ワイン樽の秘宝
特に何かあったわけでもないのですが……ぜんぜん書けませんでした。ごめんなさい。
草原に、巨大な王蟲が佇んでいる。
「なんて立派な王蟲!」
「オウムってなんだよ?」
まあネタふりは、ここまでとして。
私が王蟲と比喩したのは、先の実弾演習で擱座したMS-01型戦闘装甲車の残骸。
「正面からの徹甲弾をよくも耐えたものじゃな」
鉄板と樫厚板の複合装甲は、貫通一歩手前であった。
「やはり正面からだと危ないですね」
メアリーアンは、着弾で膨らんだ樫厚板をなでてつぶやく。
「なんだよ。アタイらは危なかったって事か?」
アンジェラが嫌そうな表情で問う。
「首の皮一枚じゃな」
私の言葉に、メアリーアンも首肯で答えた。
「そうか……まあ、無事だったからイイか」
ところがアンジェラは、なんとも軽い反応だ。
自分の命がかかっているというのに……
しかし、この軽さは兵士の資質としては重要だ。
軽率は困るが、恐怖から行動不能や反応の鈍化が起っては困る。
生き残った事実こそが最重要であり。死んでいたかもしれないと言う仮定は、それ以下なのだ。
「しかし、よくこんなデッカイ物をガルムントから運んできたな」
とアンジェラが言うが、これは勘違いだ。
「こんなものをガルムントから運べるか。運んできたのは大砲だけじゃ」
「じゃあ、MSは、どこから来たんだよ?」
「ここユーイルでつくった」
「へえ、コンラート伯爵様の工房でこさえたのか」
これも勘違いで。
「違う。王室造船所で建造した」
との私の言葉に。
「はあ? なんで造船所でつくるんだよ?」
このアンジェラの疑問は、マウリス王家の事を少しでも知っていれば分かる事だ。しかし、平民のアンジェラにはわからなったらしい。
「簡単に言えば、造船事業は王家の独占じゃ」
「……姫さんの家って船大工だったのか?」
「うむ。まあ、その船大工の元締めじゃな」
さて、ここでマウリス王家の事を少し話しておく。
マウリス王家の元はマウリス内海を根城にする武装商船団だ。兼業で造船と海賊もやっていた。
この頃のマウリス家は、武装はしていたが、騎士団は持っていなかった。
もちろん、貴族でもない。
タータ人を北方に追いやりマウリスの各地に騎士団が創設され貴族社会の基礎が出来たころ、ウルオン帝国の侵攻が始まった。これを、各地の騎士団が大同団結して連合軍を組み迎撃戦を挑んだ。
のちに、この戦は第一次ウルオン戦争または建国戦争と呼ばれている。
この戦で、マウリス王国の骨格が出来たからだ。
陸ではエッセン家とケーニヒス家が中心となって戦を進めていたが、形勢はウルオン優勢であった。
なお、この時期にタータ人とウルオンが連携しないように北方の守りを固めていたのは、のちに辺境伯となるグロッケン家だ。
エッセン・ケーニヒス連合軍がキプロの戦いで敗れた時に、追撃してくるはずのウルオン軍に異変が起こった。どういうわけか、戦に勝ったウルオン軍が退却したのだ。
当初は、連合軍は、この退却を何らかの作戦と思った。
だが、連合軍陣地にマウリス家からの使者が訪れ、ウルオン軍輸送船団が全滅させたとの戦果を告げると形勢は逆転。
本国と切り離され補給もままならないウルオン遠征軍は、連合軍に敗れる。
この軍功によってマウリス家は伯爵位を拝し貴族となり、水運事業において多くの特権を得る。
この後、ウルオンの遠征は四回にのぼるが、すべてウルオンの敗北で終わっている。
第四次ウルオン戦争にいたっては、マウリス家の保有する戦闘船団との海戦だけで連合軍は勝利した。
この大きな軍功によって、マウリス家は多くの騎士団の支持を受け王都を開き王政を行った。
これが、マウリス王国とマウリス王家の始まり。
元々が水運と造船業から始まったマウリス王家は、現在のマウリスにおいても水運と造船および海軍を独占している、と言っても過言ではないだろう。
事実、大型船用の造船施設は全て王家直轄と思ってよい。
商人が使う大型船も、基本的には王家からの下賜の形で譲渡される。もちろん、それなりの上納金があっての事ではある。
そんなわけで、このフェリ湖の造船所も王家所有なのだ。
したがって、王女である私には、造船所に多少の無理な願いを言う事ができる。
「へえ、それで造船所で戦闘車両をつくらせたのか」
事情が分かったアンジェラはガッテンしてくれたようだ。
しかし、地球でも初期の戦車は海軍が中心になって開発されたりもしていた。
したがって、造船所で陸上兵器を製造しても問題は無い。
さて、MS-01型戦闘装甲車は壊れたしまったが。この残骸からは、貴重な戦闘データが回収できる。戦闘装甲車自体の改善点から運用の最適化まで……戦の後の残骸こそが貴重であるとも言える。
とは言え、いつまでもこの場にいるわけにもいかない。
実のところ、この後はコンラート伯の息子であるジュニアの工房を訪ねる予定なのだ。
戦闘装甲車の残骸から出たところで、樽を大量に積んだ荷馬車が目に入る。昨日、取引を申し込んだワイン仲買商に違いないだろう。
「おお、これだけあれば……あるかもしれんな」
私はアレが手に入るかもしれない期待でワクワクしていた。
「ユリアナって方はおられますか? 古いワイン樽をあるだけとの御要望でしたが」
「私だ。代金はアレが支払う」
私が商人にグレタを紹介すると。
「姫殿下……また、変なモノを買われたのですか?」
グレタは文句を言いながらも、空の古樽の代金を支払っていた。
「姫さんは樽なんか買って何をするんだ?」
アンジェラが興味津々という風に聞いてきた。
「オマエも手伝え、この樽には宝があるかもしれんのじゃ」
「はあ? こんな古樽に?」
信じられないとアンジェラは呆れていた。
大変お待たせした上に、本編も大して話が進んでいません。
まことに、すいません。
なんとかペースを上げたいとは思うのですが……
9月25日 辺境伯家の名前を間違えていました。グロッケンに修正したしました。




