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世界の終わりから  作者: 灰羽 中也
12/20

1ー10倒す覚悟と倒される覚悟

 

それから訓練を続けたものの、午前の修行の時間が終わっても異生体を感じ取ることは出来なかった。呼吸や心臓の鼓動を感じ取るのと比べると格段に難しい。


「はあ…」


「そう落ち込むことじゃねえよ。自分が今までなかった器官を感じ取るなんざ、腕がもう一本あると思い込むみてえなもんだ。そうそう出来ることじゃねえよ」


「でも早くそれを感じ取らないと能力の修行をすることすらできないんだろ?」


「それはそうだが…とにかく焦ってやったんじゃ出来るもんも出来やしねえ。筋は悪くねえんだ。そう経たないうちに出来るようになるさ」


 どこか悶々とした気持ちを抱えながら午前の訓練は終了した。

 昼食を取るために食堂へ向かうと、ゆかりさんがこちらへ向けて手を振っていた。


「お〜い!累くんこっちこっち!」


 どうやら席をとっておいてくれたらしい。

 カウンターへ行き、昼食を選ぶ。基本的に三つのセットを選ぶ形式らしい。

 一番オーソドックスなAセットを受け取りみんなが待つ席へと向かった。


 席には一緒に来た竜二にゆかりさん、袖城さんにエバンズさんがいた。神宮さんはまだ仕事中、壬生さんは端っこの席で一人でいるらしい。誘ったのだが来なかったようだ。


「累くんお疲れ様〜初めての訓練はどうだった?」


「それが全然うまくいかなくてダメダメで…」


「あらら、竜二そうだったの?」


 竜二は食事すらもめんどくさそうに口に運んでいた。


「んあ…?あ〜いや、そんなこたあねえよ。むしろ筋がいい方だ。ただ今までに前例がねえからな、本人も焦ってるんだろう。急がなくていいとは伝えてあるんだがな」


「なるほどね〜、まあこればっかりは本人の気持ち次第だからねえ。周りが何を言っても気休めにしかならないし」


「とりあえず累、昼飯を食ってすこし休んだら午後からは体術の訓練だ。気落ちしたままじゃ困るぜ」


「…」


「累…」


「まあ竜二さん。累くんならきっと訓練で手を抜くような真似はしませんよ。色々と考えることもあるでしょうし、今はそっとしておいてあげましょう」


「そうだな…」


 それから昼食が終わるまでの間、五人は軽い雑談をしていたが俺は会話に集中することはできなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて、体術の訓練だ。かといって俺に武道の心得なんてのがあるわけじゃねえ。大事なのは戦闘経験と気合いだ」


「経験はまあわかるけど、気合いってのはすこし乱暴すぎないか?」


「気合いっていうと確かにそうだが、要は覚悟だ。絶対に倒されないっていう覚悟と、絶対に倒すっていう覚悟だ」


「そんなのは当たり前のこと、なんじゃないのか?」


「本当にそう思うか?お前はまだ異生体が活性化してないから大した違いはわからないだろうが、異能力者の身体能力は一般人とは違う。動体視力、思考速度にくわえ耐久力や全体的な筋力を大幅にアップしている。ほらたとえば俺のインパクトは文字通り衝撃を生み出す。お前に見せた時はまだ本気ではなかったが、それでもビルの壁を破壊するだけの威力はある。ただその分反動は自分に襲いかかるからな。あのくらいでも普通の人間なら最低でも肩が脱臼するだけの反動があるんだ。それに耐えれるのは俺たちの身体能力が上がっているからだ」


「なるほど、それで…?」


「なんだ、察しが悪いな。要はそんな力だったら人を殴っただけでもすごい威力になる。それが能力だったら尚更だ。…こういう話がある。喧嘩なんかで武器を持つと、殺してしまうのが怖くて逆に弱くなるってのがな」


