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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
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銭と脳

今回の話は『銭とは何か?』の私なりの解釈であり、妄想です。

科学的な裏づけは一切ありません。


 脳とは神経の組織の固まりである。

 神経は、外部からの刺激に対して反応し『新しい刺激を他に与える』又は『他に与えていた刺激を止める』働きをする。

 言ってみれば、電気のスイッチのような働きをする細胞だ。

 この働きは、生存環境の複雑化や生物自体の巨大化によって、複雑化してゆく。

 神経自体が記録を永続させ『記憶』を獲得し、条件分岐の複合化から『判断』を獲得した。

 そして、ついには神経ネットワークのOSとも言える『本能』を得る。

 さらに、本能は複雑な状況判断を迅速に処理できるアプリである『心』を手に入れた。

 また、副次的な作用であるが、心は同種個体間のネットワークも可能とした。


 これは、私の個人的な定義だ。異論が多い事も分かっている。

 しかし、ここは私の戯言につきあっていただこう。


 さて、生物の中で『脳』の巨大化と『心』の複雑化によって生存性を高め生存圏を拡大していったヒト種であるが、文明を得る為には超えなければならないハードルがあった。

 それは『心』による『本能』のコントロールだ。

 これは、アプリにすぎない心でOSである本能を操作しようとの試みであるわけだから、困難を極めたのは想像に難しくない。

 しかし、あるツールの発明が、これを可能とした。


 それは『銭』だ。


「私は、野蛮で貪欲な脳を心に従えさせる道具は銭だと思っておる」

「銭ですか? それが人の本能を抑えるのですか? わたしには逆に思えますが」

 私の意見を聞いていたミサイル君が論を返してきたが、それはもっとも反論だった。

「なぜ、そう思う?」

「銭の為なら親でも売る輩もおります。そんな銭は人の欲を暴走させるだけです」

「そこよ!」

 我が意を得たりと笑った私を見て、驚いた表情を返すミサイル君。

 私は、懐から銭入サイフを取り出し、金貨を一枚手に取る。

「おぬし、これが食えるか?」

「えっ? 食べれるわけがないでしょう」

「では、これを抱いて眠ると安眠できるのか?」

「そんな人もいるでしょうが、私は違います」

「なれば、これと交合セックスして快楽を得るか?」

「私は変態ではありません!」

 ミサイル君は怒り出した。

 まあ、当然の反応だ。

「では、食らう事も眠る事にも交合する事にも関わりが無い銭を、なぜ人は求める?」

「それは、銭があれば殿下の申された全てが手に入るからです」

「なぜ、全てが手に入る?」

「全ての人が銭を欲しがるからです」

「それは、なぜじゃ? なぜ全ての人は銭を欲しがる? 全てが手に入るからか? だが、全ての人が銭を欲しがらねば全ては手にはいらんぞ」

「……これは、禅問答ですか? 答えはあるのですか?」

 銭が、銭としてある事は集団幻想のようなものだ。

 多くの人が銭に価値を見出さなければ銭に価値はない。

 だが、最初の価値が『最初の銭』にはあったはずなのだ。

 その『最初の価値』とは何であったのだろうか?

「脳が『銭』を欲しがったのじゃよ。いや、逆かのぉ。『脳』が欲しがるものが『銭』なのじゃ」

 わたしの説明にミサイル君はキョトンとしている。


 古代の社会で、食べる事にも寝る事にも交合する事にも関係が無いが、それでも人が欲しがるものがあった。

 それは宝石や金・銀だ。

 そして、これらを銭として、人は生活を運用しだした。


「直接に生きる事には関係は無いが、それでも脳が欲しがる銭じゃ。だが、その銭を本能のままに集めるとどうなる?」

「それは……守銭奴となるでしょうな」

「そこで止まれば良いがの。全てを銭に換えて飢えて死するかもしれん」

「そんな馬鹿な」

「ほう、銭の為に親を売る輩もおるのだろう? 銭の為に今日食らう飯を我慢する輩も多いのではないか?」

「それは……そうですが」

「あるいは全ての銭を暴力や権力で集めるようと企てるかもしれんな」

「そんな輩は最低です」

 私はミサイル君の言葉に首肯して話を続けた。

「まったくじゃ。そんな輩は力が弱れば排除される。その者の力が強くとも、老いれば分からん。また、子に銭を残しても、その子が必ず強い力を持つともかぎらん。

 では、銭をたくさん集めたたが、どうすればよい?

