番外編(クロード)-3-
クロードは、何か言ってくる侍女を無視して洗濯物に目を向けた。大量のドレスが山積みになっている。
「なぜ、こんなに洗濯物をためていたのですか」
「ためてたわけではありません!歓迎パーティが開かれるとのことで、国から持ってきたドレスを洗濯しただけです。ルナ様は、新調したりもせず、持ってきた物で良いと言われる慎ましいお方なのです」
両手を組みそう語る侍女は、ルナ様を崇拝しているように見える。
「そんな慎ましいルナ様はどこにいらっしゃるのですか」
「ルナ様は今、勉強しにいかれています」
「勉強?」
「歓迎パーティの際失礼にならないようにと、この国について勉強されているのです」
「熱心な方ですね。お姫様にしては珍しい」
「そこらへんのお姫様とルナ様を一緒にしないで頂きたいです。ルナ様は本当に素晴らしいお方なのです」
「祖国で人気があったのはそのあたりなんですかね」
適当にクロードが話を合わせると、侍女はグイッと体を前のめりにさせた。
「その通りです!!ルナ様は、慈愛に満ちて…」
話を右から左に流しながら、近付いてきた侍女に目を向けてみた。
この国では珍しい赤毛に目がいった。少しウェーブのかかったその髪は、太陽に照らされキラキラと金糸のように輝いている。
窓から風が入ってきた。その風にふかれて髪が揺れ、辺りにふわっと甘い匂いが漂った。
「話聞いてますか!?」
「ああ、聞いてますよ、ルナ様は本当に素晴らしい」
「わかって頂けて嬉しい!!」
満面の笑顔で侍女は、両手でクロードの手を包んだ。
侍女は手を上下に振りながら何か話していたが、クロードの耳には入ってこなかった。
「ところで、これはなんなのですか?」
「他人の贈り物の中身を知りたがるなんて悪趣味な」
「そういうことではありません!贈り物なんて言って、国政に関する資料だったりしたらルナ様が悲しむかもしれませんから…」
少し侍女の顔が陰った。本当にルナ様を慕っているのであろう。
「これは、資料等ではありません」
「それは良かった」
「中身は、ルナ様が帰ってきてからのお楽しみということで」
「失礼ですが、あの方には期待出来ません」
つんっとメイドは横を向いた。
「まぁ、それは正解ですね。ですが、アルフレッド様は不器用なだけで、優しい方です」
メイドの驚いた顔を見ながら、どっちに驚いたのだろうと思った。
「アルフレッド様をあまり悪く思わないで下さい。アルフレッド様はアルフレッド様なりにルナ様に気を使っています」
侍女の本当に?という視線が痛い。そう思われてもしょうがないような振る舞いをしているであろうことは容易に想像つくからである。
だが、自分の主のため言葉を続けた。
「今回の贈り物もアルフレッド様からの心遣いです」
「わかりました。中身を見て判断します」
「宜しくお願いします」
クロードは、侍女に頭を下げた。
「そんなことして頂かなくても!」
「アルフレッド様の無礼も謝らないといけませんしね」
「それは、まぁ…」
二人は顔を見合わせ少し笑った。
「私から言いたいことは以上です。お邪魔しました」
「中まで運んで頂きありがとうございました」
「いえいえ、ではお邪魔しました」
扉に向かって歩いていく途中、ふとクロードは足を止め後ろに控えていた侍女の方に振り返った。
「名前、なんというのですか?」
「私ですか?キャシーと言います」
「ありがとうございます」
クロードは、また歩き始めた。そして、扉を開け外に出た。扉を閉める際にちらりとキャシーの姿が見えた。
---なんで名前なんか聞いたんだ…?
クロードは疑問を持ちながらも、足を進めた。