「そういうことか…つまり人を殺す覚悟を持てってことか」


「そうだ。ただまあこればっかりは実戦で鍛えるしかない。…つまり、とりあえず殴り合うぞ。ほらいくぞ!」


「ちょ、ちょっと!」


 竜二は俺が構える暇もなく殴りかかって来た。

 素早い動きで振られた拳を咄嗟に腕を交差させて防ぐと、強い衝撃を感じた。


「ぐっ!…いってぇ…」


「ぼさっとしてると痛えぞ!」


 次々に繰り出される拳をなんとか防いでいくが、腕が痺れてきてそれも難しくなってきた。反撃するまもなく腕が上がらなくなってきた。


「仕方ない。もう少しスピードを下げるから避けてみろ」


「わ、わかった」


「まともに直撃したら、痣くらいじゃすまねえぞ?死ぬ気で避けろよ?」


「お、お手柔らかに、な?」


「それじゃあ訓練にならねえだろ?それ!」


 先程よりはすこし遅くとも目でギリギリ終えるようなレベルの一発を身を投げ出すようにしてどうにか避ける。


 ブォン!


「お、おいおい。バット振り回してるんじゃないんだから…」


「話してる暇あんのか!?」


「くそっ!」


 絶対に避け切ってみせる。これをくらったらただじゃすまない。


 次々に繰り出される攻撃を見るものが虚しくなるような醜さでどうにか避けていく。

 一発避けるのでも必死なのにそれを何発も避け続けた俺の体はものの数分でボロボロになっていた。


「ぜえっぜえっ…」


 俺が膝に手をついて休んでいても竜二は息切れ一つすることなくすぐにまた攻撃をしてくる。その後奮闘も虚しく数発後には思い切り顔面に一発もらい、意識を飛ばした。


「…はっ!」


「おお起きたか累。いやぁ盛大に吹っ飛んだなあ。かっかっか」


「まだ痛えよこの野郎。…俺の顔、変形してない?」


「安心しろ、綺麗に殴ったからな。口ん中は切れてるだろうが大した痕にはなってねえよ」


「ありがたくはないな…」


「落ち着いたらまたやるぞ。まだまだ時間はたっぷりあるからなあ」


「まじかよ…まったく地獄だな」


 それから二戦ほどやったが、たいした進歩もなく同じような結果に終わった。


 夕食の時間になってさきほどと同じメンバーで食事をとった。


「あれ?累くん、なんかスッキリした顔してない?」


「あはは、午後の訓練でボコボコにやられましたからね…なんというか思い切り動いて悩む暇もなかったって感じですね」


「それは逆によかったんじゃない?」


「そうですね。まだ思うところはありますが少しずつ強くなるしかないんだなって思いました」


「うんうん、かっこいい男の子の顔になってるね!」


 それから夕食は終わり自分の部屋に戻った。


 スッキリはしたがやはり一人になるとまだ心にモヤモヤするものは残る。

 少しずつ強くなるしかないのは分かるが、それでも出来ることはあるんじゃないかと思う。


 すこし考え俺は部屋を出て、ある人の元に向かった。


 コンコン


「はい」


「エバンズさん、すこしお話があるんですがいいですか?」


 キィと扉が開き、エバンズさんは中に向かい入れてくれた。


「咲坂か、まあ座ってくれ」


 エバンズさんの部屋は造り自体は他の部屋と変わらないものの、物の配置や置かれているささやかな調度品などの節々にセンスが感じられた。それでも最低限の物しか置かれてないその有り様に、エバンズさんらしいと思った。


 エバンズさんは椅子に俺を座らせると、自身はベッドに座りこちらを見た。


「それで?話とはなんだ?」


「実は、俺に剣を教えてもらいたいんです」


「ほう、剣術を、か」


「はい。昨日エバンズさんに言われて思ったんです。今の俺は何もできないただの一般人ですけど、エバンズさんは長年剣術をきたえてきたんですよね?」


「そうだな。幼い頃から剣をひたすらに鍛え続けてきた。器用な方ではなかったからな。何も考えずに一心不乱になれるこいつが好きだった」


「それでエバンズさんの振る剣を見たとき、美しいって思ったんです。俺もこんな風に剣を振るえるようになりたいって。全身が剣と一体化してるようなそんな姿に憧れました。だから!エバンズさんに追いつけなくても少しでも近づきたいって、そう思ったんです」


