FILE:39 衝突への兆し
西たちが基地を去った直後 早乙女基地 管制室。
「・・・追いますか?」
「構わん。彼らには彼らの目的があるんだろう。今出来ることをやるべきだ。」
「はっ。」
飯島の目的は、中央に位置するイーストテンプル地方の救援という名の南部軍との戦闘。
別に決して飯島は戦闘狂といった類では無い。
―今の俺に必要なのは、シュンスケの言う現実への追求では無く大和の言う理想への脱却に過ぎない。
自分は割と冷静な人間だとある程度把握していた飯島は敢えて理解しつつ、自分の考えに従った。
数日前見たワ爆も脳内では勝手に興味で処理していた様だ。
本土戦争への加担=それは科学というものを実証するということになる。その先への影響を彼もまた期待している一人であった。
「これより、IT作戦開始を宣言する。まずは、南部軍の動きだな。」
セルノーツ(日本)は’こちら側(作者、読み手のいる世界)’からしても地形の区分に大きな差は無い。
北の北海道、東北、中部、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄。
そして、丁度セントラルを半分に切って南部、北部とある。
問題はそこからだ。このように区分しつつ前セルノーツ王 デリント・セルノーツの死後、息子のレイ、デリントの姉 セシルとが後継者争いにより分離。
レイが北。セシルが南へと渡った。
しかし、そんな最中起きた五国戦争。ゲノム大橋での最終決戦を迎えたものの五国の内三の里が滅び、残った里も大きな傷を負っていた。
だが、ゲノム大橋での決戦に勝利の見込みを持っていた海の里はセシルの命令により船を北部と南部の境目、イーストテンプルへ送り込んだ。
結果として焦燥を感じたデリントは遂に軍隊を結成したのであった。
「なるほど・・・それが本土戦争の全容でしたか。」
この世界に対して知識の無い飯島は唯一戦争に加担していたないフォースノーツのヒューズ・イノセントに事情を聞いていた。
元来であれば南部軍としてフォースノーツの最大王国 エリア王国も戦争に加担しなければならない身分。
だったのだが、国王不在という非常に痛い状況。さらに南部軍が北部軍を圧しているという事情も重なって彼らは戦争とはほぼ無縁の生活を送っていた。
「そういえば、大和タケルはどうされたんです?」
「・・・。彼は何かの目的を持って行動し始めた。問題はな・・・奴がただ悪魔の力だけを欲しているわけでは無いかも知れないんだ・・・。」
飯島には一応心辺りがあった。大和タケルと同じ名前のエネルギー「ヤマト」。そして、それを利用した「大和爆弾」通称ワ爆。
その資料を奴は知っている。
それが再び頭を過る。
「どうか、されましたかな?」
「あ、いえいえッ!」
脳内での論理を唱えていた飯島は強制的に意識を現実へと帰ってこさせられた。
「ですけど、真冬の戦闘は南部にとっては痛いでしょうな・・・。」
数日前にも話を聞いていた例の氷の女王。恐らく、そのことを示しているのだろうと一瞬で理解出来た。
「・・・。氷の女王はどう思いますかね。この戦争。」
「彼女は・・・南部は暑いと嫌ってらっしゃる。恩恵を受けるのはいつも北部の連中だけです。」
「とすると、圧されている北部としてはある意味希望ですかね?」
「そうなりますな。」
□■
セントラル 元北部セントラル基地。現南部仮設基地。
そこは焼け野原だった。と、同時に付近では仮設の建物が多く設置されていた。
「南部軍は未だ優位に立っている。」
一人の兵士が酒の入ったコップを片手に少し酔いつつ仲間内の話場にそんな話を持ち込んだ。
「ふっ。この戦争は我々には余裕だ。流石に最北まで行けば話違うがな。この間の小さな戦闘じゃぁ南部が敗北したそうじゃないか?」
「大丈夫さ。連中がここまで巻き返せるわけ無かろう。」
屈強な男達が寄ってたかって小さなテントの中に6人。狭いものの彼らはそれを一切気にせず本土戦争勝利を確信している。
彼らはセントラルカントリー出身者。
「しかし、この前は南部の船が一隻沈められたろう?あの中にアレスト・リサイト博士がいたそうだ。」
アレストもまたセントラルカントリー出身者で、片田舎としても有名なそこでの彼の知名度は確かに高かった。
「て、ことははもしかして今じゃ海の底かい?」
「・・・かもな。ただ、まぁあの人は考古学者としてというのは飽くまで表向きで裏じゃずっとエネルギー・・・?とかいうものを研究してたそうじゃないか。」
「何だそりゃ?」
エネルギーたる存在を魔法で利用している彼らにとって神の業とも言えるそれを表現することも出来ることも無かった。
そんな談笑の中に焦りの声が入る。
「おいッ!出撃命令だぞッ!」
「!?」
一同に焦りと緊張が蠢き出す。
外に出てみれば先刻とは一変。焼け野原も仮設テントも凍っているのだ。己たちは酒を飲んでいたのもあってそれらを感じることが出来なかった。
