春節の宴 二日目 1
今回内容が『避妊』です。
読み飛ばしても、本編には影響の無い内容なので。
おイヤな方は、読み飛ばしてください。
演習は次回からはじめます。
「おお、ジョン伯もランキン伯も早いではないか」
天幕を出るとそこにいた二人に挨拶するが。
「おはようございます。姫殿下」
「おはようでござる……ところで、姫殿下! 昨夜のアレは如何な所存でござるかな?」
ジョン伯が挨拶も早々に本題に入る。
「昨夜のアレとは、何じゃ?」
「ユリアナ姫殿下。とぼけるものではございません。姫殿下が娼館に命じた奇天烈なアレでございます!」
ランキン伯も、相当に怒っているようだ。昨夜は騒ぎになったのだろう。
「そのアレとは、これか?」
私は懐からアレを取り出した。
「それでござる!」
「なんなのですか。これは!」
ジョン伯、ランキン伯の問いに私は。
「これぞ、人口爆発の解決の秘策『避妊具』じゃ」
と、アレを掲げた。
アレとは、現代地球で一般に使用されるゴム製男性装着型避妊具『コ○ドーム』の類似品だ。
コ○ドームとの違いは、ゴムでの製造が難しかったので、羊の腸を使ってつくった。
私はアレを大量に用意し、事前に娼館の経営者に協力を要請して。昨晩にアレの実施テストと市場調査を行ったわけだ。
「人の根本欲求の一つ性欲は、食欲や睡眠欲と同様に制御が困難だ。そして避妊具は、その解消を低リスクで実施できる!」
私は、傍らの衛兵から剣を借り。
その剣の柄にアレを被せて。
「ちなみに、このようにして使う」
と、実演して見せたが、衛兵は凄くイヤそうだった。
「いや、実演は結構ですから……」
ランキン伯も微妙にイヤそうだった。
「姫殿下が、そんな……イヤでござるぅ!」
ジョン伯は涙を流してイヤがった。
なぜ、そんなにイヤがる?
「まあ、慣れない間は違和感もあろうが、性によるトラブルの回避には有効な手段なのじゃがなぁ」
「違和感どころの騒ぎではないでござるよ。娼館では騒ぎが三件に逃げ出した者が二人……拙者の身内もおりました……でござる」
「ほう、意外に少ないな」
ジョン伯の報告に、私が感想を言うと。
「それは、アレを使えば料金が安くしてもらえたからです。ちなみに、差額の保障は姫殿下がされるとか?」
「少しはな……だが、性病や妊娠の予防は、娼館でも課題なのだ。効果を説明したら、喜んで協力してくれたぞ」
「ですが、兵の士気に影響します」
「慣れの問題じゃ。それに、娼婦も体をはっての仕事なのじゃ。そのリスクや損耗は騎士より軽いと思うのか?」
「……そう言った話も聞きはしますが」
「騎士と娼婦を同列に扱うのは、我慢ならんでござる!」
「同列に扱って何が悪い!」
私は大声をだしてしまった。
ジョン伯は声を失い、咄嗟に礼をして。
「失礼をしたでござる」
と詫びた。
「いや……大声を出して、すまぬ」
しまった。感情的になった……冷静に、冷静にじゃ。
「これは、昨夜だけの事としたくは無い。広く一般に……すべての人が使うようにしたいのじゃ」
「人口増加抑止の為に……ですか?」
ランキン伯の言葉に首肯した。
「しかし、人の誕生は自然の理です。それを曲げるなぞ」
「死も自然の理じゃ。我らは、それを曲げた……違うか?」
「……その通りでございます」
ランキン伯は弱い声で答えた。
「なれば、小賢しい知恵を用いて辻褄を合わせねばならぬ」
「ですが、なぜ今なのですか? ご領地の娼館から始められるべきでは」
「それは、すでにやっている。ガルムントでは、一般でも使えるように広めているところだが……実の所は、広まっていない」
「まあ、そうでございましょうな」
なにしろ微妙な問題だ。
大規模なキャンペーンとか、法律で、どうこうできる問題とは違う。
「で、切り口を変える事とした。まず、騎士団や平民軍で広める事を試す」
生活習慣の変更は、若いうちが良い。
それも、集団生活で全員に行わせるのだ。
みんなが同じ事をする安心感は、定着効果をあげる。
「まあ、強要はせぬ。だが、子が死なぬなら、生まれる子の数を合わせる。他に人口増加を抑える手があるか?」
「思いつきません」
「分かりませんでござる」
二人の答えに。
「では、これを試すのも。よいのではないか?」
私は二人に避妊具を手渡した。
二人は凄くイヤそうに受け取った。
その後、バーンズ伯にも出会ったが。
「奇妙なものを考えられますのであるな」
とだけ言われた。
だが、その後にリンダ伯に会って、ヘコむ事になる。
「今朝、兵たちが奇妙な話をしていたのですが……」
と、リンダ伯。
「なにやら兵たちは『姫殿下の帽子を使った』とか言うのですが……私が何かと問うと逃げるのです。何の事でしょうか?」
ちょっと待て。
なんだ『姫殿下の帽子』とか言う通称は!
多分、アレの事だろうが……
私は、そんな俗称が定着しない事を密かに祈った。




