人質奪還
デルガト城門からサヨナラ突撃……いや、戦略的転進を果たした我ら平民軍であるが……すいません、単に攻めあぐねて逃げました。
さて、帰路の途中でデルガト城の海側で爆発音が響く。
「おう? なんじゃ」
懐中時計を確認したルイスが。
「リフォーマーの砲撃と思われます」
そういえば、威力偵察と同時に人質救出作戦が進行していたのだった。
「さて、成功したかのぉ?」
今回の威力偵察は、敵の出方を見ると同時に南部自治団に囚われている代官救出の陽動でもあったのだ。
その後、もう一度だけ爆発音が聞こえたが、これはリフォーマーの砲撃とは音質が違っていた。
「新兵器かのぉ?」
中継基地であるカトチャ村へ向かう途中で、白い排煙を吐き出しながら波を割って進むリフォーマーが追い着いた。
リフォーマーから発光信号が送られてくる。
「救出作戦は成功であります」
カペラは発光信号を読み上げる。
「うむ。『了解』と返信せい」
「返信しますぅ」
ルイスが、発光信号機のシャッターを開け閉めして光信号をリフォーマーへおくる。
短い発光が三度だけ送られ、リフォーマーは加速して私たちを追い越していった。
で、私たちはデルガト城門から小さな漁村改造の前進基地であるカトチャ村に到着した。
先に到着したリフォーマーは沖合に停泊し短艇がおろされている。
カトチャ村を前進基地としたいのだが、土地が狭いので平民軍が本格的に進駐すると村人の居場所を奪う事となる。
「いざこざは避けたいしのぉ。村人には金を払って退去させるか?」
などと呟きながら、仮司令部として浜に設置した天幕に近づく。
「よう姫さん。負け戦だって?」
天幕の入り口にはアンジェラ・パフスカ軍曹が敬礼して待機していた。
敬礼はちゃんとできるようになったが、口のききかたは相変わらずだ。
「ああ、四号ちゃんを二両もやられたわ。我は悔しゅうて仕方がないぞ」
「それが悔しくてしかたがない貴族の顔かい?」
「まあ、最後に勝てば良いのじゃ」
「ははは。違いない」
そう言いながら天幕に入ると、そこに土下座した中年男がいた。
「だれぞ?」
私の問いに。
「申し訳ございませんでした! 姫殿下」
と、土下座男は土下座のままで謝罪してくる。
救出された代官だ。
そりゃあ、自警隊の長である代官が、領地奪われて主人の一族から武装集団が派遣されたら土下座するよな、と思う。
自害しないだけメンタル強いか。
「役目大義であった。ユリアナの命で、そちの代官職を一時解く」
「拝命いたしました」
代官は頭を上げることなく、私に対応している。
家臣の態度しては正しいのだが。
正直、やりにくい。
「表をあげよ」
私の言葉に、はじめて代官は顔を上げた。
愛嬌のある面構えだな。
「名乗りを許す!」
との私の言葉に、首を垂れた代官は
「エドウィン・ハリスでございます」
と答える。
「エドウィンよ。私はデルガト奪還の王命を受けて来たのだが。情報が足りん」
実際のところ、撃退するにしても交渉するにしても情報が不足しすぎている。
「私の知る限りの事でありますれば」
「うむ。では、大聖堂の神官はご無事かな?」
「はい、反逆者共も、流石に神殿には手を出しておりません」
一応は、安心か。
神官に手を出したら、問答無用で討てるのだがな。
「それは朗報じゃな」
一応は嬉しい知らせと言っておこう。
「まことに」
エドウィンが答える。
「我が生家は?」
私が生まれた館の様子を聞く。
「そちらも、守り人ともどもに変わりはございません」
「うむ、なによりじゃ」
「もったいなくございます」
グレタが家臣礼で答える。
母上の遺品に手を出したら、私はゼッタイコロスマンになるからな!
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