FILE:36 深夜の闘争
テスト期間のため、水金土日を更新日とします!
ヘル・エリア最深部。
「後、一時間ぐらいで来るかな・・・?」
男―大和タケルは来客の登場を待ちわびていた。
「あぁ。憲兵殿。」
真っ白な空間と外界を結ぶドアに設置された小窓から目を覗かせ、憲兵に声をかける。
夜ということもあって目を擦りつつ、大和の話を聞く。
「ヒューズ・イノセント大佐と話がしたいんですけど・・・。」
憲兵は舌打ちをしつつ、憲兵室へと向かう。
「何だね?」
憲兵はイノセントを連れて、直ぐにやって来た。大和は何を思ったか憲兵をはずして二人で話がしたいと言う。
少し憲兵は困った顔をした様子だったがイノセントが承諾し、イノセントは牢獄に入って話を取れる体制に。
「それで?」
「・・・本土戦争は今?」
本土爆発までは把握していた戦状も牢獄に入れられてからは音沙汰無しで何も知らなかった大和。
「戦争か。五国戦争締結直後に南部による北部侵攻。これにより戦争勃発までは良いんだな?そこからは北部が押され続けている。」
「ですけど、そろそろ彼女が出てくる頃でしょう?」
広げられた地図。日本の大分北部の日本海を指し示す。
「・・・。確かにな。で、何が望みだ?」
イノセントは大和のその背後に隠された考えを掘り出す意も込め、その質問を投げかける。
「実に明快です。私をもう釈放してください。」
「・・・話にならん。」
呆れ顔でイノセントは部屋を後にしようとする。
「待ってください。この戦争を長引かせるか。早期締結か。どちらが?」
「・・・。」
セルノーツ北部 最北前線基地。
「隊長。第二基地よりテレパシー。上空に騎士団現る・・・だそうです。」
隊長と呼ばれた男は静かに後ろで待機する兵士たちに合図を送る。
「全員遺書の用意は出来てるな?」
全員が一斉に紙を差し出す。と、同時に回収されたものからほうきに跨る。
敵の情報を得てから5分。彼らは直ぐに宙に舞っていた。
しかし、天候は引き荒れる吹雪。鉄の塊である飛行機ですら吹雪の中飛ぶのは難しい。それを生身でほうきの上に乗っかっただけの彼らが堪えないわけが無かった。
吹雪のせいで視界は奪われ、寒さで体力の奪われる。
それでも時折ちらりと見える敵機を見つけては攻撃をする。攻撃をするというのは=自分の位置を特定させることでもある。
敵もまた光の連射やら高度な魔方陣を描いて攻撃をしかけてくる。
その中にいた一人の青年もまた北部軍の兵士だった。
「何だってんだッ!」
元々、移動以外にほうきに跨ることが無かった青年。吹雪の中での飛行など初体験だった。
おかげですでに体は限界を迎えていた。
最早敵ばかりに感じられあっちにもこっちにも敵がいる状態。目を回しながら襲い掛かる攻撃を回避していた。
彼の使える魔法など知れたもので、よくある光を飛ばす魔法に応用の電気を放電させた魔法程度。魔方陣などとは生まれてこの方無縁。
一機一機といちいち狙わなければならない放電魔法に加え、光の魔法の方が適当に放っていても幾分かはあたっていた。
「味方はッ!?」
本当に味方がいないのでは・・・?全身がさらに緊張を高める。テレパシーを試みるが自分たちの共有精神下(魔法の力を使って、人の意思を共有した世界。)に人の気配を感じることは無い。
「本当にッ!皆・・・死んだッ!?」
今まであった確かな支えが崩れ去った時でもあった。そこからはほとんどがむしゃら。敵機をいくつも墜とした。
「・・・海面ッ!?」
しかし、それも直ぐ終わりを向かえ、気がつけば頭上に海面がある状態。
彼は方向感覚ですら失っていたのだ。
気がついたのが遅かったのが不運なことで、彼は11月後半の極寒の日本海へ投げ出された。
だが、そんな着水した程度では何にもならなかった彼は直ぐに海面に顔を突き出す。
上空に見えるのはやはり敵機のみ。しかも、海面には大量のほうきが浮いていることにも気がつく。