 銭があっても自らが殺され奪われては意味が無い。子供に銭を残しても奪われかもしれん。なれば、どうする?」

「知恵を絞ります」

 私は首肯で肯定した。

 つまり、脳が欲しがる銭は、知恵が無いと集まらないし維持できない。

 脳が銭を欲すれば欲するほど、脳は知恵に頼る。

 そして知恵とは心の作用の要の部分だ。

「つまり、脳が欲しがる銭を心が知恵を使って集まる事で、心が脳を支配できるのじゃ」

「本当でございますか?」

 ミサイル君は疑っているようだ。

 しかし、現代地球においての『ある実験』の結果を知っている私は、確信をもって首肯を返した。


 その『ある実験』とは、被験者を集めて様々な条件で長期に渡り脳波を測定するというものだ。


 まあ、普通の実験である。

 私はその中で、ある実験に注目した。


 その実験とは、特定の脳波を意図的に発生させられるか? との実験のひとつだが。

 その実験の内のひとつに、実験の成果によって報酬……つまり銭が支払われたのである。


 被験者は、毎日一定時間脳波を測定される。

 被験者には、特に実験の目的や報酬の支払われ方の説明はされない。

 だが、特定の『ある脳波』が出ている時間に応じて被験者には測定後に報酬が支払われる。

 つまり、脳が『ある脳波』を多く出せば多くの報酬が支払われる。脳の出す脳波に『ある脳波』が少ないければ報酬は少ない。

 そして、報酬は『銭』であった。


 そして、対となる実験も行われた。

 こちらのチームは、被験者に『ある脳波』を出来るだけ多く出してほしいと伝えられ、測定後の『ある脳波』の出た時間量も知らされた。


 そして、何度も『銭の報酬』または『脳波測定報告』が行われ、やがて実験は終了した。

 その結果、『ある脳波』を多く出せるようになっていたのは『銭』が支払われるチームだった。


 この実験によって、銭によって脳は制御可能だと証明された。

 と、私は考えている。


 実の所、この実験は脳の機能と調べる膨大な実験の内の一つで、これだけを取り出して論じるのは乱暴なのだが、私にとっては『銭』と脳機能が深く関わる、との結果が重要なのだ。


「それは、銭があれば人は理性的なるとの考えでございますか?」

 ミサイル君の質問に。

「銭さえあれば良いというものではない。その運用が適切であれば、人は不正や権力を頼まずに知恵を絞り汗を流すと考えておる」

 と答えた。

「とは言え、平民には『銭』は縁が遠いものだ。広く平民にも銭が流れるようにせねばならん」

「平民が銭を使う法でございますか?」

「税の徴収方法を変える」

 平民が直接国に銭で納税する形にするのだ。

「なるほど」

「だが、私は法の素人じゃ。そこで、おぬしの知恵を借りたいのだ」

「そうでありますれば、喜んで!」

 いつの間にかミサイル君は、不貞腐れた態度ではなく、姿勢を正して私に向かっている。

「税法と金融法、ついでに軍法も調べてくれ」

 私は、手に持った書状と金貨の入った財布をミサイル君に渡し。

「王立図書館への紹介状と必要経費じゃ。秘蔵書も読めるぞ」

「それは願ってもない!」

 ミサイル君、いい笑顔だ。

「それでは、民が知恵を絞り汗を流す事を喜びとする世の為に、微力ながら尽くさせていただきます」

 ミサイル君は、荷馬車からヒラリと飛び降りると、一礼した。

「おい、ここで降りるのか?」

「はい、一刻も早く王都に出立したいので、ここからユーイルに帰って旅支度をします」

 ヤル気マンマンだなミサイル君。

 だが、半年分の経費として結構な額の金貨を渡しているのだ。

 万が一があるので、私はいったん馬車隊を止めて騎士を一人護衛に付ける。

「では、王都で会おう。ミサイル君」

「ミハイルでございます。姫殿下も王都に帰られるのございますか?」

 なんだか、ミサイル君に敬語で話されると落ち着かないな。

「うむ。婚約の報告やら色々とあるのでな」

「では、王都でお待ちしております」

 深くお辞儀をしたミサイル君は、顔をあげると驚いて赤面した。

「どうした?」

 どうやら、私の後ろに何かあるらしい。

 振り返ると、そこには私が乗るはずだった箱馬車ワゴンがあった。


「もう、お許しくださいませ……姫殿下。苦しくて……もう、だめですぅ~」

 箱馬車から転がるように出てきたのは私の服を無理やりに着たグレタだった。

「おい、グレタ。いろいろこぼれておるぞ。ちゃんと隠せ!」

「そうは言われましてもぉ」

 もともと無理のあるサイズの服なので、胴回りを覆うだけで上やら下からエロいブツがはみ出している。


「あの……姫殿下……。では、私はこれで……」

 どういう理由でか、前かがみになって挨拶をするミサイル君。

「うむ、おぬしも息災での」


 まあ、あれだけ元気なら大丈夫かな。



すっかり遅くなりました。

銭とは何か? をまとめるのに意外に手間取りました。

いっそ、短く切り上げようかとも思いましたが、なんとか読めるものが出来たと思います。


また、誤字・脱字や文章の矛盾などありましたらご指摘ください。

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