野獣と私
まだ、ガルムントへ帰れません。
今回もエロ成分ありです。
ようやくで、朝日で目が覚める体調に回復した。
今日はガルムントへの帰途につくので、早い朝食をとる。
ホールに降りると、すでにヨアヒムが出立の準備を整えていた。
「おはよう、ヨアヒム。随分と早いのだな?」
ヨアヒムは私の方へと近づいて。
「ええ、今日中にエッセン城へ入りたいものですから出立を急いでいるのです」
エッセン公爵領は広い。
このユーイルもエッセン公爵領に接した土地なのだが。
そのエッセン公爵領の中心であるエッセン城までとなると、ほぼ一日の移動となる。
「あらユリアナちゃん、おはよう。もう、体調はよろしいの?」
アイリス未来の義母上であった。
「おはようございます、アイリス公爵妃殿。先日は不調法な姿をみせてしまいました」
と、一応は王族らしく朝の挨拶をするのだが。
「あらあら、不調法だなんた。とても可愛らしくってよ」
扇で口元を隠して笑うアイリス殿。
その犬歯が長く鋭い事は、経験済みだ。
「婚約が受理されたら、義母上様と呼んでちょうだいね」
アイリス殿は私に歩み寄り、ギュッと抱きしめた。
突然の抱擁にとまどったが、意外にも不快感はなかった。
「ユリアナ……あなたが目指すものの事、次にはチャンと話してちょうだい」
と、抱きしめられた私の耳の元に囁くアイリス殿。
少しためらったが。
「はい。必ず」
と、約束を返す。
「母上、お急ぎください」
ヨアヒムの声だ。
「もう、母と娘の別れを急がすものではなくてよ、ヨアヒム」
と言いながら私を腕から解放してくれたアイリス殿であるが、ヨアヒムを手招きで呼び寄せると、そのまま私をヨアヒムへといざなった。
「なっ……母上!」
「いまさら照るなくてもよろしくてよ。たっぷり別れを惜しみなさいな」
扇をヒラヒラとさせながら、滑る様に門へと向かうアイリス殿。
とてもではないが、勝てる気がしない。
いや、今はこの状況を堪能しよう。
「ユリアナ、許しが出しだい迎えにゆくよ」
照れながらも私を強く抱きしめるヨアヒム。
「いいえ、許しが出るまでに、私の方からヨアヒムの元にまいります」
「いや……そこは我慢して待っていてほしい」
実の所、嫁の方から押しかけるのは作法として正しくは無い。
「では、お待ちしていますから……それまでの約束を……」
と、目を閉じて顔を上げる。
そして、唇が触れはしたが、そこは額だった。
唇を離したヨアヒムに不満そうな目で訴えて、強く抱きしめ返す。
躊躇していたヨアヒムだが。
「あまり煽らないでくださいユリアナ。私も自制心が強いほうではありませんよ」
と言い訳しながら、ヨアヒムがキスを落とす。
が……触れてきた!
舌が……舌が私に唇に触れてきた。
これは……攻撃だわ。
そう、性的な攻撃!
応戦しなければならない。
このまま攻撃を許しては、私の主権は侵され財産は蹂躙される。
ああ、でも、それもいいかも。
いや、ここは反撃だ。
そう、これは性的な戦争なのだ。
私は意を決して唇を開き、ヨアヒムの舌を向かえ入れつつも私の舌で応戦した!
私は、私にできる全力の攻撃を返したはずだった。
だが、玉砕した。
軽くイってしまった私は、それでもなんとか長椅子にたどりつけた。
そして、危ういながらも正気を保ち、ヨアヒムに手を振って笑顔で別れができた事は賞賛に値すると思う。
そう、笑顔。
アヘ顔じゃないし!
さて、なんとか動けるようになったし。朝食にしようかと思っていると……
氷の瞳をしたメイドが立っていた。
「……グレタ? いつからいた?」
私はアイスドールことグレタ・ジェイに問う。
「おはよう、ヨアヒム。からでございます」
最初からか。
「ああ、まあ、そう言うことだ。ヨアヒムとは婚約となった……」
うう、気まずい。
「まあ、再来年くらいには輿入れかのぉ。わははは」
私の笑い声は空回りをしながらホールに響く。
「幼馴染とのご婚約。おめでとうございます」
頭を下げて祝ってくれるグレタではあるが、なぜか『幼馴染』を強調しているような気がした。
ああ、気まずい!
このままではいけないと思い、立ち上がろうとしたが。
これは……マズイ!
まず、腰から下に力がはいらない。
しかも、私の体はヨアヒムの刺激に過剰に反応してしまい、下着がえらい事になっているようだ。
まさか、椅子にまでシミはつくっていないだろうが……
こうなっては、グレタに助けを求める他はない。
「グレタ助けてくれ」
私が言うと。
「どうかなさいましたか?」
瞬間に反応して私の体を支えるように庇うグレテ。
「いや、その。立てないのだ。それに、服も替えなくてはならんかも……」
それだけで事情を察したのか。
「失礼いたします」
一言いうと、私をお姫様抱っこで抱えたグレタは、長椅子の座面に異常が無い事を確認して、そのまま部屋へと運んでいってくれた。
お姫様抱っこの格好だと、私の口元は丁度グレタの耳元になる。
「そのままで聞いてくれ」
私は囁くように話し始める。
「私はエッセンに嫁ぐ。グレタは、このまま私に仕えてほしい」
私の言葉に。
「御自分が酷い事をおっしゃている御自覚はおありなのですね」
返すグレタの声は硬い。
考えるまでも無く、婚約をした席で妾に今のまま関係しようとせまっているのだ。
酷いと言うか下種の所業だ。
「お前には利用価値がある。手放すつもりはない」
グレタは、我が王国の情報機関とは独立した情報網の窓口兼実行部隊だ。
たかが私の婚約くらいで手放すのは勿体なさすぎる。
「貴族と言うのはこれだから……節操が無さすぎですわ」
「まったくその通りじゃな」
我が事ながら、呆れた事だ。
すると、不意に耳朶に電流が走る。
「ひゃぁ~、グレタっ……なにを……」
「そういう事でしたら、報酬ははずんでいただきませんと」
グレタは、私を抱きかかえたままで耳を甘噛みしつつ蹴破るように寝室のドアを開けた。
「おやぁ? 姫様はお食事ではなかったのですか?」
荷物を運ぼうとしているライアがいた。
「りゃ……らいぁ~……た……たす……」
ライアに助けを求めようとしたが、唇はグレタの唇でふさがれたしまう。
そこはダメ!
今、敏感だから!
ダメ、ダメ、ダメ~~
「姫殿下は体調がすぐれません。出発は2時間遅れます」
そうライアに告げながら、グレタは私をベッドにおろすとシャツのボタンを外し始める。
マズイ!
このままではマジで貪られる!
刺激で声が出せない私は、救助の懇願を目でライアに訴えたのだが。
「おうおう。従者には僕から伝えておくんだな」
と、大きなトランクを抱えたライアはそそくさと部屋からでていってしまう。
野獣に貪られようとしている姫を見捨てる騎士がどこにいるかあ!
ああ、ヨアヒム。
私はグレタに貪られてしまいます。
弱い私を許して……
ああ、でも。このシチュエーションも萌えるかも。
ダメじゃん、私!