「・・・俺はもう死ぬのかな・・・?ははっ。遺書・・・役に立ちそうなこと書いてないわ・・・。」
今更、遺書の内容に後悔していた。
しかし、そんな時間も束の間。気がつけば目の前には同年代の南部軍の兵士。目が合って、北部軍と気がついた様子。
眼力のみだが、確かに青年に伝わった。
―お前を殺す・・・。
―あぁ。分かっている。
テレパシーが使われたわけでも無く、本当にお互いの意思。それが通い、青年は日本海へと沈んでいった。
□■
青年たちが深夜の闘争を繰り広げていた頃、ヘル・エリア最深部。
西達は結局最深部に来るまで一時間を有していた。
「確か、最深部の牢獄は一つだったな。」
「はい。」
一つのみ設置された扉の前に立って、例の小窓から目を覗かせる西。
しかし、そこに広がっていたのは真っ白な空間のみですでに蛻の殻。
ドアノブを捻って扉を引けば開く。
「・・・逃げられたのか・・・!?」
チィィィィ・・・・。
金属の鋭い音が二つ三つ。そして、西の顔を隣にその鋭利な物体。
「貴様ら・・・ここで何をしている?」
「・・・し、司令ッ!」
滝があせった表情で西に指示をあおる。西は少し口角を上げて、腰に手を当てる。
そこからは神業の如く神速に筒状の何かを取り出しピンを抜く。そして、それを少し開いた独房の中へ放り込む。
「な、何をしたッ!」
この男が何をしたのか分からなかった憲兵は顔を顰める。
ボンッ!と短い破裂音の後からシュゥゥゥと煙が立ち込める。
「毒ガスだッ!」
白田が見計らった様にフォローを入れる。それを信じる憲兵は直ぐにその場を離れる。
「今だ!逃げるぞッ!」
全員は一斉にスーツを着て、再び姿を隠す。そして、下来た階段へと滑り込む。
□■
イーストテンプル付近の洋上船。
「・・・南部軍は強いな・・・。」
一人の考古学者、アレスト・リサイトが船上から海を見渡す。
南部の今で言う中国地方出身者であった彼は南部軍の勝利の報告がいつも喜ばしかった。
職業柄、世界を飛び回っていたアレストは戦争をこれぽっちも知らなかった。
代わりに知っているのは絶対王と呼ばれたイヴィル・クラークの死。
しかも、それが南部のアランカ地方の人間の手によるものだと知った時は大層驚いた。
だが、そんなことを考えている頃、上空。
「おい。ありゃ南部軍の船じゃねぇか?」
「・・・らしいな。生憎空の俺たちには気がついていないようだ。さっさと沈めてやろう。」
ほうきの角度を一気に下に変え、
「氷の女王ッ!!万歳!!!」
その掛け声を合図に急降下を始める数多のは飛行隊。
後方から一気に船に集中攻撃。強い船であろうと初撃がこの様子だと長くは持たない様に見られた。
「な、何だッ!?」
アレストは船を異常を直ぐに察知出来た。後方では幾つもの光が漏れ、それらがすべて船を捉えている。
そして、後方からゆっくりとそれが傾き始める。
同時に目の前に子供の姿が見える。そして、上に柱が今にも倒れそうな状況。
アレストは直ぐに走った。
グワン。
急所に当たったのか、船が大きく揺らぐ。そして、再び子供の方へ目をやると衝撃に気がつかなかったのか柱は倒れていた。
そして、柱から少し出ている小さな手の近くには確かに赤い血が流れていた。
「博士!お逃げにッ!」
やっとのところで海の里の兵士が声をかけてきた。アレストは直ぐに海に飛び込む。
海は大分と冷たさを持っており、全身に痛みが走る。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
いつの間にやら数箇所から火を上げていた船はその巨体を既に半分以上海に落としていた。
「・・・あぁ・・・。」
飲み込まれない様に意識を保ちつつ、その光景を見続けるアレスト。
そして、自分もまた戦争の渦中にいるのだと気づかされたのだ。




