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世界の終わりから  作者: 灰羽 中也
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1ー1 始まりの時

  2062年、地球では第三次世界大戦が勃発した。食料不足や人口の過増により引き起こされたその戦争では、大量の核兵器が使われ、そして多すぎる命が奪われた。膨大な放射線は世界中に広まり、地球は余すところなく汚染されてしまった。ロシアにより新しく開発された凄まじい破壊力を誇る核兵器は特殊な放射線を撒き散らし、浴びたものは二日と持たずに死に至る。


  大陸の全土は荒地と化し、生きとし生ける全ての生命にとって暮らすことのできない大地となった。


  ある一部を除いては。


  膨大な量の放射能によって突然変異した遺伝子『アスニック』をもつ異能力者、通称『ウェイザー』


  彼らは人間離れした身体能力をもち、そして固有の特異能力を持つ。ある者は炎を操り森を焼き、ある者は大地を動かし地割れを起こす。時には人とは思えぬ偉業に変化する者もいるという。

 そしてここ日本には、全世界の生き残りであるおよそ60人のウェイザー達が集まろうとしていた。

 残された彼らは一体何を成し、そして何を思うのか。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「あー…体いってぇ…」


  とある廃ビルの一室に、少年『咲坂 累』はいた。

 彼は戦争が起こる前までは、私立の高校に通い、友達と遊び、恋愛をしたり、といったごく普通の少年であった。戦争が終結し(勝戦国も敗戦国も無いような結果であったが)、なぜか廃ビルで気を失っていたところであった。


 目覚めた時、辺りは酷い様相であった。ガラスの破片だらけの中に焦げた様々な機器などが散乱している。

 体は怠く、鈍い頭痛がガンガンと響いている。


「ここは…ビルか。なんでこんなところにいるのか、あんまり記憶がないけど…周りがやけに静かだな」


  すっかり凝り固まった体と頭痛に文句を言いながらもガラスのない窓に近づき、外を見渡す。道路には赤黒い血の後と、ぐしゃぐしゃになった人の姿がある。


「――っ!死体しかないじゃないか、戦争は終わったのか?」


 辺りに生存者らしき影はない。まさかとは思うが自分だけが生き残ったのだろうか。いや、きっとどこかに俺みたいに残っている人がいるはずだ。

 

 戦争が終わったのだとしたら、もう外に出ても問題ないだろう。音がしない世界は酷く心細い。仲間を求めて外に出るべきだ。


 そうと決まればと、出口に続く階段を探し、辺りを見渡す。幸い、階段は崩れていないみたいだ。



「それにしてもビルの壊れ方がなんか不自然だな…大きな切り傷みたいなのがあったり、上から押しつぶされたような後があったり、兵器なんかとは違う、別の力が働いたようなーーぐっ!」



  突如、脳裏に映像が浮かぶ。人が死ぬ。見知らぬ人達がが自分の目の前で、まるで映画のように死んでいく。あるものは何かに押しつぶされるようにして、そしてあるものは体をまっぷたつにされて。内臓は飛び出て、白く見えるはずの骨は血に染まって真っ赤だ。原因はわからない。だが超常現象のようななにかが起こっていることは間違いない。


  でもなぜだろう?みんな、こちらを見ている。怯えたような目で、ありえないものを見るような目でこちらを見ている。その顔は恐怖に歪み、血と涙と鼻水で汚れている。こんな表情を向けられることなんて普通に生きていればないことだ。そんな顔もすぐに潰され、人ではないナニカに変わる。そして現実に戻る。



「ーーはっ!今のは…なんだ?映画みたいな…でもまるでこの目で見たような光景が、頭の中に……っ!うオェッ!」



  原型のない吐瀉物がびしゃびしゃと音をたてて胃の中から溢れてくる。むせかえるような酸味が口に残る。嫌な気分だ。全て吐き切ると少しは楽になるが、頭痛は酷くなる一方だ。



 とりあえず外に出よう、こうしていても何も始まらない。


 ふらつく足で階段を降り、外に出ると世界の怒りを代弁したような暑さの太陽の光が、肌を刺す。思いがけない眩しさに眩むが、歯を食いしばり耐える。少しすると明るさに目が慣れ、だんだんと視界に街の風景が飛び込んでくる。

 辺りには元がどんなものかわからないような黒焦げた死体が転がっている。再び口に酸味が走るが、体力を失うだけだと、気合いを入れて飲み込む。


 この中を歩いていたら心が壊れそうだ。それでも戦争で見慣れていただけまだマシだと思うべきか。気を取直してあてもなく、歩き出す。かろうじて見える街の面影が、ここを馴染んだ風景に変えてくれる。・・・いや、昔のことを考えると辛くなる。今は現状を把握することに徹するべきだ。


「ここ……秋葉原か。とりあえず人がいそうなところ――ゲーセンでもいってみようか」


 記憶を頼りによく通ったゲームセンターを探す。大通りを渡って左に曲がればあったはずだ。

 出来るだけ死体を目に入れないようにしながら、ゲームセンターに辿り着いた。この辺りは戦火が比較的酷くなかったためか、辛うじて建物は原型を留めているようだ。とりあえず内部を散策してみよう。何をすればいいか迷った時は取り敢えずゲームセンターをふらついてしまうのはこんな状況でも変わらないのかと、すこし笑ってしまった。

  エスカレーターはもちろん使えないが、かろうじて登ることは出来る。崩れそうな階段に足をかけたその時、後ろから敵意の含まれた声が聞こえた。




「ーー誰だ?」


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