春節の宴 二日目 6
鉄の串に肉と野菜を刺して炭火で焼いて食べる。
言わずと知れたバーベキューだ。
「ほほう、これは旨いのである」
バーンズ伯が、両手に串を持ってバリバリと食らいつく。
「焼けた肉と野菜の香りが、野趣をそそりますね」
リンダ伯が、口元を手で隠しながら褒める。
「いや、これは意外に高価な食事ですよ」
コンラート伯が、春先の時期に新鮮な野菜や肉がいかに貴重かを語りだした。
「喜んでいくれて嬉しいぞ。振る舞った甲斐がある!」
私は、シシカバブ風に焼いた肉を手に一同を見まわした。
午前の演習が終わり。
今は、昼食の時間である。
本来ならば各騎士団が自前で食事を用意するものだが、今回の演習では我が平民軍が無理を言って強引に参加させてもらっている事から、この昼食へ諸騎士団を招いている。
ちなみに、マウリス平民の普通の食事は朝食と夕食の一日二食が普通。
貴族でも、平時は日に二食で、戦争や演習時だけ三食にしている所が多い。
平民軍でも、訓練中や作戦中は三食である。
「いや、しかし。あんな奥の手があるとは。姫殿下もお狡い」
ランキン伯が、ワインの木杯を手に苦笑いを浮かべている。
「おぬしが言うか? あの機械弓は何じゃ?」
わたしが反論すると。
「秘密にしたいた訳ではありませんよ。何度も戦場で使いました」
ランキン伯が言うが、私は聞いたことが無かった。
あんな特徴ある戦い方をすれば、話題にのぼるはずだが?
「そうなのか? そう言えば、ジョン伯の働きも見事だったが……」
「拙者らは、野営地構築とかばかりでござったから」
笑いながらジョン伯は答えるが。
それは奇妙な話だ。
普通なば、野営地構築は各騎士団から人夫を出すものだ。
それを、どこかの騎士団が専属で請け負うような話は、私は知らない。
その話題が始まると、周りが妙に静かになった。
どうやら、大きな声で話してはいけない話の様子。
話題を変えようと思っていると。
会場の一角から楽器の音が響く。
リュートのような楽器と弓絃を持ったヨアヒムが近づいてきた。
「姫殿下には良い糧をいただきました。お耳を汚すかもしれませんが。我が幻獣楽団の演奏をお送りしたく存じます」
騎士装束を脱いで軽装になったヨアヒムが、宮廷楽師のように礼をする。
「ほう、ヨアヒムは音楽も嗜むのか? 多彩だな」
「下手の横好きでございます」
と言うが、ヨアヒムがリュートをバイオリンのように引き出すと、軽妙な和音が響いた。
会場から感嘆の声が起こる。
なかなかのものであった。
それに呼応するように、ヨアヒムの副官であるビンセントが小型のアコーディオンのような楽器を奏でだし、その後ろでは笛や太鼓までが控えていた。
会場は、一気に盛り上がり、あちらこちらで合唱したりダンスを踊りだす者まで現れる。
後で聞いた事だが、リュートのような楽器は『フィドル』アコーディオンのようなのは『コンサ』と呼ばれている。
さて、午前中の騎士団と平民軍の演習だが。
結果は、時間切れによる平民軍の勝利で終わった。
機械弓による遠距離狙撃をバレットで阻止した平民軍は、鉄条網を突破しようとする騎士団に銃撃を加え動きを封じた。
それでも、鉄条網が薄くなった場所が出来たので、そこを飛び越えて突入しようとした騎士もいたのだが、大半が有刺鉄線にひっかっかて動きを封じられたところを撃たれて倒れた。突入に成功した騎士も、突撃陣形を組には数が少なく、各個に突撃をしてきたのだが。塹壕からの十字銃火で次々と倒れた。
その隙に、後方に密かに回り込んだ工兵騎士もいたが、突破口をつくるには至らずに阻止されて時間切れとなった。
予想よりも綱渡りの展開ではあったが、平民軍は騎馬兵団に勝利した。
この展開に、バーンズ伯あたりが異議を吼えるかとも思っていたのだが、意外な事に静かなものだった。
あの男、巷の噂とは違い、猪突猛進の将と言うわけでも無い様子。
演習が終了して、昼食前に。
「さて午後からも、もう一戦できるぞ。同じ条件で騎士団対平民軍の演習をやてみるか? それとも、もっと面白いものを見てみるか?」
私が悪人の笑いで一同に告げた。
対戦を申し込む騎士団は無かった。
「姫殿下。その面白い見世物とは、なんでありますかな?」
とは、バーンズ伯の言葉。
「未来の戦を見せてやるぞ」
私は、平原の一角を指さした。
そこには、私が乗ってきた蒸気装甲車がある。




