1ー16 緊急事態
次の日になってまた神宮さんに呼び出された。呼びに来てくれたメンバーの人にお礼を言い、部屋へと向かう。
ノックをしてから部屋に入ると、四天王が勢揃いしていた。
どこかピリピリしたような雰囲気が漂っている。こんなに重い空気なのは初めてだ。一体何があったのだろうか。
こういった場には必ず居た、竜二の姿が見えない。確信とはいえない仄かな悪い予感が頭をよぎる。
「累くん、朝早くから悪かったね」
「神宮さん、どうしたんですか?」
「うん。少し問題が起きてね、昨日任務に向かった竜二さんがまだ帰ってこない」
「竜二が…?」
「あの人の任務内容は、ジェネシス・アークの一員の目撃情報があった場所への偵察任務でね、交戦の可能性はあるけど、幹部の姿を見かけたという情報はなかった。つまりそれが帰ってこないとなると何かあったと考えるのが妥当だろう」
「神宮くん、それはつまり…」
「なにか予測不明の事態が起きたか、幹部クラスの敵と遭遇した…しかも最低でも帰ってこれないほどの負傷をしている可能性が大きいでしょうね。最悪の場合は…」
「…今すぐ探しに行きましょう!」
「勿論そのつもりです。メンバーですが壬生くんと袖城さんに行ってもらおうと思ってます」
「ダメよ!竜二は怪我している可能性があるんでしょう!?あたしも行くわ!」
「その気持ちは分かりますが、ゆかりさんは貴重な治癒能力の使い手。竜二さんがやられたかもしれない相手のところには向かわせられません」
「そんな…!」
「大丈夫、壬生くんがいれば傷口を防ぐくらいはできますし、あの竜二さんがそう簡単にやられるとは思いません」
「それでも!万が一のことがあったらあたしは…」
「竜二さんを信じましょう。いくら幹部クラスが相手でも、下手を打つような人ではないことはゆかりさんもよく知ってるでしょう?」
「…わかったわ、ただしあんまり長くは待てないわよ」
「分かりました、夕方までに帰ってこなければオスカーさんと僕も一緒に行きましょう」
「俺は!?俺にも行かせてください!」
「まだ能力を使えるようになったばかりの累くんを危険な任務に向かわせるわけには行かない。今日この話をしたのは訓練もあるし、ね。君に話しておかないわけにも行かないからだよ」
「わかり、ました…」
俺は自分の力不足が情けなかった。
「累くん、そんなに…手を…」
ゆかりさんにそう言われて初めて手に爪がくい込むほど拳を握っていたことに気がついた。
せっかく能力を使えるようになったのに、俺はまだ…
「累くん。悔しいのは君だけじゃないんだからね。あたしだって一緒。だから、バカ竜二が帰ってくるまでたくさん訓練して、強くなってやろ!」
「そう、ですね!ありがとうございますゆかりさん。俺また視界が狭くなってたみたいです」
「いーのいーの!そういうのは若者の特権だよ?それを諌めるのが我々大人の仕事だからね!」
そういってみせたゆかりさんの笑顔は、思わずドキッとするほど素敵で眩しいものだった。
「理解してもらえたみたいだね。そういうことで累くん、ゆかりさんに、オスカーさんに僕は待機組。万が一に備えて拠点の戦力もある程度に保っておかないとね。それじゃあ透くんと袖城さん以外は解散してください」
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「壬生くん、袖城さん、これは非常に危険な任務です」
「ああ、わかっている」
「そのくらいで怖気付いていたら、四天王は名乗れませんしね」
「流石ですお二人とも。それでは出発は一時間後、目的地は上野公園。目的は、竜二さんの捜索、及び救出を最優先にして、出来るだけ戦闘は避けてください。敵はトリニティクラスがいる可能性が高いです。充分に注意して行ってきてください!」
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「さてと、累くん。ずっと竜二の帰りを待ってても気が滅入っちゃうだけだし、軽く訓練しよっか!」
「…え?」
「え?じゃなくって訓練よ!あたしも久し振りに身体動かしたいし!」
「いや、それはいいんですけど…ゆかりさんって治癒師ですよね?訓練って言っても大したことできないんじゃあ…」
「あー!戦闘向けの能力じゃないからってバカにしてるね?あたしだってそこそこ戦えるんだよ?まあ武器は得意じゃないから徒手格闘になるけど…そんなに言うならやってみようじゃない!」
「ちょ、ちょっと!怪我しないでくださいね!」
「大丈夫、大丈夫!じゃあいくよっ!」
そう言うとゆかりさんは意外にも堂の入った構えで殴りかかってくる。
