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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
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天を渡る波の音は 2

『報告します。目標を目視確認しました。 ユーイルからの報告の通りに蒸気車両が一に箱馬車が三、他に騎馬が六です』

 領主館の塔屋にある物見台にいる監視兵の声が、同じ建物の軍議室の『伝声管』から響く。

 伝声管とは、声を遠くまで、または壁で隔てられた場所まで増幅装置などを使わずに届けるカラクリだ。

 構造は至って簡単。単なるパイプである。

「了解したぜ」

 と、伝令を受けたガルムント駐留騎士団のピヨートル・カステン騎士団長は返し、私に。

「お客さんは、まもなく正門前だぜ。祝砲でもぶっぱなすか! 姫さん?」

「国賓を迎えるのでは無いぞ。騎士団整列で十分じゃ」

「ガッテンだ!」

 私の言葉に威勢の良い返事を返した団長は、軍議室に控える騎士分隊長たちに。

「聞いたとおりだ、野郎ども、正門に整列だぜ」

 と、命令を発する。

「ガッテンだ!」

 と分隊長たちは、これも威勢の良い返事を返し、兜を取り拍車を鳴らしながら軍議室から出ていく。

 騎士たちの集合を促すためか、角笛の音が表から響いてきた。

「じゃあ、俺っちもお客の出迎えに行くっスよ」

 団長は言いながら自分の兜を脇にかかえた。

「粗相無きようにな。我はココの玄関で迎えよう」

「そこんとこよろしく!」

 団長は、いい笑顔を返しながら騎士礼を返して出て行った。


 う~ん、統率に問題は無いようだが、何か『これじゃないんだ』感がハンパない。


 儀礼的に大丈夫なのかな? ガルムント駐留騎士団は。



 何とか鉱石ラジオを完成させた翌日。

 ユーイルからの早馬が来て、午後にはエッセン公爵の使いがガルムントに入るとの知らせをもたらした。


 とてもではないが、西の館は準備が間に合わないので、いつもはグレゴリオが使っている領主館で迎えることにした。


 まあ、今はグレゴリオもメアリーアンもいないから大丈夫だろう。


 軍議室は、騎士団幹部と領主や代官が打ち合わせをする部屋で、現代地球風に言えば中央指令室とか作戦室だ。

 作戦室と言えば、当然アレがある。

 そう、巨大なテーブルに固定された地図と駒を置いた『作戦卓』だ。


 とは言え、この作戦卓も実際の戦争に使われた事は無く、実質的には騎士団や家臣団のシフト表みたいに使われているらしい。

 まあ、この地が戦場になったことは無いので仕方がない。

 グレゴリオは、代官の執務室より、この軍議室で仕事をする事が多いようだ。

 軍議室でのグレゴリオの定位置である司令席には、幾らかの未決済らしい書類が積まれている。

 だが、私はココでトンデモナイ物を発見してしまったのだ。

 ああ~、あのグレゴリオが、こんな物を愛用していようとは……


 それは、手縫いのドーナッツクッション(ハート刺繍付き)!

 

 多分、制作者はメアリーアンだ。

 長時間の書類仕事で、尻に負担がかかるのだろう。もしかしたらグレゴリオは痔主かもしれない……

 グレゴリオの尻を心配して、メアリーアンが一針一針縫った愛の結晶。

 なんとすばらしい夫婦愛!


 ちくしょう、うらやましくなんて無いんだからね。



 ……玄関に降りて、使いを迎えよう。


「姫殿下、遅いですわ」

 すでに玄関で待機していたグレタは、私が階段を降りると駆け寄ってきて襟やリボンのチェックを始めた。そんなグレタに私は抱きつき。

「あの……姫殿下?」

「グレタたん、我のためにクッションつくって」

「たんは止めてくださいまし……私は裁縫下手ですよ」

 グレタたん、裁縫下手なのか……でも、不揃いな運針のクッションも、また一興だな。

「それでもいいから、つくって」

「承りましたから、今はお仕事してくださいまし」

 よっしゃ! 元気もらった!

「バッチ来い」

 両腕を胸の前でカッポンカッポンやって活を入れると。

「それはお止めください」

 と、止められた。



 ほどなく、ガルムント騎士団に先導されて、幻獣騎士団に前後を守られた箱馬車と蒸気車両が領主館正門に着く。箱馬車の扉が開いて、従者と警護の者が出てきて蒸気車両の周りにつく。

 蒸気車両は大型の箱馬車ほどの大きさがあり、その横腹には観音開きの扉がある。

 従者共が、その観音開き扉を開くと、そこから一人の女がガルムントへと降り立った。


「ようこそガルムントへ」

 私が、友好的ムード満載で出迎えるが、女の表情は硬かった。

「しばらくぶりでございます。ユリアナ姫殿下」

 硬い表情の女--テレサ・エルトアである。

「たいしたもてなしはできないが、旅の疲れを癒しほしい」

 飲み物に軽食も用意おいたのだが。

「疲れてはおりませんから、さっそくテストの答えを見せていただきたく存じます」

 とりつくしまが無い。


 まったく空気が読めないと言うか。マイペースと言うか。


「テレサ殿は意外とせっかちのようじゃな。まあ、我も早くに採点をしてもらった方が気が楽なのじゃが」

 言いながら、私はテレサ女史を広間へと導いた。

 広間のテーブルには、件の『鉱石ラジオ』が置いてある。

「私の答えじゃ。どうかな?」

 私は、探るようにテレサ女史を見た。

「Bマイナスです」

 うわぁ、厳しい評価だな。

「落第ではありませんが、最低ラインです。付け加える事がありますか?」

 やはり、受信機だけでは正解の一部でしかないか。

「たった一枚の写真から、ここまでつくったのじゃ。せめてAランクの評価がほしいのじゃが?」

「姫殿下が、ただヨアヒム様の伴侶であらせらるだけならば、評価はAプラスでございます。しかし、フランシス工房を我が物とお望みなら、まだ足りません」

「それは、厳しいな」

 私は、肩をすくめた。

「ところで、あの電波塔からの信号は何の為に発信されていたのじゃ?」

「それが、今回のテストの一部です」

「テストの為の発信であったのか? 音楽でも流してくれれば気が利いていると思うのじゃがなあ」

「それは、あの電波塔の目的ではありません」

 やはり、音楽や音声の放送が目的の電波塔では無いのか。

「貴重な情報をいただけたので、私からのファイナルアンサーを申し上げようか」

 私は小さく息を吐いて、呼吸を整え。

「電波灯台」

 と呟いた。

 


大変に長くお休みさせていただきました。


こんなに休むつもりはなかったのですが……

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