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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
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春節の宴 二日目 3

「本当に、一撃でござる」

ジョン伯は、呆然となりながらも興奮したようす。

「こんなものを戦場でつかうのですか?」

リンダ伯は、自分の体を抱きしめるように両腕をまわして震えていた。

その震えが恐怖によるのか高ぶりによるのかは、分からない。

「これでは……戦争も世の中も、ひっくりかえってしまいますよ……」

ランキン伯が呻く。

「どうじゃ! これで城壁など役に立たぬが明白であろう」

私はドヤ顔で怒鳴っているが、内心はヒヤヒヤだった。

いやぁ、ちゃんと届いてよかった。

大砲方の皆は、よくやってくれた。後で、ちゃんと褒めておかないとな。

しかし、爆裂に時間が掛かったのには肝が冷えたぞ。すこし、火縄が長かったようだな。

などと考えていると。


「がははは! 役に立たぬは大砲であるな」

と、バーンズ伯が大笑いする。


「わはははぁ! 面白いな、バーンズ伯ぅ。理由を聞こうか?」

 私も負けずに大笑いするが、なんだか喉が痛くなってきた。

 だが、ここで咳き込んでは台無しなので、グッと我慢する。


「移動から砲撃まで何時間かかりましたであるかな? 一時間あれば騎馬は五〇キロを駆け抜けるのである!」

さすがにバーンズ伯だ。

なかなかに鋭いところを突いている。


「なるほど、大砲とて弾を撃つまでの間に騎馬で襲えば恐れるに足りんでござる」

ジョン伯はガッテンと手を打つが。


「なれば我が平民軍が守ったウルバン砲を、そなたらの騎馬で打ち破ってみるか?」

 私の挑発に。

「面白いのある! では、我が赤獅子騎士団が……」

 とのバーンズ伯の言葉を遮っったのはランキン伯。

ランキン伯は前に出と。

「ここは、私にお譲りいただきたい」

 と、演習相手を名乗り出る。

「ランキン伯、いかなる理由でかな?」

バーンズ伯はランキン伯を睨む。

「バーンズ伯は歴戦の勇者なれど、この戦いはまったく新しいものとなるでしょう。なれば、その目で戦全体をしかとご覧いただきたい」

「某に、見ておれと……」

「戦の全体を、姫殿下でさえも見通せないくらいに。深く広く……」

しばらく睨み合いのように対峙していた二人。

だが、バーンズ伯が破顔し。

「がははは! では言葉に甘えさせていただこう」

と、大笑いしてバンバンとランキン伯の背中を叩いている。

おいおい、ランキン伯が壊れるぞ。


「すまないがジョン伯、手伝ってください」

背中が痛いのか顔をしかめるランキン伯はジョン伯に共同出撃を願い出る。

「合点承知の助でござる」

お前は江戸っ子か!