能力に目覚めた俺は気づかないうちに身体能力が上がっていたみたいで、そう焦ることもなくそれを横にかわす。
「流石にこれくらいは避けるかぁ!じゃあどんどんいくよっ!」
ゆかりさんは続けて「はっ!ほっ!」と、気の抜けるような声を出しながら攻撃を繰り出していく。
なかなか鋭い攻撃ではあるが、竜二の動きに慣れている俺からするとそこまで恐ろしいものではない。これまた余裕を持ちつつかわしていった。
攻撃が止むと、ゆかりさんは先ほどよりも少し真面目な顔をしてこちらを見る
「ふ〜ん、まだまだ新人だと思ってたけどなかなかやるじゃない。これなら能力使っても、大丈夫かな」
「えっ、能力?」
「限定解除二十%」
ゆかりさんはそういうと、話をする暇もなく再び向かってきた。
「なっ!?」
先ほどよりも早い。体感ではおよそ1、5倍の速度は出ている。
面を食らって反応が遅れたが、これならギリギリで間に合うはずだ。
遠慮なしに顔面を狙ってきた拳は、頰をかすめるだけに終わった。
「ゆ、ゆかりさん?!今のは…?」
動きのキレから言っても先ほどまでが手を抜いていたと言うわけでもなさそうだ。
「言ったでしょ。能力を使ったのよ」
「だってゆかりさんの能力は治癒の能力じゃ…?」
「治癒だけど、傷を治すだけが能じゃないの!人間の体って本来の五分の一しか力を出せていないって話聞いたことない?」
「聞いたことはあります。体が壊れないようにリミッターが働いているんですよね?」
「そのとーり!それに加えてそのリミッターってのは自分の意思でそうそう外せるもんじゃないの!でも私の能力ならリミッターを外して、起こるはずの体の崩壊も起こる端から治癒で治せるってわけ!」
「んな、無茶苦茶な…」
「まあ魔力を常に使うから、奥の手ではあるんだけどね。リミッター全解除は治癒を使ってても負担が大きいし。でも、このくらいならまだまだ余裕だよ!それ次ぃ!」
ゆかりさんはやはり先ほどよりも速いスピードで拳を放ってくる。
さっきは油断したが、これならまだ対応できるレベルだ。
バカにしているわけではないが、非戦闘職だし、ゆかりさんは小柄な女性だ。
元々の筋力の差もあり、すこし強くなったくらいならまだ捌き切れる。
「流石にこれじゃあ訓練にならなさそうだね…累くんは能力に目覚めたばっかしだから、身体能力の変化に戸惑うかなって思ってたんだけど、流石というかなんというか。もう慣れているみたいだし、今からが訓練本番!…限定解除四十%っ!」
ちいさい体のゆかりさんが一瞬大きく見えたかと思うと、すっと消え、目の前に現れた。
「くっ!」
明らかに速さが上がっている。俺の反射神経も上がっていることを考えれば、訓練時の竜二よりも速いだろう。一歩一歩の踏み込みは鋭く、一撃目、二撃目三撃目と少しずつ追い込まれていく。
だんだんと速さに追いつけず、思わず腕を交差して拳を防ぐ。
「うおっ!?」
腕に強い衝撃が走り、ビリビリと痺れる。
見た目通りの柔腕からは想像もつかないほどの豪腕だ。
「やっと捉えたよ〜!」
「くっそ…!もう手加減しないですからね!」
「へっへ〜ん!先輩に手加減しようなんて百年早いわ…よっ!」
その後数分の立ち合いを続けて、一旦休憩となった。
「はあ、はあ…ゆかりさん、強いですね」
「まあね!といっても結局攻撃系の能力じゃないし、ガチンコなら本職には敵わないんだけどね」
「そんなことないですよ!あれでまだ本気じゃないんですよね?」
「まあ、一応ね。でもあれ以上は結構負担がでかくてねぇ。長時間続けられるものじゃないし結局男の人の方が元々の能力も高いから…」
「そういうものなんですね…」
「でも能力無しならそんじょそこらの奴には負けないけどね!竜二にだって負けないんだから!」
「竜二に負けないってそれトップクラスなんじゃないですか?!ゆかりさんに勝てる人なんていないんじゃ?」
「流石に仲間と本気で戦ったことはないけど…神宮くんには勝ててないかなぁ」
「神宮さんに?そういえばあの人が戦っているところって見たことないですけどどのくらい強いんですか?」
「う〜ん、能力なしなら一番強いと思うわ。能力ありなら相性とかもあるけど…それも一番かも?」
「やっぱりリーダーだけあって強いんですね」
「まあ彼がリーダーなのは強さだけじゃ無いけど、あの能力はほとんど反則級だからねぇ。普通能力は強いものほど制限が大きかったり、使いづらかったりするんだけど彼のは…うん、使い手がずるいわね」
「気になりますけど、聞かない方が良さそうですね」
「そうだねえ、特にリーダーのはまだ敵に知られてないから実は機密だしね」




