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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
68/98

再びガルムントにて

すみません。お待たせしました!

まだ、続きます。

 ガルムントへの帰還中に王都へと出立したミハイル・ゲンヘンと分かれ、私たちは少し早いが昼食の大休憩をとるために、街道から離れて森に近い草原へと向かった。

 大型の箱馬車が街道に止まっていては、ほかの馬車が通れないからだ。


 まあ、食事と言っても持参の弁当を食べるので、湯を沸かして茶を入れるくらいしかしない。

 とは言え、護衛の騎士も含めると三十の騎馬に馬車が二台だ。

 止まって車座に座れば、結構なスペースが必要となる。


 私が乗っていた荷馬車から、燃料用のしばとブリキの湯沸かしストーブが下ろされた。


 この湯沸かしストーブは、私がこしらえたロケットストーブを行軍用に改良したものだ。

 

 ロケットストーブというの、燃焼部を断熱された細長い空間にすることで、長い煙突をつけてのと同じ効果が発揮される燃焼装置だ。細い枝や木片、松ぼっくりでさえ燃料として有効に使える優れ物。ただし、大きな薪をゆっくりと燃やすのには向いていない。

 しかし、直ぐに暖をとりたい時や素早く湯を沸かしたい時には重宝する道具だ。


 そろそろガルムントにも近くなったので、ドレスに着替えておく。


 また、軽装でいるのを見つかるとグレゴリオに怒られてしまうから……

「はて? グレゴリオは王都じゃったかの?」

 グレゴリオがいようがいまいが、まあ王族たるもの見かけも大事だ。

「そんな所で着替えないでくださいまし、騎士たちが困っていますよ」

 なんと、もう罰ゲーム用ドレスからメイド服に着替えたグレタがマントで影をつくっていた。

「別に良いじゃよう? 減るものでもなし」

 私の貧相な体を見て欲情するバカのいないだろう(自分で言っておいて、なんか傷つく!)

「いや……ロリコンならアリか?」

 なんだと! 婚約が決まった娘の体を見てロリと思い欲情するとは何と不埒な奴! 成敗してくれる!


 ……一人で、脳内で、何をやっているんだ私は?