「そこまで手放しで賞賛されるとすこし面映ゆいな。だがそこまで言われて何もしないわけにもいくまい。昨日も言ったが、私でよければ力になろう」


「ありがとうございます!それで…」


「ああ、人に教えるのは私のためにもなるだろうからな。今からでも始めよう」


「そう言ってもらえるとありがたいです。じゃあ早速お願いします!」


 そうして再び訓練室へと足を運んだ。


「そういえば剣を振っていましたけど、エバンズさんの能力ってなんなんですか?」


「私の能力はそう大したものではない。ただ剣を生み出す、それだけの能力だ」


「剣を、生み出す…」


「そう。現実に自在に思い描いた剣を出現させることが出来る。原理はわからないが、まあそれだけの能力だ」


「なるほど…」


「気を使う必要はない。確かに他の者たちの能力と比べればいささか地味な能力なのは理解している。ただ、私にとってこの能力に選ばれたことは僥倖であったのだよ。剣を振るしか能のない不器用な私に、やたら使い勝手のいい能力を与えられてもうまく扱うことはできなかっただろうからな」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、剣術の修行だがまず構えからだ。ほらこの剣を使うといい」


 そういうとエバンズさんが空中に手をかざすと、赤い光のようなものが現れ凝縮し剣を形作った。


 受け取ってみるとずっしりと重く、手の冷たさが気持ちを引き締めた。


「まずは剣を両手で握り、眼前に構える。…そう、もう少し高く、そこでいい。剣先を軽く相手に向けるんだ。そうしたら脇を締める。これには急所である脇を守る効果が大きいから絶対に忘れてはならない。次に右足を軽く前に出し左足を少し引くんだ。そう、すこし剣が下がっているぞ。よし、重心を後ろに下げないように。最後にその形を保ったまま全身の力を抜くんだ」


 全身の力を抜く。竜二に習ったように呼吸に心臓の鼓動を感じ取るように体内に意識を向ける。


「そう…剣を握るのに余分な力はいらない。いい自然体だ。竜二に習った成果が出ているようだな。その姿をじっと維持するんだ。そうだなまずは五分間、私も隣で行おう」


 それから時々姿勢を注意されつつもどうにか五分間を乗り切った。


「よし、おろしていいぞ」


 構えを解くと、汗がブワッと吹き出してきた。

 たった五分間なのに同じ構えをずっと維持するというのはこんなに難しいものだったのか。


「これを毎日やり、最後には…そうだな、一時間もやり続けられれば上等だろう。今の形をしっかりと覚えておくといい」


「一時間っていうのはどんな意味があるんですか?」


「戦闘時に構えを解くのは絶対にしてはいけない。ただ命のやり取りの最中ではたった1分であろうと何倍にも感じられ、疲れるものだ。それで戦闘中にずっと構え続けられることを考えれば最低一時間は動かずに構えを維持し続けられればいいだろうということだ」


「なるほど。でも五分でも相当に疲れるものですね…」


「慣れてないうちはな。まだどこかに余分な力が入っているということだ」


「それでは次に足捌きの修練だ。これは先ほどの構えを維持しながら行う」


 構えだけでも辛いのにそこに足も加わるとなると一気に難易度が上がるだろう。

 剣道のように完全なすり足ではなく、織り交ぜつつと言った方法だ。

 基本のステップや、その際の体の動き方などをゆっくりと行い体に染み込ませていくものらしい。


 案の定足捌きに集中すると構えが疎かになり、構えに集中すると…という感じだった。

 四苦八苦しながら少しずつ体に染み込ませていき、なんとなく様になってきたという頃に今日の訓練は終了となった。


 集中しすぎていたせいか時間があっというまに過ぎた。

 時間を忘れて訓練していたためお風呂の時間が過ぎてしまったが、エバンズさんが神宮さんにたのんで女性の時間終了後に改めて使わせてもらえることになった。


 その時間を待っている最中、部屋でひたすら先ほどの動きを反芻しているとエバンズさんが部屋まで迎えにきてくれた。

 エバンズさんによると「自主訓練でまた時間を忘れていると思ったからな。私も昔はよくやった」とのことだった。


 その後二人で汗を流し、眠りについたのだった。

 

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