1ー9 訓練開始
コンコン
朝
ノックの音で朝俺は目覚めた。
疲れていて熟睡していたため、寝起きは思ったよりもいい。
まだ開き切らない目を擦りながらドアを開けると「よう」と言いながら手をあげる竜二の姿があった。
「なんだ、竜二か。どうしたんだよ朝から」
「朝つってももういい時間だぞ。まあ昨日は疲れただろうから無理もねえが…響介が呼んでる。着替えて顔洗ったら行くぞ」
「神宮さんが…?わかった。すぐ用意するよ」
服を着替え、冷たい水で眠気を吹き飛ばすと竜二のところへ向かった。
道中、歩きながら昨日お風呂場であった人物について聞くことにした。
「なあ竜二、昨日お風呂場で会ったんだけど、こう…手が冷たくなる能力を持ってる無口な感じの男の人、知ってる?」
「手が冷たくなって、無口っていやあそりゃ壬生だな。四天王の一人、まあもう言っていいだろうが氷の能力を持ってる。しかし、そんな能力を見せられるような何かがあったのか?」
「あ〜、まあ昨日お風呂でのぼせちゃって …それで介抱してもらったんだよ。壬生さん、っていうのか。昨日はお礼も言えないまま帰っちゃったからな」
「へえ〜、壬生が人に優しくするなんざ珍しいな。別に悪いやつじゃないんだが、人との関わりの避ける傾向があってな」
「確かにそんな感じだったよ。もしかしたら俺が余りにも盛大に倒れすぎて流石に気の毒に思えたのかもな」
「ったく気をつけろよ?死因がのぼせて頭強打じゃ笑えねえぞ?」
「気をつけるよ、余りにお風呂が気持ちよくてつい、ね」
「まあいい。響介!入るぞ!」
神宮さんの部屋に入ると、そこには袖城さん、ゆかりさん、エバンズさん、壬生さんの四天王に神宮さんの五人がいた。
「やあ累くん待ってたよ。昨日はゆっくり休めたかい?」
「はい、おかげさまで体調は万全です」
「それは良かった。今日君に来てもらったのは他でもない、君の訓練についてだ。竜二さんから聞いたけど自分の能力がわからないらしいね?だから君自身の能力を判明させるためにも、できれば戦えるようになるためにも訓練をしてもらおうと思ってる」
「響介、できればじゃなく絶対だ。うちには一人でも多くの戦力が必要なんだ」
「エバンズさん、それはわかっていますが、僕は戦いたくない人を無理やり戦わせることには反対です」
「神宮さん、俺は…戦うつもりです」
「累くん…それはありがたいけど…」
「響介、累はもう覚悟を決めてる。男の覚悟を他人が否定すんな」
「竜二さん…すいません」
「いや、お前はそれでいいんだけどな。甘いとこもあるのがお前の良さでもある」
「はい…それで訓練についてなんですが、竜二さんに師匠的なものを担当してもらおうと思っています」
「竜二に…?」
「ええ、竜二さんなら戦闘経験も豊富ですし、みんなも一目置いています。師匠には申し分ないでしょう」
「まあ、そういうことだ。大して教えられるようなこともねえが、リーダーに言われちゃ逆らえねえしな」
冗談ぶって竜二が言うと、部屋は笑いに包まれた。…壬生さんを除いてだが。
「とりあえず訓練は今日から始める。厳しくいくから覚悟しとけよ?」
「竜二の訓練は厳しいわよ〜累くん。怪我したらいつでも言ってね!」
「そうだな。竜二に鍛えられるのであれば、咲坂もすぐに立派な戦士になれるだろう。私も色々教えてもらった」
それから多少の雑談をし、解散になった。
俺は竜二に連れられ訓練室に向かった。訓練室につくと数人が訓練していたため、奥にあるという特別訓練室を使うことになった。危険な能力などの訓練や周りに影響を及ぼす能力などを使用する際に使用することが多いらしい。俺の場合は能力自体が判明しておらず影響が読めないこと、能力に慣れていない場合は制御が不安定になることもあることから使用に至った。
