デルガト陥落3
「ポール・ウェイトよ。そこに直れ」
南部自治団の頭目であった男は、少し笑って首を差し出した。
私は、自分で使うには少々大きすぎる剣を構え。
それをゆっくりとポールの肩へと落とす。
「えっ?」
斬首を覚悟していたのか、ポールは肩に刃を寝かせて落とされた剣に驚いた様子である。
「南部流人ポール・ウェイト。我、ユリアナに忠誠を誓うか?」
私は、直参の家臣にほどこす宣誓の儀を行ったのだ。
「なぜ?」
「我に忠誠を誓わんのか? 誓わんのなら逆賊とし処罰するが」
あわててポール。
「誓います。忠誠を誓います!」
「よろしい、では、これよりポール・ウェイトは我の家臣である」
私は、剣を戻し。
「我が家臣でありながら、デルガトを乱した罪は重い、ポールとその一党は全財産を没収とする。それとは別に、デルガト城門の改修は見事であった。褒美をとらす」
なんだか理解が追い付いていないポールであるが。
要は、ポールを家臣として召抱え、南部流民も受け入れる。
だが、騒動を起こした罪は裁かねばならないので財産は没収する。
そのままでは、生活が出来ないので、デルガト城門の改修を賞し褒美をあげるので、それでしばらく生活するようにとの事だ。
こんなサービス、めったにしないんだからね!
そんな事をいうのならば、最初から南部流民を受けいててもよいのではないか? との意見もあろう。
だが、戦いで負ける事で、南部流民は『南部流民』を捨て『デルガトの民』としての通過儀礼を受け入れた事になる。
一切の通過儀礼も無く、古い住民と同じ権利は与えられないのだ。
「ポールよ。デルガト代官を助けてやってくれ。皆で協力して、我が領地を良く治めよ」
「はい、末姫様! 励みます。皆と励みます」
私は、縄を解かれても土下座のままの男を残して、代官屋敷を出た。
「血汚れが酷すぎるぞ。ここはしばらく使えんな」
獣人傭兵との戦闘で、あちこちに死体が転がる代官屋敷は、直ぐには使えなかった。
「見分が終わり次第に、洗いにはいります」
士官の一人が答える。
「うむ。任せる」
「とりあえずは、大聖堂に挨拶へむかうかの」
私と警備の一団は、代官屋敷からすぐの大聖堂に徒歩で向かった。
途中でグレタが臭い消しの香料を振りまいた。
どうやら、我らはすごく血生臭かったようだ。
もう、鼻がバカになっているからイイんだけれども。
「ユリアナ姫殿下、御来訪を感謝いたしまずぞ」
デルガト大聖堂の大神官が出迎えてくれた。
たぶん、私の洗礼をしてくれた大神官だと思うのだが。
名前は忘れた。
「大神官殿もお元気な様子でなによりです」
「ふぉふぉ。ユリアナ姫殿下もお変わりなく」
うん?
今『お変わりなく』と言う時、どこ見ていた?
胸だけお変わりなくとか思っていたのか!
プンスカ!
いやいや、落ち着こう。
「住民の揉め事で騒がしくしてしまいました。この後は、少しは落ち着くと思う故、ご容赦願いたい」
「人が集まれば諍いも起こりますよ。世の常がございます。ふぉふぉ」
「ご寛容に感謝いたします。何かご不自由はありませんか」
「通常の祭事には不都合はございません。ですが……」
大神官は、言葉切って私を凝視して。
「少し困った事がありますのじゃ。ふぉふぉ」
あれ?
なんかやっちゃったかな。
大神官との話で、明日また大聖堂に来ることになった。
なにゆえ?
大聖堂から王家墓所へ行き、先祖の墓と母上の墓に参る。
日々の手入れた賜物か、墓所は清浄に保たれたいる。
さておき、私は寝所としてマウリス館に向かている。
私が生まれ育った館だ。
「お嬢様、おかえりなさいませ」
私を育ててくれた乳母が、今は館守として仕えてくれている。
「うむ、世話になる。私の部屋は?」
「はい、変わりなく」
「では、部屋で休ませてもらう。夕餉は軽い物を部屋まで持ってきてくれ」
「はい、お嬢様。承りました」
私はグレタを伴って、私の部屋へと向かった。
転生前のユリアナが育った部屋。
違和感もあるが、懐かしくもある。
奇妙な感じだ。
「ユリアナ様、もう休まれた方がよろしいかと」
「それほど酷いか?」
「化粧で分かりにくいですが、顔から血の気が失せております」
どうやら貧血一歩手前らしい。
胃がちゃんと動いていないので、飲まず食わずで動き回っていたから仕方がないか。
グレタのすすめで寝椅子に横になる。
「無理が過ぎます。やはり、あの薬はお体にさわりますわ」
「だが、死体を見ても恐怖を感じなかったぞ」
「そうではございますが……お薬が切れましたら、酷いフラッシュバックを起こすかしれませんよ」
「覚悟の上じゃ」
今の私は、ある種の精神安定剤を服用している。
初陣の者が、戦場で取り乱すことのないようとの配慮から、密かに服用している薬だ。
私は、実際の戦場に立つのは、これが初めてなのだ。
司令官であり王族である私が、戦場で震えていては勝てる戦も負けてしまう。
大人の精神が入っているとは言え、体は小柄で繊細な女性のもの。
何かの拍子に、パニックを起こしてしまうかもしれない。
それを、無茶を承知の上、薬で一時的に抑え込んでいるのだ。
とはいえ、最前線に立って指揮など、もうないと思う。
このような無茶は、今回限りの事だろう。
やはりと言うか、お約束と言うか。
その夜、薬が切れたら途端にフラッシュバックを起こしたしまった。
次々に脳裏に浮かぶ戦場の映像にパニックを起こした私は、グレタに抱えられたままで涙を流し嗚咽をもらした。
まったく、情けない。
お読みいただきありがとうございます。
デルガト半島動乱編の本編は、これにて終了とさせていただきます。
後、戦後処理とか次章の繋ぎの話を入れる予定ですが。
ストックが無くなりましたので、次話は少し時間をいただく事になると思います。
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誤字脱字などございましたら、お知らせくだされば幸いです。




