1ー13 歪んだ愛
現れたのは若い女。赤髪にそばかすのある外国人の女性だった。
嗜虐的な笑みを携えてこちらを見ている。
「アイラ…!?生きていたのか!?」
「もちろんですよぉ〜、でもワタシも坊っちゃまが生きてるとは思いませんでしたけどねえ。ノア様に聞いた時はビックリしましたよぉ?」
「エバンズさん、知り合いですか…?」
「ああ、私の生家に侍女として仕えていた女性だ。ただまあ、その性格は決して献身的とは言えないがな。当主や嫡男などには媚びへつらい、権力の弱いものはこき下ろす、そういった手合いだ」
「あらあら、随分な言われようですねぇ。まあ坊っちゃまはワタシの本性に気付き嫌悪してらっしゃったようでしたけど。でもワタシのような者を遠ざけるしかできない坊っちゃまではどうあがいても当主にはなれない。ノア様には勝てなかったってことですねえ」
「どう言われようと私が当主になれなかったことは事実だ。そこに関しては反論する気は無い」
「ふふ、諦めている坊っちゃまも可愛らしくて好きですけど、昔の反骨心のあった坊っちゃまの方がワタシは好きでしたよぉ?思い出すだけで…濡れてしまいますわぁ。大人になっちゃってつまらない、坊っちゃま」
「大人になるのは悪いことでは無い。それに私は大人になったわけでは無いよ。ただ多くのことを知っただけだ」
「それを大人になる、と言うんじゃないですの?昔っから屁理屈を捏ねるのが上手いですわね」
「そうなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。全く、このとしになってもわからないことばかりだ」
「一体何が言いたいんですの?」
「ただの雑談さ。…ノアは元気か?」
「お前ごときがあのお方を呼び捨てにするな!!!」
「…随分と心酔しているようだな」
「失礼致しましたわ。ワタシとしたことがつい…ノア様はもちろんお元気でいらっしゃいます」
「そうか。それならいいんだ」
「ノア様の方はあなたのことをカケラも気にしていないようですがねぇ」
「そうだろうな、アレはそういう男だ」
「うふふ、実の兄にモノ扱いされて可哀想な坊っちゃま。ワタシがた〜くさん愛してあげますわ」
「君の愛は歪んでいるだろう。そんなのはお断りだ」
「簡単に受け入れられる愛なんてつまらないですわぁ。押し付けて、ぶつけてねじ込んで!無理やり与えるからこそ価値がある!それこそが愛!それこそが、ワタシの愛の形なのですわ!
「君は相変わらずだな。相変わらず…吐き気がする」
「あはっ!その目、その目ですわぁ!もっと、もっと足掻いてもがいて這いつくばった姿をワタシに見せてくださいまし!」
戦いが始まる。
「坊っちゃまの能力は知っておりますわぁ。ただ剣を生み出すだけの能力。貧相で、地味で弱々しいあなたにぴったり」
「構わないさ。能力の優劣は勝敗を決定しない。剣に選ばれたことは私にとって誉れだよ」
「うふふ、健気ね。実に健気。でもワタシには勝てない。それを教えてあげますわ」
アイラが指をパチンと鳴らすと、地面を突き破り植物の根が現れる。
「ワタシの能力は植物を操る能力。突然変異により巨大化させた根は長く太く、堅い。坊っちゃまの剣で対抗できるかしら?」
オスカーが剣を出現させる。
「斬り伏せよう。私の行く手を阻む物は全て」
「まずは、小手調べからですわ!大樹の鞭ルートウィップ!」
三本の植物の根が凄まじい勢いでオスカーに襲い掛かる。
「ふっ!」
横に飛びとっさに避けると、根は方向を変え再び迫り来る。
「なかなかにしつこいな…ハッ!」
オスカーが剣を振るい根を切り落とす。
残る二本の根をさらに避け、距離をとる。
縦横無尽に振られる根を軽やかな動きで避け、避け、そして斬る。
あんなに太い根を切り落とせるなんて、人間技ではないがオスカーは汗一つかかずにやってみせた。
「言う割には大して堅くはないな。これならば何本でも切り落としてみせるぞ」
「あら、予想外。子供の頃の坊っちゃまと、どうしても同じに考えてしまいますわ。でも小手調べだと言ったはずです。次はもっと堅いですわ…よっ!」
再び現れた根が先ほどよりも早い速度で向かってくる。一回り太くなっており、見るからに密度が大きくなっているのがわかる。
凄まじい迫力を伴って振り下ろされる根は、直撃すれば骨の一本や二本では済まないだろう。
ギリギリでよければ、風圧で僅かにオスカーの体が揺らぐ。
再び切り落とそうとするが、勢いと堅い樹皮に阻まれ切断するに至らない。
それを好機とみたのか更に三本の根を出現させ、襲わせる。
今のままでは切れないと判断したオスカーは、根を避けることに徹する。
前から迫り来る根を横に飛び避けると、横薙ぎに鞭のように二本目が迫ってくる。
剣を盾にし防ぐが、勢いお殺し切れずに弾き飛ばされる。
(腕が痺れている。この攻撃をこのまま受け続けるのは愚策だな)
「エバンズさん!」
「心配するな咲坂。この程度、窮地でもなんでもない」
「強がりもそこまでにした方が良いですわ」
「強がりではないさ。今のままで斬れないものがあるのなら、より強い剣を生み出せばいいだけのこと。私の能力は剣を生み出すことだと言ったな。その通りさ。私は剣なら、‘’何でも‘’生み出せる」
オスカーが手を天高く掲げる。
「本来自らの技量が足りずに切れないものを、剣の力に頼るのは恥ずべきことなのだがな。今はその力に頼るとしよう」
「魔剣招来…我が願いに応えよ、レーヴァテイン!」
「何を…っ!?」
赤い光が集まる。大気から掌へと導かれるようにやってくる。
小さなその光の粒は、だんだんとその形を表していく。
それはまるで彼を讃えるかのように、大きな祝福の火を灯す。
そして…燃え盛る炎とともに、神々しさを伴った赤い炎剣が現れた。
「さあ、幕引きといこう」




