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大砲姫  作者: 阿波座泡介
デルガト半島動乱編
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デルガト・レポート

代官であったエドウィン・ハリスとの問答で、デルガト城内の詳しい様子が分かった。

「捕らえられて軟禁であったと聞くが、細かいことまで詳しいではないか」

「確かに、私室に押し込められておりましたが……」

エドウィンの言うには。

私室に閉じ込められて外出は禁止されていた。

しかし、窓から周囲を見ることは禁じられていなかった。

しかも、監視役が話好きな奴で、聞いたらなんでも教えてくれたらしい。

「それは……どうなんじゃ?」

敵ながら大丈夫なのか。

「思いまするに、彼らは平民でございます。軍人の教育はされておりません」

「情報の重要さを知らないのか」

「そのようでございます」


詳しい城内の様子を聞くとエドウィンが紙とペンを望んだ。

与えると、猛烈な勢いで地図と図面を書きあげた。

「わたくしの知る限りの情報でございます」


それは、デルガト城内の兵配置や施設配置を記入した地図と城門周辺の改修図面だった。

ものすごく役に立つデータだ。

「なになに。城壁を低くして、土の壁を増築するか。なるほど」

「はあ~? なんでそんな事をするんだ」

アンジェラは、デルガト城門改修の意味が分からない様子だ。

「この改造の意味がわからんか?」

「わかんねえよ。城壁ってのは石で出来た高いやつの方がイイんじゃねえの」

「まあ、普通なればそう思うだろうが……これは、砲戦要塞に改造されておるぞ。あの城門は」

「砲戦要塞?」

「大砲での攻撃を想定した城だ」

「城壁なんて、姫さんの大砲の一撃でパーじゃねえの?」

「普通の石積城壁ならばな」


石を積み上げた城壁は、大砲の攻撃に弱い。

堅牢な城壁も、崩れればただの瓦礫である。

それが、頭上から落ちてくれば、味方の損害の方が大きい。


翻って、現在のデルガト城は、城壁を低くして崩れるリスクを減らし、厚く固められた土の壁は少々の砲撃では穴が開くだけ。その修理も簡単にできてしまう。


「なるほど。あの工事にはそんな意味があったのでございますね」

エドウィンまで感心している。

やはり、大砲での戦いを理解している者は少ないようだ。



「実の所、わたくしには、この工事も意味が分かりかねるのでございます」

言いながらエドウィンは城門前の坂の図面を書き始める。

それは、上り始めは急勾配で、登るほどに徐々に勾配が緩くなる坂であった。

「以前は見通しが良いように一直線の坂だったのですが、私を監視しておりました者も、工事の意図が分からないとぼやいておりました」

「なるほど、この坂は難物じゃな」

私には、この坂の戦術的な意味が分かった。

「坂の上と下じゃあ上が有利なのは道理だが……それだけの話じゃないのか?」

アンジェラは問うてきたので。

「こちらの砲弾は敵を捕らえる事が出来ず。敵は狙わずとも我を倒せる。そんな坂じゃ」

「そんな事が、真に出来るのでございますか?」

エドウィンも驚いている。

しかし、先ほど、私たちは件の坂で苦戦したのだ。


さて、デルガト城門正面の坂である。

城門前は狭い広場なので、攻撃側はここを通って坂を駆け上っての攻撃となる。

この坂は、簡単に上れるようで人の足で上るとなると、当然速度が落ちる。

しかも、城門の左右には出城のような張り出しがあり、ここに矢狭間が多数開いている。

突撃の速度が落ちたところを前左右から弓矢で攻撃されると歩兵ではひとたまりもない。

弓を防ぐ盾やら装甲を備えると、今度は機械弓の出番だ。

低くなった城壁は、その分厚みを増して、複数の機械弓座がしつらえられていた。

坂の下から直接見えない場所に設置された機械弓から放たれた大型の矢は、四号ちゃんの装甲をも貫いた。

「この坂のカーブは、機械弓から放たれた矢の描く放物線に沿っている」

「……放物線??」

アンジェラは混乱していた。

つまり、デルガト城城門の機械弓はほぼ水平に矢を放つ。

矢は重さで少しづつ下に落ちる。その落ちる分の土を削って坂にしているのだ。

「なんで、そんな手間をかけるのでしょうか?」

エドウィンである。

私は、背後の黒板に緩やかに曲がる坂とそれに平行な矢の弾道を描いた。

「こうしておけば、坂のどの場所に敵がいても照準の調整なしに狙える」

「あっ、なるほど。道理でございますね」

さすがに王領の代官を務めるだけあってエドウィンの理解は早かった。

アンジェラ軍曹は、変わらずに混乱していた。

「しかも、こちらからの攻撃は……」

私は黒板に、坂の下の四号ちゃんを描き、その砲身から直線的な弾道を描く。

「このように、大砲の弾はほぼ直線に飛んでゆく。坂を削るか、城門を超えて砲弾は飛んでゆくだけじゃ」

つまり、いまの状況では、敵の弓は有効だが、我らの砲撃は無効となる。

「意見具申!」

カペラ伍長が挙手をする。

「許可する」

「迫撃砲は有効ではありませんか?」

「うむ、有効じゃ」

直線的な弾道をとるユーイル砲は、遮蔽物越しの中間距離目標は苦手なのだ。

迫撃砲は砲弾を上に撃ち上げる。

「だが、確実な攻撃にする為には着弾観測が必要じゃ」

敵が見えない状況での迫撃砲での攻撃は面制圧でしかない。

着弾観測による着弾の修正をおこなえない面制圧射撃ではよほどの物量をもって臨まないと装甲化されているであろう敵攻撃拠点を無効化できない。

つまり、確実に敵の攻撃を封じるには着弾観測がいる。

残念ながら、着弾観測できる場所がないのだ。

「ふむ……白旗でも用意するかのぉ」

私が呟くと、一同は嫌な顔になった。

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