4.城下の仕事
「さて、君は居候をするということだが、何かしらの仕事をしてもらった方が、私としては助かる」
昼食の片付けが終わると、メディがそんな話を持ち出してきた。
「候補としては2つだ、1つめは私の実験の助手兼実験台兼実験対称、もう1つはこの城下町にある冒険者ギルドに登録して、そこの依頼をこなし、収入を得ること、さぁどっちがいい?」
「2つめでお願いします」
即答だった。
「なんだ、残念だな。収入を得るなら、自分の食いぶちくらいは稼いでくれよ、魔力が化け物じみているのは知っているが、武器の1つも持っていないようでは、期待できそうにないが」
自分の希望が通らなかったのが不満なのか、メディは意地悪くジークを睨む。
「武器ならありますよ?」
そう言ってジークは事も無げに虚空から銀色の大剣を取り出した。
「なぬっ!?」
メディの口から間抜けな声がもれる。ジークは当たり前のことをしていると思っているため、首を傾げた。
「お前……それをどこで覚えた?」
「えっ?」
今までと違う、問い質すような口調に、ジークは竦む。
「それは、空間収納という、失われた魔法のはずだ、なぜ私と歳のかわらぬお前が使える?」
「し、知りません、気付いた時には使えるようになってたんです」
子供が親に言い訳をするように、俯いて首を振りつつ、ジークが答える。メディは満足こそしていないようだったが、雰囲気をいつものものに戻した。
「お前がそう言うなら私はそれでいい。だが、他の人間の前でみだりにそれを見せるな、鞘があるならそれを使え」
有無を言わせぬ物言いに、ジークは言う通りに鞘も取りだし、その中に剣を納めた。
「お前が規格外なのはわかった。私は諸用があるからギルドに行っておけ、この辺りじゃ城を除いて一番大きな建物だ、ここから出て少し歩けば見えてくるはずだ」
言ってから、メディは2階へと消えた。1人残されたジークは不安に駆られつつ、メディ宅を後にするのだった。
ギルド自体はすぐに見えたが、そこまでの道のりは見た目より遠く、歩き慣れない道を進んでいると正しい道なのかわからなくなったが、それでも10分もすれば到着するような場所だった。
建物の大きさの割に人2人がなんとか通れそうな扉を開けると、アルコールの匂いと男衆による熱気がジークを襲った。ジークの姿を確認した筋骨隆々の男が、口から酒の匂いをさせつつ近づく。
「おいおい坊っちゃん、ここはアンタみたいな優男が来る場所じゃないぜ、仕事を探すなら他所へ行った方が身のためだ」
ジークは礼を重んじるタイプだが、相手が軽んじる者ならば話は別である。男を無視して、カウンターへと歩み寄る。
「無視かい?おっと、良く見りゃいい剣持ってるじゃねぇか、ちょいと見せろよ」
男がジークの背にある剣の柄に手をかけ、引き抜こうとする。しかし、剣は鞘に溶接でもされたかのようにびくともしない。
「あのなぁ坊っちゃん、いくら良い武器でも、使えなきゃ意味ないんだぜ?」
笑う男の手を柄から払い除け、右手で柄を持ち、派手な音と、雷電の如き早業で引き抜き、男の首へと持っていく。
「お兄さん、僕は貴方のような人が構うような者じゃないですよ、喧嘩を売るなら他所へ行った方が互いの得です」
男の台詞を皮肉るように、冷たい目でジークが睨む。男はばつの悪そうな顔をすると自分のいた席に戻っていった。
ジークは溜め息を1つ吐き、カウンターにいる受付係のもとへと歩を進める。
「すみません、お騒がせしてしまって。えっと、登録っていうのをしにきたんですけど」
「はい、メディさんからご紹介を貰っています」
メディの名前が出ると、周囲からざわめきが起きた。ジークはそれより、受付係の動じなさに驚いたが。
「登録はこちらで済ませておきますから、メディさんからの依頼をこなしてみてはどうでしょう」
ここに来て、メディの諸用というのがこのことだったのだとジークは気付いた。根回しの良さに感心しつつ、ジークは依頼に目を通すのだった。