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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
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王都へ

 工房長から荷解きが完了した旨の伝言があり、私は工房に向かった。

「ほほう! これは気がきいているではないか」

 ダンカンお爺様からのプレゼントは金属加工用の旋盤ほかであった。

「凄いですぞ。これほどの精度の工作機械は見たことがありません!」

 工房長が興奮して唾を飛ばしながら喋る。

 まあ、気持ちは分かる。

「これがあれば、小銃のライフリング加工も、あるいは可能かも……いや、出来ます!」

 今の所、平民軍の主要火器であるユーイル小銃はライフリングが無い。

 はやる工房長を制して。

「工房長。まずは、これと同じ旋盤を作れるか?」

「……はい。旋盤だけでなくボール盤やフライス盤までありますから……」

 私は工房長の言葉に頷き。

「では、まず。この旋盤のコピーをつくれ」

 まず、フランシス工房の技術を盗み、ガルムントとユーイルの基礎技術の底上げを行う。

「その後、ライフリング専用の旋盤を設計し量産せよ」

「なるほど……なるほど。そうですね。うん、素晴らしいプランだ!」

 私の言葉の意味を理解した工房長の声は徐々に熱を帯びてくる。

「その後にだが、銅板のプレス加工機の制作に入ってほしい」

「プレス……金属薬莢ですね」

「うむ。万どころか数百万も数千万もつくらねばならんものだ。プレスでないと間に合わん」

 工房長はゴクリと唾を飲み込み、恐々と言う風に尋ねた。

「それほどの数がいるのですか?」

 私はユックリと首肯する。

 近代戦とは、その弾薬保有が即ち戦力なのだ。

 

 工房は、しばらく修羅場となるだろう。

 こちらから、サポートとして下働きやメイドを派遣する提案をしておいた。

 食事やら着替えやらに余計な時間を使わない為であるが。もちろん監視も兼ねている。


 同時に、後装砲やらボルトアクション小銃とかも……


 だめだ。ガルムントじゃ、そこまで出来ない。


 ガルムントは、鉱山で土地も狭いし交通も不便だ。


 後装砲とボルトアクション小銃は、量産した旋盤とか持ち込んでユーリルでやろう。

 銃や砲を売っても、弾の流通を私が抑えていれば大丈夫だ……のはず?


 現在地球でも銃器よりも弾薬の流通の方が規制が強かった記憶があるし、多分それでOKだよね。


 そんな事を考えていると、工房の下働きが工具の一部を雑に運んでいるのが見えた。

「これそこ!」

 と思わず声が出た。

「はいっ!」

 下働きの青年は、体を硬くする。

「その『定盤』は精密工具じゃ。作業面を下にして置いてはイカン!」

 青年は慌てて置きなおすが。

「あわてるな。雑に扱うな。落ち着け!」

 青年は深呼吸して『定盤』を静かに作業台に置く。

「あの……これ、唯の鋳鉄のブロックじゃないんですか?」

 青年の問いに。

「鋳鉄のブロックじゃよ。しかし、作業面は『完全な平面』なのじゃ」

 と、もう一つの定盤を持ってくるように命じて。

「作業面を重ねてみよ」

 と『定盤の作業面』をピタリと合わせさせて。

「さて、どうかな」

 私は紙切れを青年に渡し、作業面と作業面の間に差し込むように命じた。

「どうかな?」

「できません。紙一枚どころか髪の毛一本が入る隙間もありません」

「それこそが『完全な平面』じゃ。精密加工の基本じゃぞ。大切に扱え」

 青年は「はい、ありがとうございました」と頭を下げた。


 まあ、良い技術者になってくれよ。


 さて、領主館に帰ろうとするとグレゴリオが、こちらに向かってきた。

 婚約の使者として王都へと送り出したが、意外に早い帰還だ。

 婚約の件は国王である父上に許可をもらったのだろうか?


「姫殿下、少々困った事に……」

 グレゴリオは、言いにくそうに王都での事を報告してきた。

「はあ、私に結婚の申し込みが来た? ヨアヒム殿とは別にか?」

 グレゴリオが頷き。

「スペンサー・ケーニヒス公爵からの求婚でございます」

「ケーニヒス家か!」

 私は呻く。


 何と言うタイミングだ。

 対応をミスるとこじれる。

 絶対に厄介な事になるに決まっている案件だ。


 スペンサー・ケーニヒスには、ガルムントに旅立つ直前に王都で会っている。

 あれに抱かれるのは、勘弁してほしい。

 正直なところイヤだ。


「で、父上は……国王の意見は?」

「それが、お会いできませんでした」

「なに?」

 父上は体調が悪いとグレゴリオとの会見を断り、代理としてスペンサー・ケーニヒス公爵が出てきたらしい。

「なぜにスペンサー殿が出てくる」

 私に怒声に。

「私にも分かりませんが……テオラス王子が、国王殿下の代理に推薦したらしく」

「テオラス兄上が? アロイス大兄上はどうしたのじゃ」

 私は、一番上の兄であるアロイスの事を聞くと。

「アロイス王子はケーニヒス領のライセン海軍基地に転任されて、王都(ニネア)にはおられません」

 アロイス大兄上は、海軍の士官だ。

 王家の男子は海軍士官である事が求められる。

 そして、海軍士官に転任はつきものだ。



 おかしな話ではないが。

 

 状況がおかしい。

 

 何かの都合で全てが動いているように思える。


「不自然じゃな」

 私の呟きに。

「やはり……そう思われますか」

 グレゴリオも独り言のように言葉が漏れる。

 私はグレゴリオに向かい命じた。

「グレゴリオ。私は王都に帰るぞ。急ぎ支度をせい!」

 思うところがあったのか、グレゴリオは一瞬考えたようだが。

「承りました。これより準備にかかります」

 と、素直に命に従った。


 

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