「では、演習相手はランキン伯とジョン伯の連合軍という訳じゃな」

私は、グレタを呼び。

「例の準備を」

と、命じた。

首肯したグレタは小銃を取り出した。

私は、グレタが持つ小銃を指して。

「これが平民軍の主力武器であるユーイル小銃じゃ。三〇〇m先の甲冑を打ち抜ける」

と、言うと。

「三〇〇mですか?」

疑わしいそうな顔のリンダ伯。

まあ、仕方がないので実演をして見せる。


グレタの構えた銃がタンと乾いた発射音を出すと。

標的として用意した三〇〇m先の杭に掛けてあった甲冑が揺れた。

従者が、その甲冑を運んで、一同に見せる。


「これは……」

リンダ伯が甲冑に空いた穴に指を入れて驚いている。


「これが銃の威力じゃ」

私は、一同を見まわした。

「とは言え、これは殺し合いでは無い。それで、こんな物を用意した。コンラート伯!」

私の言葉に、コンラート伯の家臣が荷車を押して出てきた。

「これは、演習用の刀と槍に矢です。刃・矢じりは鉛を仕込んだ木製で朱が仕込んであります」

コンラート伯は、演習用の模擬刀を一本抜いて、仕掛けを一同に説明する。

「切られたりすると、朱が付いて分かると言う仕掛けですか?」

ランキン伯の質問に。

「そうじゃ。朱が付いた者は戦闘から外れる。こちらの使う銃も同じような仕掛けがしてある」

私が答え、演習用の銃弾を取り出して見せる。

「普通の弾頭は鉛じゃが、この弾頭は朱を混ぜたワックス弾頭じゃ。よほど当たり所が悪くなければ怪我ですむ」

「了解です。こちらの模擬刀にしても運が悪ければ骨が折れるだけではすみませんからね」

「平民の弾など当たらんので心配ないでござる」

 ほほう、言ったなジョン伯。

 十字銃火を見舞ってやるぞ。


「勝敗の判定は、どうするのであるか?」

バーンズ伯の問いに、私は一本の白旗を取り。

「この旗をウルバン砲の脇に立てる。これを奪えば、そちらの勝ち。演習開始から一時間の間、旗を守れば我らの勝ちで……どうじゃな?」

ランキン伯とジョン伯は首肯にて了解した。

「では開始は一時間後に、コンラート伯!」

「なんでしょうか? 姫殿下」

コンラート伯に信号銃を渡し。

「使い方は分かるか? 開始時間になったら撃ってくれ」

コンラート伯は、信号銃を受け取ると頷いた。

「では、両軍ベストをつくせ!」

演習準備に入る。


 白旗を持った私とグレタは、ウルバン砲陣地に入り、見えやすい位置に白旗を固定した。

私の横にメアリーアンが立ち。後ろにグレタが控える。

その前にガードルート少尉が立つ。

平民軍が整列して並ぶ。

ガートルート少尉が目くばせしてきたので、私は頷いて合図した。

「これより騎士団との演習に入るぅ。総員準備に~~ぃかかれ!」

少尉の号令一下、皆は走り出した。

ある者は、地面に穴を掘りだし。

ある者は、大きな針金を丸めた束を持って走り

ある者は、木の杭を持って走る。

ある者は、土嚢をつくり積み上げる。

ある者は、軽ガルムント砲を据え付ける。

ウルバン砲を中心にして、伸ばされた巻きバネ状の特殊針金(有刺鉄線)の囲いが二重に張り巡らされ、その内側に人一人が入れる穴に身を潜めた兵士が銃を構える。

その内側にも、土嚢の陰に隠れて銃を構える兵と軽ガルムント砲が据えられている。

だが、今回の演習では軽ガルムント砲を使う予定は無い。


まあ、ワックス弾を大量に砲身に詰め込んで葡萄玉のように発射して面制圧するのも良い。

しかし、それでは騎士どもは納得しないだろうし。私も面白くない。


などと考えていると、観戦場所の丘の上から信号弾が打ち出された。


「総員! 合戦はじめぇ!」

 ガードルート少尉の号令で、総員は戦闘状態に入る。

 同時に平原の端からラッパの音が響き、騎馬集団が六つが進んできた。

 騎馬集団は黄色と青色の旗を掲げている。

 その数は黄色が三に青が三。

 黄色の騎馬がジョン伯で、青の騎馬がランキン伯である。

 黄色と青の騎馬は左右に分かれると、ウルバン砲陣地を包むように、大きな円を描いて進んでゆく。

 


「さて、メアリーアンよ。少尉(ガードルート)の仕上がりはどうかな?」

私は横で双眼鏡を構えるメアリーアンに尋ねた。

「緊張していましたが……戦闘に入って、かえって落ち着いたようですよ。防御戦ですから大丈夫です」

メアリーアンは、この戦闘には参加せず、観戦に専念する。

理由は、バーンズ伯が演習に参加しないのと同様に、全体を見て問題点を見つけるためだ。


 様子を見るように、この陣地の周囲を回っていた黄旗と青旗の動きが変わった。


「総員! 打ち方用意ぃ」

 ガードルート少尉の号令に、兵が一斉に反応する。


 黄旗三集団が、私から向かって八時・十二時・四時の地点に突っ込んできた。


「撃ち方ぁ、はじめぇ!」

十月二十七日 午後十時三〇分 銃の威力を知らせるシーンを追加し、誤字を直しました。


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