「さて累、まず基本的にお前の訓練は能力の解析とその修練の能力に関するものと、体術などの身体的なものの二つに分かれる。まず午前には能力の訓練、午後は体術の訓練で、夕飯の後は自由だが能力を安定させて使えるようになるまでは能力の自主練はナシだ」
「わかった。それで能力の訓練ってのは何をするんだ?」
「まず基本的に他の奴らは自分の能力を理解しているし、使い方も分かるからな。ちょっとしたコツさえつかめば後は慣れ次第なんだが…お前の場合は能力を判明させることからだな。記憶が戻ればそれが一番いいんだが、うちに記憶に働きかけるおうな能力者はいねえし、叶のやつも体内は苦手だからな。海馬の記憶領域に働きかけろなんてのも無理な話だ」
「じゃあ、どうすればいいんだ?まさか自分の能力と対話しろ、なんて漫画みたいなこと言うんじゃないだろうな?」
「おお、よくわかったな」
「は?」
「まあ聞け。そんなに無理難題を押し付けてるわけじゃない。能力者なら分かるんだが、放射線によって変性した体には小さな小さな石ころくらいの新しい器官が出来ている。俺たちは‘’異生体‘’と呼んでいるが。心臓の下くらいの位置だな。普通自分でそんな小さな器官を感じ取るなんてのは無理なんだが、能力を使おうとするとその器官が仄かに暖かくなるんだ。それを感じ取ることがまず第一歩だな」
「体の中に新しい器官って、それってそんな簡単に受け入れていいもんなのかよ!?」
「受け入れるも何もそれは事実だ。以前ここにいた解析の能力を持った奴が、その器官が人体に悪い影響をもたらすことはないことを解明したし、その器官自体俺もこの目で確認した」
「この目でってそんなの…」
「敵の死体を解剖した。言ってなかったか?俺は戦争前は医者をやってたんだ」
「医者!!?似合わないにも程があるな…」
「余計なお世話だ。まあそう言うわけで器官があるのは事実だ。器官というよりは宝石がかった、物語で言うなら魔石ともいわれそうなシロモノだな」
「なんだか信じがたい話だけど、あんたが言うならそう思うしかないってことだな。それで?どうやってその器官を感じ取るんだよ?」
「わからん」
「…おい」
「仕方ないだろ、俺たちは無意識的に能力を使えるんだ。こんな方法試した前例がない。試行錯誤してやってみるしかないんだ。よし、まずは目を閉じろ」
「こんな師匠があるかよ…わかった」
そう言われ俺はそっと目を閉じた。
「返事はしなくていい。まずは呼吸に意識を向けろ。リズムを一定に保ち心を落ち着かせろ」
雑念を捨てる。鼻から空気を吸い、そして吐く。
自分の呼吸にだけ意識を集中し、感覚を研ぎ澄ませる。
空気が、鼻を通り、喉を通り、肺に到達する。
肺が膨らみ酸素を取り込む。
「次は心臓だ、鼓動は自分だけのものだ。一つとして同じものはない。全身が脈動する感覚を掴むんだ」
肺から回ってきた酸素を含む血液を心臓が全身に送り込む。
頭の先から手の先、足の先を通りそしてまた心臓へと還っていく。
ドクンドクンと脈打つ心臓が生命の息吹を感じさせた。
以前なら自分の体とはいえここまで鮮明に体内の様子を感じ取るなんて出来なかっただろう。これもまた体が変異した影響なのかもしれない。
「それが出来たら、いよいよ異生体を感じ取る段階に入る。思い込みは力となる。まずは意識できなくてもそれがあると自分に信じ込ませるんだ。心臓の下の位置に、そう、みぞおちの上のあたりだな。そこに心臓とつながる小さな器官があることを意識しろ。そこにも心臓は血を送っている。血液の循環を、血管の脈動を感じ取れ」




