FILE:1 超現象
20XX年 日本政府は憲法9条を改正し、自衛隊は国防軍となった。
同年、国防軍基地は大小含め、日本全国に派生した。
翌年、国防軍を陸軍、海軍、空軍、総軍の四つに分けられた。
総軍基地 早乙女基地。
「また、デモ活動か・・・。」
「はい。隣接する陸軍でも確認されてます。」
そう話すのは浅田ケンジ司令官と西シュンスケ中尉の二人。国防軍に切り替わってからは、軍に対する風当たりはとにかく強い。
さて、現在軍は総合軍、陸軍、海軍、空軍と分けられている。総軍を除けばある程度想像はつく。総軍という存在は聞きなれないだろう。
総軍。そのままで陸海空軍の総括というべき存在である。そして、早乙女基地は総軍基地と陸空軍とが隣接している。残念ながら早乙女基地は山あいで海軍は数キロ離れている。
「しかし、日本古来からの技術に加え、アメリカの武器援助が上がってからはさらに国防軍はさらに強化されていますよ。領海侵犯を行う船も少なくりましたし・・・。」
西中尉は少し不満げな声を漏らした。
「いいさ、人間というのは常識的にあるものを嫌っても認めることは無い。いつも非常識たる出来事が起こらなければ助けを求めることは無かろう。」
「存じ上げております。」
外は既に夜と同化し始めており、見張り番の兵士たちはライトをつけ始める。
窓際に少し寄りて、浅田は別の話を紡ぎ始める。
「忌まわしいな・・・我々にとってあの月は・・・。」
窓から上空を見つめてどこか哀愁のトーンでそんな言葉漏らす。
先進国共同作業プロジェクトの集大成とも言える【月の平和シンボル】
人間が同じ過ちを繰り返さないために月に描かれた平和を象徴するハートのシンボル。しかし、戦争に携わる人間にとってはどれだけ心を痛めるものか・・・。
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早乙女総軍 地下本部。
「さっき司令とも話したが、国防軍の基地というのはすごいんだな・・・。」
西中尉は仲間内の兵士たちと酒を酌み交わしていた。国防軍と言ったところで実戦経験などありもしない。毎日毎日、いつくるかも分からぬ敵に向けて訓練を重ねていた。
「そうですねー。早乙女は特にアメリカに優遇されています。オスプレイの完成版だって最初に配置されたのはここの空軍が最初ですし。」
そう話すは斉木トシキ曹長。彼らは高校の先輩後輩関係。
「・・・戦争が起これば真っ先に投入される人間ということだろうな。」
「本当に戦争なんて来るんでしょうか?」
酒の入った人間というのは脆い。それが簡単に分かる顔つきを二人は知らない内にしていたのだ。
「戦争というのは結局人間の心だ。起こすのが人間なのだから。人間の心を100%理解出来る日などきっと来ない。つまり、戦争というものを俺たちは生きている内に理解することは出来ないということだ。」
「・・・そう、ですね。」
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同時刻 早乙女空軍本部。
「妙ですね・・・。」
最初の言葉はそこから始まった。
その言葉を発する者が見つめる気象レーダー。予測していない雲が突如現れたのだ。
「地上で見させるか?」
「いえ、何が起きるか分かりません。取り敢えず、上空を見られるカメラを外に何機か配置してください。」
「了解。」
それに呼応し何名かの屈強な男たちが外に出た。
「何だ!?この風!?見張り番はどうして連絡をよこさない!」
そうして、一人の男が無線機に手をかけた。CALLを試みるものの・・・。
「どういうことだ?どうして、基地内を通すことが出来ない?」
「どうした?」
そこに現れたのは西中尉。
「西中尉!」
西もこの風には驚いた表情を見せる。顔には恐怖もあった。
「・・・何だ?こんな悍ましい感覚・・・初めてだぞっ?」
西の中に30年分の経験は刷り込まれていたつもりだった。まさに本能が危険を察知している。
だが、直ぐに収まり始めた風。杞憂の様に感じられた。
しかし、その杞憂は上空であっさり消された。
「'月の平和シンボル'が・・・消えた・・・ッ!?」
彼らの遥か上空で煌々と輝く月のころ。だが、その表面に平和を象ったマークなどありもしない。
ただの月とも言える。
全員の体に何か寒いものが走り込む。
―これが恐怖なのだと・・・。
「上空に光る物体の確認っ!」
そんな恐怖などお構いなしの状態で、その声は一人から発せられた。
「攻撃か!?」
口々に聞こえる各々の男たちの声。
光る物体は静かに地に降りる。
「・・・宙に浮く小人・・・?」
それを世の中では妖精とでも言うのだろうか?だが、敢えてここではそう考えた。
―認めるわけにはいけなかったから。
「あんたたちは誰っ!?」
その小人は俺たちを睨みつけている。だが、それはお互い様の状態。
―本当に俺たちはどうしたのだ?
その疑念だけが、西の中にはあった。
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