やっぱり直接は斬れないか。
すぐさま態勢を立て直し、次の攻撃に備える。
だが黒甲冑は飛び退き距離をとった。
「なかなかやるようだ。
ならば……開け」
黒甲冑の謎の言葉と共に、黒いオーラが湧く。
「貴様はたしかに少しはやるようだ。
だが……魔法というものを知るべきだったな」
俺は黒甲冑の刃を受けたはずだった。
しかし、吹き飛ばされる。
木にぶち当たり、昏倒しそうになる。
朦朧とした意識の中、黒甲冑の声が響く。
「神器を継ぎし者よ。意識あるなら聞くがいい。我が名はシナトラ。『血しぶきの剣』と『血煙の鎧』を継ぐ者だ。
神器とは何か。知りたくば魔城に来るがいい!」
それだけ聞いて俺の意識は闇に堕ちた。