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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
35/98

錬金術の少年

「速射五連、撃て!」

 私の掛け声でグレタは、ユーイル小銃に残っている五発の弾丸を速射した。

 タンタンタンタンタンと、軽快な発射音が2秒ほどで終わる。

 一秒で二から三発を撃てる勘定だ。

 グレタの上半身は黒色火薬の煙に包まれ霞んで見えにくい。


「シリンダー交換!」

 私の声が響くと、グレタは射撃姿勢を乱さずに銃尾のロックボルトを九〇度回転させて、そもまま右に倒した。すると、このロックボルトに取り付けられたいる回転弾倉シリンダーが銃身から離れてフリーになる。グレタは、その回転弾倉を掴んで外し腰に下げた腰嚢(ポーチ)に入れ、その腰嚢から別の回転弾倉を取り出してロックボルトに固定。そのままロックボルトを銃身にセットしてロックさいた。

 この間、グレタは射撃姿勢を乱さず、銃口は標的をとらえたままである。


「膝撃ち」

 グレタは、右膝を地につけた低い姿勢になり。

「撃て!」

 との、私の声で弾丸を放つ。


「座り撃ち」

 グレタは、胡坐をかいて座る姿勢で銃を構え。

「撃て!」

 との声で弾丸を放つ。


「伏せ撃ち」

 グレタは、腹這いに地面に横たわる姿勢になり。

「撃て!」

 で、引き金を絞った。

 続いて、私は。

「速射三連、撃て!」

 と言い。

 グレタは伏せ撃ちのままで三発の弾丸を放つ。


「直れ!」

 の命で、グレタは立ち上がり、クルリと銃を回しながら各部のチェックをして肩に銃をかけた姿勢で直立になる。


「報告せよ!」

「イエス、マム!」

 グレタは、敬礼し。

「試作小銃の試射を行いました。各部異常無し!」

 と言った。

「よろしい、休め!」

 私の言葉で、ストックを地に着けるように銃を体の横に立て、足を開いて両手を後ろに組んだ姿勢になる。


 さすが、火砲先進国であるセリアで教育された士官だ。

 動きが良い。


「す……すごい! 標的がボロボロだ」

 コンラートがうめく。

 グレタが射抜いた厚板の標的は、六発の鉛弾を受けてひしゃげている。

「連発銃の威力とは……これほど……」

 私はコンラートの背に声をかけた。

「連発銃があれば、たった一人の兵が、騎士団一つの動きを止められるぞ」

 まあ、使い方によるのだが。

「これは、確かに……」

 コンラートはゴクリと喉を鳴らした。


 グレタが試射したユーイル銃は、パーカッションリボルバーライフル銃だ。

 地球の歴史では、サミュエル・コルトか発明したM1848ドラグーンと同じ、回転弾倉を持つ六連発構造。

 先の試射での装填で分かるように、ユーイル銃は回転弾倉シリンダーにカートリッジではなく、火薬・弾丸・雷管を直接に込める。

 弾倉部は銃身の一部と考えられ、その銃口側から火薬と弾丸を込める事から、先込め式となる。

 ドラグーンは未整備の土地での運用に最適化しており、過度に強度のある構造であった。現代地球での私は、ドラグーンの構造は、もっと簡素にできるはずだと考えていた。

 ユーイル小銃は、ドラグーンをより簡素にし、シリンダー交換による連続射撃を可能にしている。

 銃口を標的から離さずに銃弾を補充できる機能は、とても重要だ。


 とは言え、シリンダー交換は薬莢式弾倉より重く嵩張り、使用する金属量も格段に多い。

 銅製の金属薬莢の試作品はすでに完成している。

 しかし、それは熟練した職人が手作りした工芸品だ。

 戦争で使うには、量産が絶対に必要となる。

 だが、マウリスの工業には、量産化を可能にするマザーマシンを構築するのに必要なハイス鋼が無かった。



「どうでした? ユリアナ様~ァ」

 思考に没頭している私の後頭部に、ポヨンとした感触が触れると、ギュッと後ろから抱きしめられた。

「なんだ、もう兵士モードはおしまいか?」

 見上げると、ゴーグルとマフラーを外したグレタの顔は、煤で汚れている。

「う~ん、ユリアナ様ったら~ァ。冷たいんだから~ァ」

 だから。

 そのポヨポヨしたものを私の頭に押し付けるな!


「これで兵たちのも新式小銃を与えられます」

 と、私とグレタの方を見ないようにしてコンラート伯爵が言う。

 なぜ、私たちの方を見ないのだ。


 などと考えていると、ポヨポヨは私の頭の上に乗ってきた。


 なんだ! これは、なんの罰ゲームだ。


 嫌味か! 私の身体的な特長に対する性的なハラスメントかぁ!


 ……でも、このポヨポヨ……嫌いではないんだが……


「あら? 何ですか~ァ。この匂い?」

 私の頭の上でグレタが呟いた。

 たしかに、妙に刺激のある匂いがしだした。

 堆肥を撒いた農地やトイレでする匂いだ。

 これは……アンモニア臭か?

 匂いは、ドンドンと濃くなってくる。

「ユリアナ様。ここを離れることを進言します」

 一転して、軍人モードのグレタがゴーグルとマフラーで目と口を覆い、私を安全な方へと促す。

 私も、ハンカチを口にあて、この場所を離れることにした。


「おい! この匂いは何だ!」

 コンラートは家臣らしく男に叫んでいる。

「どうやら、ジュニア様の実験らしく……」

 呻くように家臣が言う。

「また、あいつか……くそ、涙がとまらん」

 コンラートは涙を流しながら怒鳴っている。


「父上! やりましたよ」

 そのコンラートに声をかけてながら走って来る少年がいた。

「ジュニア様! なんというお姿で」

 ジュニアと呼ばれる少年は、工夫が着るような作業服を着ている上に、それはあちらこちらが破れたり焦げたりしている。

「ジュニア。これは何の騒動だ」

 コンラートの怒声が飛ぶ。

「父上。お喜びください。私は成功しました」

「この悪臭は、お前の仕業だな。すぐにやめろ」

 怒るコンラートの声を聞き流すように少年は。

「すぐに止まりますよ」

 と、涼しげな表情で笑う。


 実験?

 この少年は、コンラートの息子なのか?

 それに、このアンモニア臭が実験の結果ならば。

「一同の者! 伏せろ、爆発が起こるぞ」

 私は叫んで、地に伏せた。

 習って、グレタが私を守るように覆いかぶさる。

 遅れてコンラートと家臣も伏せた。


 次の瞬間。


 城壁の側の小屋が爆発で吹き飛んだ。


「うん、計算の通りだ」

 少年は、爆発を避けて伏せるどころか、喜んでいる。

 だが、次の瞬間。

「うわぁ~あ!」

 少年は、爆風で飛ばされていた。



 まるでマンガのようだった。


 だが、あの少年は窒素の固定に成功したようだ。

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