砲艦リフォーマー
昨年定年で退役したバジル・リステンは、元海軍大佐だ。貴族位は騎士伯。
平民出身でなければ伯爵位を得て提督になっていたとも噂がある。
事実、貴族家に婿入りさせて提督にしようと動きもあったらしい。
そんな周囲の思いを知ってか知らずか、彼は同じ村出身の平民娘と結婚しており、現在でも愛妻家と聞いている。
「そう言いながら、おぬしはここにあるではないか」
私がバジルに言葉を返す。
「いやはや、あんものを見せられては、家にこもっておられませんぞ」
バジルは笑いながら答えた。
「では、新造砲艦『リフォーマー』の運用を任せたい」
「喜んで拝命いたします」
「うむ、よろしく頼む」
私が私費(火薬製造で儲けた金)で王家に依頼して、改修をした砲艦リフォーマー。
実のところ、元は五年前に建造された木造貨物帆船だ。
ところが、設計ミスがあり、復元力(船が傾いても元に戻ろうとする作用)が極端に低い事が判明。欠陥商品としてバックヤードで眠っていた。
これを買い取って改修したのだが、魔改造艦であるリフォーマーだ。
後付けで蒸気機関にスクリュー推進機関にスポンソン(張り出し)砲塔八門を取り付けて、バランスをとるためにバラストを大量に投入、船腹に張り出しのバルジを追加して帆柱は大幅にカットした。
元海軍大佐がなんでこんな魔改造艦の船長を引き受けたかと言えば、彼は海軍時代『大洋派』であったからだ。
現在でも、マウリス海軍には『沿岸派』と『大洋派』の二派閥がある。
沿岸派は沿岸航路で、奴隷を使った手漕ぎのガレー船で沿岸襲撃を主任務とする。
主流であり保守派だ。
大洋派は自由航路で帆船を使い船員は志願者として、貨物船の護衛を主任務とする急進派である。
現在のマウリス海運は、手漕ぎ船から帆船へ変わり、航路も沿岸から離れている。
つまり、旧来の軍艦ではカバーできない海域を航海している。
旧来であれば、海運と軍事行動は別ものだ。
従来の戦いなら、貨物船がどの航路をとろうが、軍事作戦への影響は薄い。
しかし、戦は総力戦に移行しつつあり、国家の経済活動の保安が軍事作戦の一つとなってきている。
この状況において、海軍の目的の一つが『シーレーン』の確保。
そして目下の問題となるのが、私掠船だ。
私掠船は、ある国家に公認された海賊で、支援基地として軍港が使える。
その国家の狙いは、雇った海賊に特定の船を襲わせて、他国の利益や制海権を脅かそうと狙っている。
気分はもう不正規戦である。
だが、立て前は「取引している独立武装商船が勝手にやっている海賊行為」なので、現在の習慣法では国家は合法だ。そして、海賊行為を行っている武装商船は、襲撃される国からは完全にお尋ね者である。
捕まれば縛り首の上で晒し刑となる。
そんな私掠船に対抗するには、海賊を追跡・撃退できる武装船によるシーレーン確保が有効である。
この場合のシーレーンとは商用航路と同じだ。
とは言え、移動手段は風任せ、攻撃手段も体当たりか、弓と刀による乗り込み戦闘では、効率が悪かった。
そこに私の造った大砲と蒸気機関の登場である。
海軍でも大砲を利用した蒸気動力軍艦の案があったらしい。
しかし、突然に登場した大砲と蒸気機関である。
どのように利用するのか?
どんな船に積むのか?
本当に使えるのか?
実戦経験はあるのか?
と疑問の声が多かった。
結局は、試作艦を建造してみようとなった。
この話を聞きつけた私は、いち早く計画案を提出したのだが、採用されたのはミサイル艇ほどの小型船のプランだった。
それは、海のものとも山のもともしれない新技術なのだがら、いきなり大戦艦とか無理なのはわかるけど……もうちょっと、ねえ。(いや、船なんだから海のものでしょう)
で、その小型蒸気砲艦は、このユーイル王立造船所で二隻建造され、様々な試験が行われたのだ。
しかし、評価は低かった。
曰く、武装が貧弱(だって、小型船だもん)
曰く、乾舷が低く外洋航海に適さない(だって、小型船だもん)
曰く、居住性が悪い(だって、小型船だもん)
ほかには、船から煙が出るのは縁起が悪い(縁起ってなんだよ!)
事程左様に、ケチをつけられた。
試験が終わった試験船は私がひきとったが、外洋航海もできる大型蒸気武装船の建造計画は目途が立っていなかった。
待ってはいられない私は、私費を投じて強引に魔改造艦に手を出した次第である。
それを見たバジルは「これは航路保護戦に使える」と直感したらしい。
私の方も、バジルの人となりや経歴を知っていたので、新型艦艦長の候補に挙げており、内々の誘いを行ったのだ。
結果は、二つ返事でOK。
バジル・リステン氏には名誉ある平民海軍初の艦長に就任していただく事となった。
この後、リフォーマーは平民軍の一部と新兵器を乗せて運河からフォロスダムを目指してもらい、その後の状況を見て私掠船狩りの為に外海へ出てもらう予定だ。
リフォーマーだけでは、作戦の自由度が低くなるので小型の蒸気動力船も二隻加えて船団を組ませた。
残る平民軍主力は、新型MSを中核として街道をフォロスダムへと進軍する。
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