「そういう風では、身分の低い者を『人間以下』と見下していると誤解する者もおりますよ」

 小声でグレタが忠告してくれる。

 おお、なるほど。

 それは考えが足りなかった。

「……えっと……イヤン(/ω\)」

 一応照れておいた。

「何ですかソレは?」

 ですよね~


そんなこんなで、無事にガルムントへ到着。


 馬車の片付けや荷物などは騎士と家臣に任せて、私は護衛のグレタとライアを連れて西の館へと急ぐ。

 西の館に入ると。

「今帰ったぞ!」

「遅い!」

 いきなり怒られた。

 アンジェラ・パフスカだった。

「昼には帰って来る予定だったろう? なんで遅れたんだ」

 相変わらずアンジェラは、私が相手でも対等の口調だ。

 私にとってはここち良いのだが、人によっては不快となるかもしれない。

「こちらの都合だ。すまなかったな」

 具体的に説明しだすとグダグダなので、適当に流す事とした。

「はっ! まったく貴族様というのは」

「度し難いが?」

「その通りだ」

 私の合いの手に、乗ってきてはいるが、本気で怒っている風ではない。

「心配をかけたか? すななかった」

「心配なんかしてねえよ」

 そんな掛け合いをしながら、玄関ホールから大広間に入るが、そこは混沌とした修羅場だった。


「これは……壮観じゃな」

「仕方ねえだろう。吶喊で仕上げたんだからな」


 今、普段ならばダンスパーティーなどが開かれる大広間には、多数の職人やら手先が器用な平民軍兵が雑魚寝をしている。

 中央に置かれた大テーブルの上には、銅線やら木切れやらが乱雑に置かれているが、一部だけが綺麗に片付けられている。

 そこには、木の箱に入った銅線の奇妙なオブジェが無数にあった。


 そうこれこそが、忌まわしき”シャイニング・トラベゾヘドロン”……


 では無い。


「では、レシーバーは完成しておるか?」

「言われた通りには作ってはみたけどな。これで本当にイイのか?」

 アンジェラは銅線がつながった『何か』を膠で張り付けたワイングラスを渡してくれた。

「ふむ……まずは、テストいくか」

 私は、両端に銅板と亜鉛版が繋がった銅線をレモンに突き刺し、その銅線を方位磁石に近づけた。

 すると、磁針は南北からズレる。

「電源はOKじゃな」

 その銅線を途中で切り、一方をワイングラスから伸びる銅線の片方に繋ぎ、もう一方を金属ヤスリの金属部分に繋ぐ。そして、ワイングラスから伸びる銅線のもう片方を、金属ヤスリのヤスリ面を軽く擦るように動かすと。


 ザザザザ……


 耳障りなノイズが、ワイングラスから聞こえてきた。


「おおっ!」

「グラスがひとりでに鳴ったぞ」

「どういう仕掛けだ?」

 起きている兵の内の何人かが驚いて声をあげる。


「ふふん。ここまでは成功じゃな」


 ワイングラスに貼り付けられた『何か』は、古いワイン樽から見つけた酒石酸カリウムナトリウムだ。一般には『ロッシェル塩』と呼ばれる事の多い結晶だ。

 ロッシェル塩は、圧力の変化を電位差に変化させる性質がある。

 もちろん、逆の作用もする。

 電位差を受けて、この結晶は振動するのだ。


「へえ~、あのワイン樽から見つけた粒がねえ」

 実際に、その結晶をワイン樽から見つけたアンジェラだが。

 その結晶の意外な働きに驚いている。

 私だって、地球世界日本でのワイン製造が『水中聴音器』の最重要部品の調達から始まったと聞いた時は驚いたものだ。

 ロッシェル塩の名前と性質は知っていたが、ワインの副産物だとは思わなかった。


 さておき、これで微弱な電気の振動を音に変換するカラクリ--『レシーバー』は完成した。


「アンテナは出来ておるか!」

「はい、ご指示の通りに完成しております!」

「アンテナ線は?」

「これに」

 職人の一人が蝋で絶縁された銅線を差し出した。

 この銅線は、広間から外に出て、館の煙突から近くの立ち木まで伸ばしてある。

 もちろん、受信した電波が漏れないように絶縁はしっかりとされている。

「よろしい」

 私は首肯し。

「アースは?」

「これにて」

 一人の兵士が、これも絶縁された銅線を差し出した。

 この銅線は、アンテナとは逆で、絶縁は途中まで、先端は近くはむき出しの銅線として、それを地中に埋めてある。


 この二本の銅線には、微弱な電位の差が発生している。

 それは、空気中の静電気からのものかもしれない。

 あるいは、遠くの雷からの放射かもしれないし。

 遥かに遠き星々の誕生や死の副産物かもしれない。

 そして、エッセン公爵領の電波塔からの放送かもしれない。


 そう、フランソワ工房長であるテレサ女史が試練として見せられた写真には『電波塔』が写っていたのだ。

 その答えとして私は『鉱石ラジオ』を作成している。

 

 鉱石ラジオは、お互いに打ち消しあう電波の波動を電流の変化に変える『検波器』に鉱石の欠片を使ったもので、上手くつくれば増幅装置が必要では無いラジオ受信機を作れる。

 つまり、無電源ラジオ受信機だ。

 構造は簡単なのだが、ちゃんと受信できるようにするためには、微妙な設定が多数ある。

 アンテナの大きさや向き(これは、写真から予想を立てているので大きな違いは無いと思う)。

 紙筒に巻いた銅線コイルの巻き方とコンデンサー代わりの蝋紙を挟んだ銅板の大きさ。

 この辺りの設定は、学生時代のワークショップのおぼろげな記憶が頼りだ。

 大きくは違わないとは思うが、組み合わせは無数に考えられる。

 手本があるわけでもないので、いろんな設定で数をつくり、どれかがヒットすれば良しとする物量作戦だ。


「では、諸君。オペレーションだ。長期戦が予想される。適度に休息を取りながら作業してくれ」

何とか再始動しました。

冷えた執筆エンジンの回転数は安定しているでしょうか?

出力にノイズやバグがありましたら、ご指摘ください。


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