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大砲姫  作者: 阿波座泡介
ガルムント編
24/98

ガーデンキーパーとパニア

「うをおおぃぃぃい 痛いんだなあぁ!」

 ライアは大声で叫んだ。

 領主館の集まった一同がライアの方へと顔を向けた。

 その一瞬、私の前に影が降り立つ。

「グレタ」

 私は影の名を呼んだ。

 金髪碧眼のセリア王国情報部に籍をおく諜報員だが、今はメイド服に身を包んでいる。

「姫殿下、遅れまして申しわけありません。病院へ行く時間でございますよ」

 銃口と私の間に身をおき、笑顔で話しかけている。

 この状況なら、小口径の弾丸ではグレタは殺せてもも、私は悪くとも負傷、運がよければ傷一つ無いかもしれない。

 だが。

「グレタ、奴は……」

「分かっております」

 そう言いながら目配せをすると。

「人使いの荒いメイドねぇ」

 と、車椅子を押したミランダが現れる。

 ミランダは、私の家庭教師だが、正体は父である国王の密命を受けた監視者だ。

「ミランダ? なんでお前が」

「あら、お給料分の仕事をしているだけですわ」

 と、私の横に車椅子を寄せると。

「そこの騎士殿。失礼とはぞんじますが。姫様のために少し下がってくださいませんか?」

 ミランダが言うが、副隊長と思われていた人物は小さく唸るだけで動こうとはしない。

「あら、ヒドイ汗だわ。思ったより傷が痛そうね。そこの丸顔さん」

 ミランダはライアを『丸顔』と呼んだが、ライアは周囲を見回してから自分を指差した。

「そう、あなたよ。この人を病院に運びます。手伝ってくださらないかしら?」

「僕も、お尻が痛いんだな。お尻に、こんなものが刺さっていたんだなぁ」

 と食事に使うフォークを持っている。

「なんだそれは?」

「さすがわ食いしん坊のライアだ」

 そんな笑い声が聞こえてきた。

「あら、アナタも怪我していたの? ちょうどいいわ。じゃあ一緒にアレクサンドロ先生に見てもらいましょ」

 

 と、なんか話は進み。

 ライアが副団長を抱いて運び、私はグレタの押す車椅子へ、ミランダは後から付いて来る。

 病院は向かう前に、ピョートル騎士団長に尋ねた。

「副団長が怪我をしたとき『らしくない』と言ったであろう? 副団長は有能な男なのか?」

 酒場で騒ぐような貴族に有能なのはいないと思っていたのだ。

「ああ……まあ、逆ッスよ。怪我をするほど熱心に仕事をする男じゃないッスよ。危ないことは部下にやらせる奴ッス」

 らしくないとは、そんな意味だったか。

 納得した。



 病院へ行く道すがら。

「さて、事の成り行きを教えてはくれぬか?」

 私は、グレタとミランダに声をかける。

 二人は顔を見合わせると、暗黙の了解でもあるのか、グレタから話し始めた。

「事の始まりは、密輸騒ぎですわ」

 グレタが言うには、セリア王国に繋がりがある商人が密輸容疑で次々に捕まりだしたのが始まりだったらしい。

「この事件にはセリア共和国の工作が疑われましたの。同時にホワイトフェイスがマウリスに入ったとの情報もあり、私どもも警戒をしておりました」

 なるほど、それでグレタはガルムントから離れたのか。

「私どもの一族でも、この事件は王国と共和国の両方を調べておりましたわ」

 とは、ミランダ。

 ミランダは、マウリス国王直属で諜報・諜報対抗をになうパニア一族の者だ。

「すぐに共和国側の陰謀とわかりましたが。事は商取引の問題から外交問題に代わり、対応を苦慮しておりました」

 なるほど、単なる密輸ならば犯人逮捕で一件落着だが。密輸疑惑を利用した外交問題となると事は複雑だ。

「そこで、私どもの長は王国の諜報機関との協同作戦を行い、共和国側諜報工作組織のあぶり出しと駆逐に乗り出しました」

 ミランダは、パニア一族がグレタの属する『ガーデンキーパー』と共同で対諜報戦を始めたと言いたいらしい。

 ガーデンキーパーは、セリア王国の諜報機関の通り名だ。

 私がグレタの方を見ると。

「私どもも難儀をしえおりましたので、パニアとの共闘は渡りに船でございました」

 と、一見好意的な言葉だが、なんだが声が固かった。

「まあ、こんな事でもなければ、外国の間諜と共闘なぞ言語道断なんですけれども」

 とミランダ呟くと。

「私どもとしましても、血族を重んじる古臭い組織と関わるのはやぶさかではございませんのですけれども」

 と、グレタが返す。


 ああ、こっちが本音か。


 まあ、なんにせよ。

 これでグレタとミランダが一緒にいることの説明はついた。


「しかし、共和国の諜報員の暗躍を知っていたのならば、工房の破壊工作も事前に防げたであろう?」

 私はミランダを睨むが。

「あの時点では、敵の動きを監視するのが任務でしたわ。敵の情報を教えただけでも感謝してください」

 と、軽く返された。

 わざと敵を動かせて、その動きを把握し、一気に殲滅か。

「身内の損害は計算の内か? リスクの高い作戦だな」

「ですが、効果は絶大ですわ」

「まったく」

 ミランダとグレタは、ライアが抱きかかえた共和国工作員を見る。


「この男が、伝説のスパイ『ホワイト・フェイス』か……」


 私は、ホワイトフェイスが暗殺に使おうとしたペンのような道具を手の中で転がした。

「こんなものまで造っているのか……アスラン」

 

 遥かな異国の支配者 アスラン・ド・アズナブル。

 ついに、その尖兵が、私の元に来た。


すいません、しばらくご無沙汰をしておりました。


本業で少々もたつきまして……今も継続中なのですが。


次回も、少し間が開くかもしれません。

ご容赦を!

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