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89.暗殺の結末

切っ先の向こう側にいる思い人の姿を、アマカはじっくりと観察する。あと一歩、あと一太刀、それがアマカの余力だった。ジークはちぎれかけた左腕で、剣をしっかりと支えている。見れば、強化を示す紫電が、左腕にだけ妙に集中している。そして、鼻腔をくすぐる、香ばしいが、生々しい香り。そのことを察して、アマカは片頬を吊り上げた。


「甘い人かと思っていたら、あなた、私より壊れているのね」


 ジークは答えない。その瞳は虚ろで、呼吸すら感じさせない。左腕からは出血もなく、死体が立っているかのようだ。バチリ、と一際強く紫電が迸り、左腕がピクリと動く。ジークは左腕に電流を流し、無理矢理に筋肉を動かしているのだ。魔力の制御など考えない荒技、身の危険など顧みない技術。刻一刻と雷はジークの体を侵している。だが、仮に脳が焼き切れたとしても、彼が倒れることはないだろう。と、突然ジークの右腕が動き、左腕の傷口を抉り、血をまき散らした。狂気の沙汰としか思えないその行動に、しかしアマカは動かない。血で出来た球体を見上げながら、動く瞬間を見極めようと視野を広く持つ。すると、重力に従い落ちるはずの血液が空中でピタリと止まっていた。アマカは体を強張らせ、警戒を強めると同時に、踏み込むべく足に力を込める。血が極小の魔方陣を描くのを見たと同時に、アマカは屋根を蹴った。無数の朱い刃がアマカに降りかかる。それ一つ一つは、ガラスの破片程度のもの。だがその密度は、弾幕と言って差し支えない。着物を裂き、元の血液に戻りながらアマカの血と混じり合い着物を赤く染めていく。じくじくと傷口が痛むが、そんなものに構っている余裕などない。顔だけは刀を持たぬ左手で守りながら、それでもジークの姿を捉えるのをやめない。そしてついに、アマカは血の弾幕から抜け出した。


「ああああッ!」


 咆哮と共に、赤い軌跡を描きながら刀を振り下ろす。なんの衒いも無い、単純な斬撃。それは無慈悲に、雷を纏うジークの剣で払われた。


「ぁ……」


 小さく声を漏らしながら、屋根の上を転がり、自由落下する。もう風で体を浮かせて衝突のショックを殺すことも、強化をかけて着地することも出来ない。内臓が傷ついていたのだろう、血液が口から漏れてくる。死を覚悟したその時、月を隠しながら、アマカに飛びかかってくる影があった、ジークだ。その手には剣を持ち、瞳は虚ろのまま。アマカは自分にとどめを刺しに来たのだと直感し、彼に殺されるなら本望だと笑う。屋根を蹴りながら飛びかかってきたジークはすぐにアマカに追いつき……そっと口元の血液を拭った。


「血よ、この者を縛り給え」


 ジークが静かな声が響き、魔方陣が描かれると、空中から糸が飛び出て、地面すれすれでアマカを浮かせた。ジークは剣を地面に落とし、浮いたアマカの上に倒れ込む。


「無防備な人。今なら殺せそうだわ……いえやっぱり無理か。体が動かない。なにげにしっかり拘束してあるわ。私も下手ね、どうも」


 そもそも気配を消さずにジークに近づいた時点で、暗殺者としては敗北だったのだ。糸で出来た窮屈なベッドで、アマカはため息を吐いた。

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