ユリアナのプロポーズ
「ところで、我が愚息に御用があるとの事ですが……どんな事でございましょうか? よろしければ、私が承りますが」
アイリス・エッセン公爵夫人が直球勝負に出てきた。これは、私の望むところでもある。
「王家の血統をエッセン家にいれるつもりはないかな?」
「あら、それは魅力的な御提案でございますわね」
「なれば、我をヨアヒム殿の伴侶としてはどうかな?」
「あらあら、ますます素敵な御提案でございますわね」
アイリス夫人の表情は心底喜んでいるようだが、目がガチだよ。
なに、このおばさん。怖い。
「それでしたら……本来は国王様からお話があるはずでございますわね。姫殿下が直接と申しますのは、少々驚きますわ。何か目論見でもございますか?」
「我の望みはエッセンの工房を一つ欲しいのだが?」
「あらあら、それは詳しく話をお聞きしませんと」
「其方らの領地にあるフランシスとの屋号を持つ工房はあるかな?」
「はい、我が公爵領を代表します工房でございますわ」
笑顔で答える夫人に私は小さく頷き。
「その工房を我が物としたい」
と、こちらもストレートの返答を返す。
「それでしたら」
と、アイリス夫人は手を二回打ち鳴らし。
「テレサ!」
と控えの間に声をかける。
「はい、こちらに」
出てきたのは、短髪眼鏡のお姉さんだった。服装から侍女やメイドではない。
ちなみに、巨乳……死ねばイイのに。
「姫殿下が貴女の工房をご所望なのよ。どうかしら?」
ほほう、この女性がフランシス工房の代表か。
いや……女性が工房代表とか珍しくね?
「御丁重にお断り申し上げます」
うわぁ~~、速攻ゴメンナサイだあ!
「あら残念だわ」
と、アイリス夫人は言う。
だが、ただの工房の主が何故にこの場所にいる?
「断った理由を聞いてもよいかな?」
私の問いに。
「お恐れながら『Do you have qualified?』……」
えっ? 何……今、このお姉さんが喋った言葉は……英語?
なんだって?
qualifiedってのは、確か資格とか知識て意味だよな。
英語は苦手なんだよね。
つまり、私に知識か資格があるのか? って聞いているんだな。
それを英語で聞いてきたって事は、お姉さんも異世界の知識を持つ天恵者なのか。
だが、日本語で聞かないって事は……日本人じゃないのか? アメリカの人?
いや、英語を話せる民族って多いしなあ。
「なれば、その資格とやらを試してはどうかな?」
少し考えた私が答えを返すと。
「This is a test for you」
と、テレサ女史は一枚の写真をテーブルにおいた。
それは建物が写った風景写真だが、現代地球の知識があればすぐに分る特徴があった。
「答えの品を後日受け取りに参ります」
と、一礼した。
どうやら、お断りから受験資格アリにランクアップできたらしい。
しかし『答えの品』って言ったよなあ。
と言う事は……最低でもアレをつくらないとダメなのか?
「難問だが……なんとかなるじゃろう。一週間後にガルムントへ来い、用意しておく」
「では、御返事はその時に」
と答えるテレサ女史は無表情だった。
と言うか、彼女は会話のあいだ終始無表情でニコリともしない。顔が鉄でできているのか思うほど表情が動かないのだ。
なんなんだろうか、この女は? ちょっと苦手かも。
「では、お茶会も終わりでよろしいでしょうか?」
と、アイリス夫人は笑顔で問うてくるので首肯を返すと。
「ヨアヒム! 姫殿下をお送りしてくれないかしら」
アイリス夫人は控えの間に声をかける。
カーテンで仕切られた控えの間から見知った姿が現れた。
「承りました、母上」
現れたヨアヒムは移動の為に甲冑を外した第二種軍装に身を包んでいる。
おお、甲冑姿もよかったが、軍装姿も似合うではないか。これは儀礼用の第一種軍装が楽しみというものだ。
「ユリアナ姫殿下……こちらへ」
私が微笑みかけたがヨアヒムの表情は硬いままだ。
あれ?
なんか……変じゃないか?
なんとか11月中にアップできました。
もうちょっとペースをアップしたいと思いますが……
年内にもう3話くらいは……なんとか……




