表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
32/98

茶会の誓

「いいえ。この度の騒動は、私の手落ちでございます」

 と、深く頭を垂れるグレゴリオに、私は当惑し。

「な……なにを言うのだ? これは、我が一人で行った事じゃぞ」

「その事が……お一人で行われた事が、我らの不甲斐なさの証なのです」

 なに?

 私は、グレゴリオの言葉に戸惑う。

「たしかに、此度の事。姫の側に仕える、我らの不足でございますわね」

 言うと、ミランダまでが深く頭を垂れる。


 ちっと、待て。

 なんだ? この事態は。


「姫殿下」

 と、グレゴリオが呼びかけるので、いつもの様に不快の意を言葉にしようと思ったが。

「今はあえて、姫殿下と呼ばせていただきます」

 と、その言葉をさえぎられた。

 グレゴリオの奴、真剣だ。

 私は、黙って次の言葉を待つ。

「王は、一人では王たりえません。王が王である為には、国がいる。民がいる。家臣がいる」

 そこで言葉を切り、私の反応を待つグレゴリオ。

 私は、軽く首肯する。

「王を王たらしめるのは、国であり、民であり、家臣であると思っております」


 たしかに、王は国の主である。

 だが、主だけでは意味が無い。

 統治する国土。

 保護すべき民。

 執行する家臣。

 それがあっての王だ。


 現に民主主義国家では王は絶対必要な要素ではない。


 民や家臣が認めてこその王なのだ。


「したがって、王が正しき行いをするは、王だけの責任では無いのです。王が正しき道を歩むための家臣なのです」

 そこまで言うと、グレゴリオは一息ついき。


「姫殿下も、同じでございます」

 そして、グレゴリオは私を見つめ。


「姫殿下は、聡明な方です。いえ、その知恵の深さは、私には理解できないほどです。

 正直に言えば、姫殿下の知恵が怖いと思っていたのです」


 まあ、そうだろうなあ。

 と、思っていると。


「だが、違いました」

 グレゴリオが、ぽつりと呟いた。


「怖かったのは、己の無能でした。

 姫殿下のお役に立つどころか、足を引っぱるばかりの自分を見るのが……怖かっただけなのです」

 グレゴリオの弁は、懺悔のようだ。


「本来なら、このような書簡は姫殿下本人が書かれるべきものではありません。また、使いもライア殿本人ではなく、しかるべき者がつくべきなのです」

 グレゴリオの言葉を受けて、今度はミランダが話し出した。

「私にも、ユリアナ姫殿下の大望の先が何処にあるのか分かりません。しかし、姫殿下は王宮の奥で静かに過ごされる方には見ません」


 ああ、そんな生き方をするつもりはない。


「いずれは、一軍を……いえ、幕を開かれる方と思っております」


 このばくとは、軍司令部をさす。

 日本人には江戸幕府の「幕」だと言えば理解が早いかもしれない。


「ですが、軍は知恵だけでは動きません。軍を動かすものは人です」

 ミランダは言葉を聞くと。

「我らをお使いください姫殿下」

 と、グレゴリオが言い。

「私も微力ながら姫殿下の力になりとうございます」

 と、ミランダが言う。


「そちら……すまんぬ。

 不甲斐ない主だが、我に使えてくれるか?」

 私の言葉に。

「もちろんでございます」

 と、騎士の礼で答えるグレゴリオ。

「よろこんで」

 と、スカートをつまみ頭を垂れるミランダ。


 どうやら、私は初めて自分の部下を持つことになったらしい。

 考えて見ると、現代地球でも部下を持った事は無かった。

 この辺は未知の領域だ。

 それに、知識だけでは乗り切れない分野でもある。

 グレゴリオとミランダは、良い部下と言えるだろう。

 これからは、この二人と供に、私もスキルアップしていかなくてはいけない。


「あ……あの……もう、大丈夫なのかなぁ~」

 なんだか情けない声が部屋の隅から聞こえてきた。

 グレゴリオに続いて部屋に入ってきたライアである。


「ライアにも迷惑をかけたな。私の間違いにつき合わせてすまなんだ」


「え……えと、僕は、もう……守護騎士にならなくて……いいのかな?」

 なんだか、ライアの奴は酷くおびえている。


「ああ、その件はナシじゃ」

 と、私の言葉を聞いたライアは。

「ああ~、よかったんだなあ!」

 心の底からの安堵の声を出す。

「守護騎士になったら、教会の怖い坊さんがオマタをチョッキンと切りに来るって言われたんだなぁ。そんなのイヤなんだなあ」

 と、自分の股間を両手で隠すライア。


 なんだ、それを聞いて怖気づいたのか?

