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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
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春節の宴 二日目 5

現代地球には、対物ライフル(アンチマテリアルライフル)と言う銃種がある。

古くは対車ライフルとも呼ばれていた。


 一般のライフルで使われる銃弾よりも大きく重い弾丸を撃ちだし、人ではなく厚い装甲を撃ち抜く事を求めて開発された銃だ。また、重い弾丸の弾道直進性は狙撃にも適している。


 現代地球において、対物ライフルを代表するのがバレット社が生産する対物ライフルだ。

 そこで、試作対物ライフル製作計画を『バレット計画』と呼んだので、この試作対物ライフルの通称は『バレット銃』となり、それを運用する部隊は『バレット隊』と呼ばれる。


 もちろんマウリス製バレット銃は、現代地球バレット社製の対物ライフル銃には遠くおよばない。


「お呼びで?」

 ぶっきらぼうな言葉をつぶやいて、長身細マッチョな男が入ってくる。

 一見して目につく特徴は、細く大きな耳だ。

 そして、銀髪に白い肌。

 現代日本人が想像する『エルフ』の特徴を持つ者だ。

 ただし、銀髪は刈上げた短髪である。

 彼は、マウリスの先住民族であるタータ人だ。

 タータ人は、髪を長く伸ばし、その編み方で身分や出身を現している。

 彼のように、その髪を短く切る事は重大な意味をもつらしいが、詳しくは知らない。


「マカル軍曹、敵の狙撃ポイントを無力化しなさい」

「アイ・マム」

 メアリーアン特佐の命令に答えて敬礼をした軍曹は、その場で背中の長銃身銃を下ろし取り付けられいる二脚を開いて設置し、伏射姿勢をとった。

 狙撃観測手スポッターとしてメアリーアンがつく。

「弾丸は五発。狙撃ポイントは三つですが、予備があるかもしれません。一撃で無力化しなさい」

「アイ・マム」

 メアリーアンのムチャブリ命令に、抑揚の無い声でマカル軍曹は答える。

 

 実のところ、ここへ搬入したバレット銃は、この一丁限りで予備は無い。

 まさか、使うことになるとは思わなかったのだ。

 そして、演習用のワックス弾も五発だけ作らせている。

 演習後のデモンストレーション用くらいに考えていた。


 それを、マサカの投入だ。

「備えあれば憂いなしか?」

 いや、どちらかと言えばドロ縄だろう。


 このバレット銃であるが、実戦投入できるような代物ではない試作段階のものだ。

 

 大砲の施条ライフリングは何とか作れるようにはなったガルムントの工房ではあるが、銃身のような内径の細いパイプへのライフリング加工はまだ困難であった。

 ガルムントでのライフリング加工は、弾が通過する長さに対して弾が半回転--つまり、百八十度の回転--をするような緩くカーブした溝を砲腔に十二本刻む。

 加工全工程の概略は以下の通り。

 1、砲金で砲身内筒と同直径の円筒を鋳造

 2、1の円筒に砲腔内径(ライフリング山から測った内径)の穴をドリルで開ける。

 3、2の穴あき円柱に焼き入れをした鋼の爪でライフリングの溝を掘る。

 4、この円柱に鉄製の外筒を焼き填める。

 

 と、こんな風につくる。


 この方法で小銃の銃身を作ると、3の段階で折れる。

 いろんな方法を試してはいるが、思わしくない。

 

 そこで、どの程度の太さの銃身ならば加工可能かを試す為に、いろんな太さの銃身を試作して、成功した中で一番細いものが十三ミリ内径であった。

 なんと、かのバレットM82と同じ口径である。

「これも何かの縁だ。この銃身で対物ライフルをつくるぞ!」

 との私の独断で対物ライフル試作計画、通称『バレット計画』がはじまった。


 バレット計画の概要は『口径十三mm 銃身長七二〇ミリの銃身を使った単発ボルトアクション式後装銃の製作ならびに同口径用金属薬莢弾の製作』である。


 ほとんど思いつきで始まった計画であるが、ライフリング銃も金属薬莢も近く挑戦してみる予定であった。

 とは言え、試行錯誤にトラブルの連続である。


 ほとんどが職人手作りの一品と同じような工程で仕上がったもので、量産を度外視したものだ。

 その内で『暴発しない程度の銃』が八丁完成。

 ここにある物が、その内で、狙撃にも(なんとか)使えるクオリティーの銃だ。

 同じく試作したセンターファイヤー式金属薬莢弾も演習用ワックス弾とフルメタルジャケット弾が五発づつ。


 なぜ弾丸が五発だけかと言えば『五発以上撃つと故障ジャムする』が理由だ。


 いやはや、実戦投入への道は遠い。


 などと思いにふけっていると、重い銃声が響いた。


 マカル軍曹が狙撃を始めた。


 私も慌てて双眼鏡を構えて敵陣を見る。


 三つある敵狙撃陣地の内、私から見て一番左の機械弓バリスタと弓手に赤いワックスが付着している。


 それに呼応してか、他の機械弓がこちらを狙いだした。

 風切り音が鳴り、近くの土嚢に大弓が刺さる。

 メアリーアンが土嚢の影に隠れる。


 私も、塹壕に隠れながら、砲隊鏡を持ってくれば良かったと思う。


 しかし、マカル軍曹は伏射の構えのまま動かない。

 いや、バレット銃のボルトを操作し、撃ち終わった空薬莢の排出・次弾の装てんを行うと、僅かに肩を動かして射撃。

 塹壕の中からでは敵陣の様子は分からない。

 だが、風切り音は止まっている。

「敵工兵を排除しなさい!」

 メアリーアンの叫び。

「全軍前へ!」

 ガートルートの声が遠くから聞こえ、複数の銃声が重なる。

「メアリーアン。どうなっている?」

 私は、塹壕の外に声をかける。

「敵の狙撃ポイント二つを無力化しました。残り一つは敵大盾が囲んでいますが、こちらの狙撃で動けません」

 こちらからの反撃成功だな。

「また、鉄条網突破の工兵は制圧しつつあります」

 よろしい、ここからは平民軍のターンだ。

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