そして、上空に見えるのは数多の飛行隊兵士たち。
それだけでは無い。地上にはこれまた数多の動物たち。
「・・・くッ・・・。」
先ほど仲間内で話している時の余裕など何万年光年というスピードで過ぎ去り、後に残ったのは危機的状況と未だ信じられない心。
「氷の女王万歳!!」
上空からその声が轟く。それを一斉の合図にまだ戦闘状態にまともに入れていない南部軍の酔っぱらいたち。
軍から配布された剣を直ぐに引き抜く。
カンッキンッ!!金属と金属、金属と爪との擦れ合う音が一斉に鳴り出した。
しかし、やはりここまで戦ってきた兵士。不意打ちという形で始まった戦争の中でももう既に血を流して倒れている獣の姿もあるほどだ。
「喰らえッ!」
最早、酔など冷め切った先刻の調子の良い男が手から電気を放電させる。
「があああッ!!」
その電気を直に受け止める一頭の熊は全身に流れ込む強い電撃を我慢し続ける。静かに体制を沈め込み、そこからの跳躍―。
毛の多量に生えた右腕、その先から飛び出た鋭い爪。それらが地面を急スピードで這うが如く駆け抜ける。
最後に大きく振り上げる。と同時に三本の綺麗な筋が電撃を放っていた兵士に付けられた。そこから飛び出るは真っ赤な液体。
その液体を浴びつつ、熊はばたりと倒れる。そして、それほどまでの戦闘が他でも数多繰り広げられていた。
畏怖に落とされた南部軍は早くも撤退を始めていた。
「逃がすなッ!全員を殺せッ!」
アドレナリンが全身に染み渡った北部軍の兵士たちは南部軍皆殺しという司令を下す。
そして、それに臨機応変に対応する飛行隊。この寒さを何ともせずに上空をそれはまるで隼とも取れるスピードで舞始める。
「ど、どこだッ!?」
逃げ出した兵士に寒気が背筋を走り始める。
―逃げ出したい・・・。
だが、逃げられない。その、確証はどこにも無くとも戦場で行動した彼らの体が知っている。
目を回した方が負け。それを実証するかの様に舞う、それらの内の一つが左後方でピカッ!と光る。
攻撃だ!
だが、それは外れた様だ。空中で無防備にも止まっていた一人の兵士が再びホウキの先を握ろうとした。だが、掴めない。
右手は確かに握っている。だが、左はそれまでに切れている様にも感じられた。
何かに気づいた彼は静かにホウキの先の手に目をやる。そこにあったのは丁度関節で先を無くし、そこから液体が吹き出している左腕。
「あ、あぁぁ・・・・。」
悪寒が走りつつも興奮で気がつかなかったのだ。そして、ふと目をやれば次々に下へと堕ちていくホウキ群。その頃、下には人の死体ばかりがあって、立っている多くは獣ばかり。
そして、半ば絶望の谷間へと落とされている男が跡形も無く消されたのは僅か数秒後の話である。
消える間際に見たのは焼け野原がもう一度真っ赤な炎で焼き消され、同時に自分たちの痕跡も焼いている風景だった。
翌日。セシル・セルノーツが身を置いているセントラル・カントリーの宮殿。
「ほ、報告上がります。昨夜、セントラル第一基地で北部軍より襲撃。駐在していた南部軍兵士、約数百名が全滅。また一歩後退です。」
パリンッ!
女が紅茶の入ったカップを床に叩きつけた。女は前髪をえらく伸ばしており、それらが全て目を通り越して鼻の当たりまで垂れ下がっている。
そして、その合間からチラチラ見えるのは肉落ちで険しい顔つき、だが目だけは煌々と輝いたえらくやせ細った女。
名をセシル・セルノーツと言った。
「また、後退・・・!?どうして?三日前まで優勢どころ火炎の国まで取れたというのよ!それがどうして!?三日でこんなに下がったわけッ!?」
バンッ!!
壁に貼られた地図で丁度戦闘のあったセントラルらへんを叩きつけるセシル。それにビクつくメイド。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
体力の完全に落ちている彼女はそれらの行動だけで既に息を上げていた。
「あの女ね・・・。」
氷の女王の加わりにより北部が一斉に優勢になりつつある。それに気がついた彼女は目をギラつかせ命じる。
「何としても今の状況を保ちなさい!そして、そのまま春を迎えあの女が・・・眠りにつきさえすれば・・・。」
□■
同時刻 早乙女基地 管制室。
「・・・TACOMは?」
遂に動き出した飯島。彼は偵察機を既にイーストテンプルへと送り飛ばした後で解析に移っていた。
「確認します。イーストテンプルを中心に数百キロに渡り、円形状の文様が確認されます。」
「これが防御用の魔法陣と言ったところか。よし、編成した通りの中隊をCH-53で移送。イーストテンプルの入国を許可してもらえ!」
「はっ!」
「さらに、イーグルを護衛及び支援に回しておけ。」
準備を整えたそれらが一斉に慌ただしい早乙女基地を離陸していく。
そして、彼らはセントラル衝突の渦中へと戦場を移していく。