「ははは、意外にだらしないなライア」

 私の笑いに。

「ほほほ、そうですわね。そんなに痛いものではありませんよ」

 と、ミランダも続いた笑う。


「冗談じゃないんだな!」

「まったくです」

 と、仲良さそうにライアとグレゴリオが愚痴をこぼす。


「お茶をお持ちしましたが、お邪魔でしたかしら~?」

 と、お茶セットを盆に乗せたメイド姿のグレタが入ってきた。

「よい、入って来い。皆に紹介をしておきたい」

「はい、お嬢様~」

 と、語尾にハートマークが飛びそうな愛想の良さでグレタ・ジェイが入室し一同に流暢な身のこなしで茶を用意しだした。

「おや、新しいメイドですか?」

 グレゴリオがグレタに声をかける。

「はい、グレタと申します」

 笑顔で答えるグレタ。

「あの、お嬢様。 メアリーアン様が来ておられます~」

 と、グレタ。

「おお、ちょうど良いな。ここにお通してくれ」

「はい~」


 グレタが出て行くと、ミランダが側により。

「なんでグレタ殿が、ここでメイドをやっているのですか?」

「先日スカウトした。我の独立情報員じゃな」

「ちっと待ってください。彼女はセリア王国のスパイですよ」

「篭絡した」

「どうやって?」

「ハニートラップ」

 少し驚いてから深いため息を吐き出したミランダは。

「私の方で監視をつけますよ。二重スパイの可能性もあります」

「それはそれで、利用価値もあろう?」

 私が笑って答えると。

「まったく、あなたという方は」

 しかたがないと笑うミランダ。


 そんな話をしていると。

 廊下の方から何やら騒がしい声が聞こえてきて。

「ユリアナ様、メアリーアン特佐ただいま戻りました」

 と大陸式軍礼で答えるメアリーアン。

 特佐とは特務佐官の事。

「任務ご苦労。座ってくれ、皆で茶会をする」

「はっ! ……ところで、なぜグレタがココでメイドをやっているのですか?」

「えっ? メアリーアンは、彼女の事を知っているのかい?」

「ええ、だって。軍学校で同期だったのよ」

「へえ~、そうなんだ」

 と、なんだか、いつもとは違いラフな雰囲気になるグレゴリオとメアリーアン。

 諸事情で正式な婚姻を結んではいないが、二人は生活を供にしている事実婚夫婦なのだった。

 このリア充カップルが!

 いや、私も今はグレタたんがいるし。


 などと考えていると。

「ちょっと待てください。それでは、グレタ殿はセリアの士官だったのですか?」

「ああ、かつてはアスランの秘書をやっていた者じゃ」

「そんな者がメイドに? どうして一体? どうかしています!」

 混乱して、いつものように反対するグレゴリオ。

「反対か?」

 私が問うと。

「当たり前です」

 と、反射的に答える。

「お主は、いいのか?」

 私が問うと。

 グレゴリオはメアリーアンの方を見て躊躇する。

「ミランダ。グレタの事を説明してやってくれないか?」

 ミランダは、茶を一口飲むと。

「分かりました」

 と、説明を始めた。


 

 ミランダの説明が終わるのを待ち、私は口を開いた。


「知ってのとおり、我らは遠からずセリア連邦と衝突する。衝突を避ける手立ては、セリア連邦の一員になるしかない」

 私は言葉を切って、一同を見る。

 誰も反対の表情を表さないのを確認し。

「このマウリスが独立を保つ手段は、戦争の覚悟を決める事だ。これは、こちらから戦端を開くを意味しない。あくまでも、侵されれば戦うと言う強い意志の表明とその準備を進める事だ」

 また、ここで一拍置く。

「そのためにも、我がマウリスには多くの味方が必要だ。セリア王国は、その重要な一つだ」

 私はグレタを見た。

 少し口角が上がるグレタ。

「いずれは、ウルオン帝国とも話し合いたい」

 私がウルオンの名を出すと、グレゴリオが動いた。

 それをメアリーアンが、そっと手をそえて抑える。

 ウルオンとマウリスには領土問題が多くある。

 実のところ、供に鞍を並べて戦うような日は、目前にセ連邦の軍団が迫った時だろう。

 しかし、少なくとも連絡窓口を開くくらいの事はしたい。

 ウルオンにもセ連邦の脅威を感じている者は多くいるはずだ。

「戦わずして独立を保てるのならば、それは最上等だ。しかし、敵は強大だ。省みて、我らは、これっぽっちだ」

 私は卓を囲む一同を見回した。

「まったくですな」

 と言うグレゴリオの言葉に一同から笑いが起こる。

 笑いが収まった所で、私はグレゴリオ、メアリーアン、グレタ、ミランダ、ライアを見て。

「さっそくだが、一同にはやってもらいたい事がある」

 と告げた。

10/22 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