1ー5 嘘と悲しみ
覚えているのは、逃げ惑う人々と響き渡る人々の悲鳴。切り裂かれ押し潰され、死んでいく。
地面は血で染まり、見える全ては地獄と化していた。
「いや…何にも覚えてないな…」
しかしそれを口にしてはいけないのだと、何かが語りかけていた。
言ってしまえば、何か知りたくないことを知ってしまうような、そんな何かが。
「…そうか、まあ仕方ないな。ただ何か思い出したら言ってくれ」
「それで、その異能力が敵とどう繋がるんだ?」
「簡単に言えば、その人知を超えた力を使って良からぬことを企んでる奴がいてな。そこの奴らと俺たちが敵対してるって訳だ」
「なるほど…どんな状況でも悪いことを考える奴はいるってことか」
「そういうことだ。とりあえず説明は以上だな」
「わかった。それで?これからどうするんだ?」
「そうだな。とりあえずおまえも一緒に仲間のところに来てもらう。このまま一人でいたところで敵に殺されて終わりだからな。能力も使えない、情報もないお前じゃ良くてサンドバッグになるのがオチだ」
「ひどい言われようだな…でもまあその通りだな。じゃあついていくことにするよ」
「よし、それじゃあ…そういえばお前、記憶がないのはわかったがその前はどうしてたんだ?」
「戦争が始まる前は高校生だったよ。ごく普通のなんの取り柄もない一般人さ。始まった後は…そうだな。なにもかも突然すぎて本当に現実なのかわからなかった。両親は死に妹も死んだ。信じられなかった。だってそうだろ?つい数日前まではまるで平凡なありふれた日常だったんだ。それが一瞬で失われたんだ。悪夢なら早く覚めてくれって思ったよ。でも今ならわかるよ、全部…全部現実なんだ」
「ああ…そうだな」
竜二はタバコの煙を燻らせながら、遠くを見つめているようにそう言った。
「なんだよ、気ぃ使ってくれてんのか?」
「馬鹿野郎、こんな世界で家族やらなんやらを失った奴なんざ珍しくもねえよ。ただ…まあ気持ちはわかるさ」
「そうか、あんたも…」
「まあよくあることさ、気にするほどのことでもねえ」
そう話す竜二の顔はどこか悲しそうで、俺はそれ以上何もいうことができなかった。
今回も短めで申し訳ありません。
加筆してもあまり増えませんでした(^◇^;)
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