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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
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MS誕生?

蒸気曳船タグボートは、港の出口に進路を向けた。

 それに対して、水夫が縄を投げる。

 これから平底輸送船フェリーと繋ぐ作業にかかるのだろう。

 蒸気曳船タグボートは、数珠のように複数の平底輸送船フェリーを引っ張ってフェリ湖を渡るのだ。見ていると、騎士や馬を乗せた平底輸送船フェリーの喫水は船縁の僅か数センチ下だ。これもフェリ湖が波が少ない湖なので出来るのだろう。

 慣れているのか、兵は船に荷物を固定して寛いでいるし、馬も草をはんでいる。

 

 蒸気曳船タグボートの試運転は何度も繰り返したが、お披露目となると少しは緊張する。


 しかし、私の緊張なぞ知らぬのか……まあ、知るわけないのだが……蒸気曳船タグボート平底輸送船フェリーを引っ張って静かに港を離れていった。

 もの珍しそうに眺める者も大勢いるが、平穏なお披露目と言える。


 しまった。シャンパンを用意するんだった。あるいは、くす玉とか楽団とか……


 なんだか盛り上がらんなあ~~。

 結構苦労して建造したんだんかなあ。


 しかし、港で見送る人々を眺めていると、意外な人物達が見えた。

「ジョン伯にランキン伯」

 なんと、船出する騎士団の指揮官であるジョン伯とランキン伯が港に残っていたのだ。

「これは姫殿下。素晴らしい曳船タグボートですね」

「まったくでござる。蒸気の力は凄いでござるな」

「お前たちは平底輸送船フェリーで帰らんのか?」

 私の問いに。

「まだ残務がありますし……」

「それに、バーンズ伯に誘われたでござる」

 見るとバーンズ伯も残っていた。

「某らは、輜重しちょう殿しんがりと帰る予定であります」

 バーンズ伯はジョン伯らと並ぶと、笑顔で答えた。

 ちなみに、輜重とは兵站の一部であり、この時代の輜重は荷駄部隊に近い。

 バーンズ伯とジョン伯・ランキン伯のトリオとは、意外な組み合わせだ。

 彼らは、なぜ一緒に残るのだろうか?


「よろしいですか? 姫殿下」

 ランキン伯が近づいてきた。

「おお、何か用か」

「実は……件の大型火銃ですが……」

 ランキン伯は、先の演習で見せたバレッタ対物ライフル銃を購入したいとの申し出をしてきた。

「しかし、あれは試作兵器もよいとこじゃ。此度の演習で活躍できたのも、偶然の要素が強い」

 実のところ、いつ故障してもおかしくない欠陥銃なのだ。

「実戦で使うつもりはありません。ですが、近い将来はあのような銃が戦場に出るのでございましょ?」

 なるほど、研究用か。

「そういう事なれば、許可しよう」

「ありがとうございます」

 ランキン伯も、騎士団の火砲化を進めるか。もともと狙撃特化騎士団のようであるし、案外うまくゆくかもしれない。

  

「姫様!」

 アンジェラ・パフスカである。

 怪我の治療が終わったところのようで包帯だらけだ。

「怪我は大したことがないようじゃな」

 まあ、あれだけ大声が出せれば大丈夫だろうが。

「私が乗るアレが荷車カーゴって名前なのは、どんな理由だ!」

 ああ、アレか……

「カーゴは仮の名前じゃ。暗号みたいなものじゃ」

「じゃあ、本当の名前は?」

「いや……それが……」

 決まっていなかった。

 蒸気動力装甲砲車は、地球なら戦車タンクと呼ばれるものだ。

 しかし、この世界で戦車と言うと兵士が乗る馬車を指す。タンクはもちろん水槽だ。

「そう言えば、名前が決まっていなかったでござるな」

 とジョン伯。

「決まってない?」

 非常に不機嫌な顔のアンジェラに私は小さな首肯で答えた。

「まあまあ、こう考えたら良いのではありませんか。決まっていないなら、今決めたら良いと」

「なるほど、皆で考えるのでござるな」

「うむ、面白そうであるな!」

「私もアレがカーゴなんて名前は、どうかと思っていたのです」

「そうですね、カーゴはいけませんね」

「最初は水槽タンクって呼ばれていましたよ」

「それはひどいのである!」


 いや……いいけど……言いたい放題だな。


 てな訳で『コンラート・バーンズ・ランキン・ジョンの四伯爵によるアレの名前をどうするか会議(仮)』が開催された。

 まず、各自が意見を出し合った。

 そして、いきなり紛糾して……結局は名案は無く、会議は暗礁に乗り上げた。

「う~む、意外に難しいのである!」

 バーンズ伯の叫びが、皆の気持ちを代弁していた。

 そうなのだ、ネーミングは意外に難しいのだ。

 私の苦労をちっとは思い知ったか!


「しかし決まらないとなると、困りますね」

「やっぱり、カーゴでよろしいのでは?」

「私はイヤだね」

 これは、オブザーバー参加のアンジェラである。

「あの~、宜しいでしょうか?」

 と、挙手をしたのはグレタであった。

「なんだ? 名案があるのか」

「モビルスチームはいかがでしょうか?」

 えっ? モビルスチーム!

「おお、力強い響きであるな」

「モビルスチームですか、語呂もよろしいですね」

「いいのではござらんか」

機動蒸気兵器モビルスチーム……よろしいですね」

 いやいやいや、ちょっと待て。

 それは版権的にギリギリではないか? 大丈夫なの?


 私はグレタに小声で。

「なんだ、そのモビルスチームというのは」

「いえ、アスラン総帥が時々『モビルス○○最高』とか呟いておられのを聞きまして」

 アスランかぁ。


 アスラン・ド・アズナブルはセリア連邦の創始者であり現総帥である。

 言ってしまえば、私的にはラスボスってやつだ。


 それはどうかな、とも思うが。

 他に良いアイデアも無し。

 なにより、皆が乗り気なので水を差すのもなあ。

 こうなれば、毒を食らわば皿までもだ。

「では、アレはモビルスチームじゃ」

 私は、皆に宣言した。


 こうして『モビルスチーム壱号』は誕生した。

 略称はМS-01。

 これがМS誕生の隠された真実である。

 こうして『マウリスMS戦記』が始まる。

 いや、始まりません……始まるのかなあ?


「逃しませんぞ姫殿下!」

 終わるのかと思ったら、岸壁の手すりごと外して、港湾役人が追いかけてきた。

 意外にタフな奴である。

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