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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
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エッセン公爵夫人

「お前が好きだ。性的な意味だ。だからフランソワ工房が欲しい」


 ……性的な意味ってなんだ?

 ……前半と後半が繋がっていないだろう。


 もうチョット分かりやすく伝えないとな。


「私の純潔を贈る。対価にフランソワ工房が欲しい」


 意味は伝わるが……

 意味が通ると、とたんに生臭いな。


 エッセン公爵家は、以前から私とヨアヒムをくっつけようと画策していた節がある。

 いや、この動きはエッセン家と王家の合作であろう。


 私とヨアヒムは王都にいるころから、なにかと一緒にいる機会が多かった。

 しかし、私は王家の姫でヨアヒムは公爵家の長男だ。偶然で一緒にいる機会が多いなんて事は皆無だろう。

 つまりは、私とヨアヒムが一緒にいる事が多いのは、私達の結婚カップリングを望む大人が多かった故の事。


 だが、この目論みも私に天恵が下り『物狂い姫』となると徐々に下火になった。


 とは言え、数は少なくなったが私とヨアヒムの結婚カップリングを望む者はいる。

 実のところ、ガルムントでの療養が終わったらエッセン公爵家へ行儀見習いへ出ないかとの誘いがあった。

 これは、実質的な婚約アンド結婚である。

 エッセン公爵家側の了解があれば、私はヨアヒムとの間に未婚の子供をつくるのもOKのポジションを得ることとなる。

 まあ、相手である私が王家直系だから、子作りは結婚披露後だろうけれど。


「子作りか……そこは、ちょっと難題だな」


 現代地球の知識も男性側に経験もあるが。それ故に、女性としてアレしたりコレしたり、ましてや出産となると……


「なんだか……ちょっとどころじゃない。とんでも無い超難題のような気がしてきた」



 実のところ、アロイス大兄様がもうすぐ婚約アンド立太子する事なっている。


 立太子と言うのは、王位を正式に継ぐ地位を得る事。

 立太子した王子は王太子となる。

 ちなみに、ヨアヒムはエッセン公爵位を正式に継ぐ地位にある公爵子だ。


 話はそれたが、アロイス大兄様がめでたく立太子すると、私のポジションは微妙デリケートになる。

 ましてや大兄様が結婚して子供が出来ると、ますます私の立場は王家の中では微妙デリケートになる。


 王家の望む私の進路は、十五歳で王国に二つある公爵家のどちらかに嫁ぐ事だ。

 一つはエッセン家、もう一つはケーニヒス家だ。


 私としてはエッセン家を望みたい。


『も、もちろんフランソワ工房があるからよ。ヨアヒムとかは関係なんだからね!』


 と、ツンデレ風に脳内ギャグをやってみたのだが……

 こんな事を考えただけで、心拍があがり顔の毛細血管の拡大が観測される。


「体が求めるとは、こういう事なのか?」


 どうやら、私はヨアヒムが好きらしい……性的な意味で。


 いかん、なんだかドキドキしすぎて気分がおかしくなってきた。

 これからヨアヒムに会って交渉をしなくてはいけないのだ。会う前からドキドキしてどうする!


 コンラート城内のジュニアの実験室から出て城門に向かって足早に進んでいくと……道に迷った。


「ええっ! こんなところで迷子になるかな私?」


 グレタは先ほど用を言いつけて別行動にしたところだ。


 分かる道まで出てから別れるべきだったか?


 城内をウロウロと彷徨っていると。


「誰か!」

 と、警備の衛兵に怒鳴られてしまった。


 やった! 助かった。


 と内心は思いながら。


「アドルフ王が娘、ユリアナじゃ」


 と答えると。

「これはユリアナ姫殿下でございましたか。ここからは私的区画プライベートエリアでございますが」

 衛兵の一人は、何の用でしょうか? と言外に尋ねてきた。

「そうであったか。ジュニア殿の実験部屋から城門へ行く途中であったのだが……道に迷ったようじゃ」

「そうでございますか。では、案内の者をたてますゆえ、しばしお待ちを」

 衛兵が一人残り、もう一人が案内の侍女を探しに行こうとしたところ。

「ユリアナ姫様でございますか?」

 と、声がかけられた。

 衛兵も後ろに女性の姿があった。


 はて? どこかで見たような。

 舞踏会で会った記憶がある。

 たぶん、貴族であろうが……ジョナサン・コンラート伯爵の奥方であったろうか?

 いやいや、コンラート伯爵夫人は、もっと若かったように思う。

 しかも、こんな迫力のある押しの強そうな女丈夫ではなかったはず。


「これはアイリス様……失礼いたしました! エッセン公爵夫人様」

 婦人の事をアイリス様と呼んだ衛兵が畏まって非礼を詫びるが。

「アイリスでかまわないわよ」

 と言いながら、件の婦人は私の前に進み。

「お久しぶりでございます、ユリアナ様。アイリス・エッセンでございます」

 貴婦人の礼で名乗る。

「久しいなアイリス殿。いや、エッセン公爵夫人と呼ぶべきかな?」

 私も貴婦人の礼を返すが。

「いえ『アイリスおばちゃま』でも、構いませんわよ」

 と、私が小さいな頃の事を出してきた。


 アイリス・エッセンはヨアヒムの実母であるので、天恵前の私は彼女に遊んでもらっていた記憶がある。この年齢で思い出すと、地味に黒歴史だ。


「……やはり、アイリス殿と呼ばせていただこう」


「ユリアナ姫様、ちょうどお茶が入りましたのよ。時間がおありならご招待しても構いませんかしら? それとも、出立の時間が迫っておりますか?」

 そういえば、ちょど午後の茶の時間だ。

 ガルムントへ出立するまでは少し時間があるが。

「お招きありがたいのだが、人を探している」

 と言ってから、思い至り。

「ご子息のヨアヒム殿を探している。今すぐに会いたいのだ」

 と言うと。

「あら、意外と情熱的で行動的。恋だの愛だのに関しては、もって奥手と思っておりました」

 アイリス殿が返すので、自分の発言を検証してみたら。


 しまった。

 これは、普通に聞けば恋する乙女の発言ではないか!


「いや、その……違う……」

 と、言いかけて思いとどまり。

「ヨアヒム殿に……お会いしたい」

 それだけしか言えなかった。

 羞恥で顔が真っ赤になっているのが分かる。

「それでしたら、ヨアヒムを呼んでまいりましょう。楽しいお茶会になりそうですわ」

 アイリス殿は言いながら口元を扇で隠した。


 扇の下の口は、肉食獣のように笑っているのではないだろうか?

 

 と、そんな事を考えてしまった。

2ヶ月以上空白にしてしまいました。

ごめんなさい。


しかも、今回も少し短い話です。

すみません。

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