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大砲姫  作者: 阿波座泡介
デルガト半島動乱編
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デルガト陥落

近衛の到着を待っていた我ら南部自治団の元に末姫と私兵どもがデルガト城門に現れたとの報が入る。やはり、近衛より私兵団が先に到着してしまった。とにかく時間を稼がなければならない。私兵団は戦闘からくり(テクニカル)を出して脅してくるが、獣人が機械弓を放つと逃げ出してしまった。

意外に大したことはなかった。

次の日も私兵団はテクニカルを出してきたが、同時に沖から煙を出す船が大砲を撃ってきた。

デルガト湾の水門が壊され、監禁していた代官が逃げ出してしまう。

誰か手引きした者がいたようだ。古い住民は代官を残して全員が逃げ出したのにどういう事だ。

追いかけようと船を出すと、湾を出て直ぐに海中で爆発が起こり、追跡の船は沈んでしまう。

どうやら、海中に爆発するからくりが仕掛けられているらしい。

湾から外に出ることはできなくなった。

獣人傭兵どもが、代官の監視をしていた者を処罰しようとしたが、なんとか宥めて事なきを得る。


そして、頼りない女が白旗を掲げて『和平の話し合い』を申し出てきた。


これは、近衛が来るまでもなく解決かと思ったが。

和平の話し合いは、末姫様の乱暴な提案でいきなり破談となる。


やはり、乱暴な末姫様とは話し合いは無理だった。


次の日から絶え間の無い爆発の音がデルガト中に響く。

和平の話し合いで末姫様は鉱夫の働きでデルガトを落すと言っていた。

トンネルを掘ってデルガトを攻める算段だろう。

だが、デルガトの岩盤は固い。

これを掘って外から城内へのトンネルを穿つなど不可能であろう。

この話を聞いた獣人傭兵たちも愚かな策だと笑っていた。


それから数日して、事態は変わる。

海を捨てられた瓦礫の量に獣人傭兵たちが騒ぎ出した。

どうやら、廃棄された瓦礫の量から逆算すると、すでにトンネルは城内へ達しているらしいのだ。

まさか、これほどの短時間でトンネルを掘ってしまうとは……


この頃には、仲間たちからの苦情が多くなる。


連日昼夜を問わずに続く爆発音と振動に、仲間たちの多くは不眠で体調を崩しているのだ。


いったい何時になれば近衛は到着するのだろうか?

そんな不安を抱えていると、槍を持った獣人が我らに迫って。

「お前たちも戦え」

と、言う。


それでは約束が違うではないか!


しかし、抵抗しようにも、我々は戦闘の訓練をしていないし、武器を管理しているのは獣人傭兵なのだ。


槍を突き付けられて分かった。

私たちは、傭兵の主人ではない。

傭兵の奴隷なのだ。


城門からデルガト市街への道の左右に人が一人入れる穴を掘って、そこに仲間が一人づつ入れられる。

彼らは槍を一本持たされ火薬の入った樽を体に縛り付けられた。

後ろには弓を持った獣人傭兵が配置される。

その弓は、どうやら火矢らしい。


あまりにもトンデモナイ事態に、抗議した者がいた。だが、見せしめに拷問の末に殺された。


そして、末姫の私兵団によるトンネル攻撃を防ぐために、対抗トンネルを掘る工事が始まる。

これにも多くの仲間が投入されたが、硬いチャート岩盤はノミとハンマーを使ってトンネルを掘るなど不可能なほどに硬い。

火薬を使って穴を掘ろうとするも、爆発しても少し岩盤が削られるだけ。

しかも、火薬が悪いのか不発が多く、仲間が怪我をするばかりだ。


このままでは、近衛が来るまでに仲間の大半は死んでしまう!


いや、そもそも、本当に近衛が来るのか?


近衛が来るのに、こんな事が出来るわけがないではないか!


まさか、私たちは騙されていた?


次の日。


その日は、朝から静かであった。


いつも続いていた爆発の地響きが無いのだ。


仲間は、私兵どもの火薬が無くなったのだと喜んでいたが。

獣人傭兵は違った。


トンネル工事を中止して、すべての者が戦闘体制となる。


多くの者が、槍を持ち火薬樽を背負って『たこつぼ』と呼ばれる小さな穴に入る。

デルガトの表土は薄いので、穴の深さは五〇センチほどしか掘れない。

それ以上に掘ると、岩盤に当たるか地下水が出てくる。

掘った穴に身を隠すが、あのテクニカルが来たらひとたまりもないだろう。


仲間たちの直ぐ後ろには獣人傭兵が身を潜めている。


私たちが逃げだしたら後ろから攻撃するつもりだ。


背中の火薬樽からは紐が出ている。

テクニカルが来たら紐を引けと命じられているが。

紐を引くとどうなるのだろうか?

樽の中は火薬だ。

爆発するものだ。

紐を引くと、爆発するのではないか?

いや、爆発するに決まっている!

樽の背負い紐は背中で硬く結ばれている。

そのままで爆発すれば、俺たちは確実に死ぬ。

それに気がつくと、恐ろしくなって槍の穂先をゆっくりと動かして背負い紐を切ろうと図った。

しかし、後ろから獣人の叱咤の声が響く。

私は槍を元の位置に戻したが、なんとか背負い紐を切ろうとした仲間がいた。

彼は、後ろから矢をいかけられて死んだ。

死体は火薬樽とともに道路に投げ捨てられる。

獣人どもは、少しは足止めになるだろうと笑う。


なんで、こうなった!


その時、天から奇妙な音が降ってきて、大地が裂けて火柱が上がる。


それが、私兵団の攻撃と気がついた時は、周りは火と瓦礫の荒野に変わっていた。


------------------------

南部自治団当目の話は続くようだが。

一旦そこで、話を止めて質問をした。


「おぬしらがテクニカルと呼ぶのは、我が開発したモビルスチームの事か?」

「モビル何とかが分かりませんが、煙を吐いて陸を走るからくりです」

どうやら、テクニカルとモビルスチームはイコールらしい。

「なぜ、あれをテクニカルと呼ぶ?」

「それは、獣人傭兵がテクニカルと呼んでいたもので……」

「ほう。なるほど……いや、参考になったぞ」

一応、礼を述べておいた。


テクニカルとは、現代地球の用語だ。

あまり一般的な名称では無いが、その映像ならニュースなどで多くの人が見ていた。

民生のピックアップトラックに銃やら機関砲を積んで武装した魔改造戦闘車両だ。

これらは総称して『テクニカル』と呼ばれる。

機動力と武装はそこそこ。

防御力は皆無。

整備と調達は手軽で、購入費用と維持費はバカほど安い。

貧乏国軍隊から不正規武装組織までご愛用の兵器群だ。

主に日本国の某企業の製品が多く使われたので、テクニカルが使われる戦争は『ト〇タウォー』とも呼ばれている。

ある意味で、もっとも成功した日本の武器企業かもしれない。

まあ、とても不本意な事であるとは思う。


つまりは、現代地球知識を基にした言葉で、それを新型の機動兵器の名前に使ったのだろう。


私は呼んでいないし、この国で他に機動兵器を開発している話は知らない。


と言う事は、テクニカルは多分は大陸で使われている言葉だ。


なれば、テクニカルを獣人に教えてのは、アスラン・ド・アズナブル率いるグリム連邦か、それに敵対するウルオン帝国あたりだろう。


となれば、そのどちらかがスポンサーだ。


私はグレタに命じて砲艦リフォーマーに緊急の命令を伝えた。


大兄上の身に危険が迫っている。


間に合えば、良いのだが。


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