1ー6 開戦の調べ
そうして秋葉原から歩いて俺たちは、本拠地があるらしい市ヶ谷の防衛省跡に向かった。戦争によって建物は跡形もなくなったが、竜二の仲間の大地を操る能力を持つ人と何人かで新たに拠点用の建物を作ったらしい。拠点といっても人が機械無しに作れるものなんてたかがいれていると思ったが、竜二に言わせると、なかなかどうして大したモノらしい。そんなことまでできるなんて本当に異能力ってのは凄いもんだ。
俺もそんな能力が使えるだなんて未だに信じられない。本当に俺にも使えるのだろうか。
どこを歩いて見ても焼け崩れた文明の残骸しか目に入らない。かつては天を衝くような高さに感じたビル群達も今は鳴りを潜めてる。開けた空は、こんな時でも心を癒してくれるらしい。
息がつまるように感じた都会の空気は意外なほどに澄んでいて、人類はこの星にとってのウイルスだったのだと言われているようだった。
「東京ってこんなに広かったんだな」
「ああ、何もなくなっちまったからな。でもなんかスカッとした気がするよ。息が詰まるからな、人の多いとこってのは」
「わからなくもないけどな。あんたはそんなこと気にしないで生きてると思ってたよ」
「色々あんだよ、大人になるとな」
「そんなもんなのかな」
「そんなもんだよ。ならねえ方がいいぞ、大人になんてな。つっても今の世界じゃ子供のまんまじゃ生きていけねえけどな」
「どうすりゃいいんだよ…」
苦笑しながら俺が言うと、竜二はまたいたずらな笑みを浮かべた。
「さて無駄話もこのくらいにして…っ!?」
辺りの空気が一変したのがわかった。先ほどまでの澄んだ空気はなく張り詰めた緊張感が漂ってきた。先ほど感じた竜二の殺気とは全く違うドロドロとした粘つくような殺気だ。
「累、下がってろ。どうやら敵さんのお出ましだ」
「敵ってこんなとこでいきなり仕掛けてくんのかよ!?」
「ああ…警戒はしてたんだがな。情報が漏れてたか、奴らの情報網が思いのほか広かったってこったあな」
この世界に生きるうえで、体験したことがあるものなどいなかったであろうウェイザー同士の戦いが今始まる。