序章
魔法なし、転生プロセスなしです。
残酷な表現は無いように気をつけますが、作品の性質上、怪我やら病気、暗殺事件くらいはおきます。
ほのぼのファンタジーでありません。
また、かなりご都合主義で書いてゆきます。目に余るようならご指摘ください。
自分の前世を思い出したのは、私が十歳の誕生日の夜。
私は、その夜、突然の高熱に襲われ意識を失った。
前世の私は、二十一世紀の日本で生活していた。性別は男。二十九歳。就職したが、会社が倒産してからは仕事はしていない。特技というか趣味は軍事オタク……。
今の自分の境遇とは、違いすぎた。
私の生きる世界は、電気どころか蒸気機関も火薬も無い、中世欧州のような世界。
私は、その世界の『マウリス』と呼ばれる王国の第三位王位継承者なのだ。
マウリスは、大陸から適度に離れた大きな島全部が一つの王国。
マウリスは、島の名前であり、王国の名前であり、私の一族の名前だった。
『ユリアナ・エルム・マウリス』が、私の名前。
付け加えるならば、この世界には魔法も無い。
呪いや予言や宗教はある。
だが、攻撃魔法とか治癒魔法とかは、無い。
少々寂しいが、しかたないだろう。
二晩も高熱にうなされた私は、前世の自我や知識を自然に受け入れ、この世界の知識も持っている。
二つの自我が融合して、新しい自我が出来たような感じだ。
私には、自然に受け入れられる変化であった。
しかし、私の周囲は、そんな変化を容認しなかった。
それから三年が過ぎた。
私は、気をつけて行動したつもりなのだが。どうやら、私の行いは物狂いの類と見なされたらしい。
狂乱した、と思われた私は、表向きは療養転地として王都から放逐された。そして、島流し同然に、僻地の王家直轄領であるガルムント鉱山にやってきた。
しかし、この鉱山は硝石を産する。
「とは言え。まあ、願ってもないかな」
そう、黒色火薬の原料だ。
「ふふふ……この世界、変えてやるわよ」
「姫様、ほどほどに願いします。します」
私付きの侍女ハンナが、涙を流しながら呟いていた。