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プロローグ
数年前のこの季節にはこんなことになるなんて思いもしなかっただろう。これまで当たり前のように傍にあった日々がこんなにも簡単に壊れてしまうなんて。
響くはずの銃声すら聞こえず、ただ残るのはつんざく悲鳴の残響と血の匂いだけだった。
圧巻だった高層ビルの群れは今では鳴りを潜めて何も語ろうとはしない。ふと上を見上げれば何も変わらない夜空だけがこれまでの日常を思い出させてくれる。
もしもこれが夢だったなら、なんてタチの悪い悪夢なんだろう。一刻も早く目覚めてくれと願えども、神は微笑んではくれない。
ああ、神なんて存在しなかったね。
きっといるのは悪魔か何かなんだろう。そして"それ"は僕らから何もかもを奪って、そして絶望を与えていった。とんだパンドラの箱だ。最後に残るは希望じゃなかったのか。
でも、それなら僕自身が希望を探しに行かなくちゃいけない。それがどんなに険しい道のりであろうと、例えこの先にどんな辛い未来が待っていようとも。それが彼女のたった一つの願いだったのだから。