FILE:4 作戦発動
「ということは同時に三つの任務を発動させるということで宜しいでしょうか?」
その声は司令室に響いた。
「あぁ。空軍には偵察機を3機と、総陸からあわせて10人編成で部隊を。君は大和タケル兵と火の里に向かってくれ。」
「はっ。」
浅田の命令に敬礼で返す西はすぐに司令室を後にしようとする。
「少し待て。」
「?」
突然呼びかけられ動作をとめる西。
そこで浅田の差し出したのは、新拳銃と言われ名前すら無いスミス&ウェッソン社製の拳銃。
「ここには、我々以外は敵だ。そして、時代は戦争直下。なめてかかると痛い目にあう。」
「はっ。」
西は新拳銃を受け取ると、病棟へと向かった。
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早乙女基地病棟 200号室。
「富山軍医。報告どおり、大和兵の一時退院と任務への参加の許可を。」
「そんな、硬く言わなくたって許可するよ。帰るのに貢献出来るのならね。」
富山は書類に印を押し、西に返す。
「さ、行ってきな。」
大きな太鼓判を押すかのようにそう伝える富山。
西はそれに小さく頷く。
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早乙女空軍基地 管制室。
「無人偵察機 TACOMの発動命令だ。」
「準備は完了しています。」
飯島は大きく頷き、口元のマイクに指をかけ言う。
「担当パイロットは無人偵察機管制室に入室。直後に自立システムを利用し早急に離陸させよ!」
「「了解です。」」
二人の声が聞こえる。
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早乙女基地 地上ゲート。
「はい。司令室の方より、西中尉と大和現地兵の任務の方は伺っております。」
そう言うと見張り番の兵士がゲートを開ける。
「健闘を祈っております。」
「しかし、科学というのは想像を絶するのだな・・・。」
今の今まで黙っていた大和が突然口にする。
「戦争をしている5里の中で最も強力な空の里の兵士を突っぱねるのだから。」
道無き道を二つの足跡が出来ていく。
「何が言いたい?」
少し考えてフリをして西はそう質問をする。
「・・・。ピクシーから話は聞きました。戦争には加担してくれないのだろう?」
「あぁ。」
ピクシーも火の里の者を自称していたため、何となくは先ほどの言い方も理解出来た。
カチャリ。
そこで金属音が声をさえぎる。
「これを俺に渡したのが運の尽きだな・・・。科学の人間共ッ!」
大和の手には司令部から渡されたのか9mm拳銃が握られている。
「お前が命令すれば、連中を動かせる。お前にだって守るものくらいはあるだろう?命令をして火の里に加担してくれ!」
暫く、沈黙が訪れる。次第に大和の顔が怒りに満ち来ていたのは言うまでも無いことだ。
「人間というのはどの時代、どんな者でも究極の状況に落とされれば欲望に貪欲となるのだ。」
「何が言いたいッ!?」
西は何かに気づき、さらに余裕の表情を見せる。
「撃てるものならば撃ってみろッ!魔法の民よッ!」
カチッ。カチンカチンカチン。4、5回の金属音の後、大和の顔には不安の表情がみるみる広がっていく。
「何故だッ!?如何して撃てないッ!?」
銃の使い方がいまいち分かっていない大和は銃の表面を見ては翻し裏を見ては翻しの繰り返し。
そこで、西は話を始める。
「あの基地は俺たちの最後の希望であり、最後の'日本国領土'だ・・・。」
「日本・・・?」
大和はまじまじと銃を眺めるのを止め、目線を西に送る。
「そして、俺たちは最後の日本人だ。俺たちはお前たちの奴隷では無い。戦争に混ざる理由など無い。兵士という存在が守るものはいつだって身分の高い人間たちの面の皮だけだ。そんなものために賭けるものなど俺は持ち合わせておらん。」
「・・・。」
西のその人を刺す鋭いナイフのような眼差しを見続ける大和。
だが、不意に目の色が変わる。
ボウッ!
大和の手には炎がしっかり纏わりついている。
「まだ、殺り合うか?お前は兵士の鏡ではあるが人間のゴミの様な奴だなッ!」
魔法の使い手なぞと闘ったことの無い西にとっても少しずつ焦燥の顔色が見えてくる。
「科学なぞ、所詮は魔法の模倣。そんな物に負けるほど間抜けた戦国の世では生きていないッ!」
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