6、初めまして☆侵略者です
「ペコペコよ、もっと暴れるのだ、愚かな人間どもに、おまえの力を見せてやりなさい」
プロミネンスの高笑いが、校庭中に響き渡る。
(俺なんかが暴れるよっか、あんたがやった方が何十倍も効果的だよっ!)
ペコペコは、声にしたくても恐ろしさのあまりに口に出来ないその台詞をこっそり心の中でつぶやく。
(命令だから仕方なく得意でない破壊活動なんかやってるわけだが、それにしたってなんで俺がんなことしなきゃなんねーんだっ)
旧校舎の壁にパンチをしながら、ペコペコは一人思う。
(あーくそ、おもしろくもねー)
その様子に何か思うところでもあったのか、プロミネンスがいぶかしげな眼差しをペコペコに向けた。
「どうしました、ペコペコよ。何か不満でもあるのですか?」
プロミネンスが、台詞の割には反論を許さない口調で言った。
「いえ、別に。ただ、解体工事中の旧校舎を破壊して、いったい何の意味があるのかと思いやしてね」
ペコペコが、ふう、というため息と共にペコペコキックで壁を蹴り崩す。
「新校舎を破壊させろとでも? 学園を手に入れるのが目的なのに、その学園を破壊したい、とおまえは言いたいのですか?」
プロミネンスがにっこり微笑みながら言う。
「お仕置きが足りなかったのでしょうか、ねぇ、ペコペコ?」
何の屈託もない笑顔で、最大級の殺意を向けられてはどうしようもない。ペコペコは引きつった顔で破壊活動を再開した。
「きゃあああああああっ!」「うわっ!」「うおっ!」
聞こえてくるのは、ペコペコの破壊力を恐れる悲鳴ではない。
「きゃあ、すごい、すごい!」
「あれ三組の原我じゃね? あんなに強かったのか!」
「ね、ね、君! 空手部に入らないかい?」
「つよ~い、すっごいなぁ」
純粋に強さに感嘆する声ばかりである。
ペコペコがため息混じりに破壊活動を続けるうちに、ようやくプロミネンスもそのことに気がついたらしい。
「妙ですね。生徒達に怯えの表情がないとは」
「だから、意味ねーぜ、って言ったじゃねえか」
たまりかねてペコペコがつぶやく。
「せーぎのみかたに悪の秘密組織が、そろって巨大ロボットを繰り出して大騒ぎする学校なんだぜ? ったく。俺が壁ぶっ壊したくらいで怯えるもんかね」
つぶやいた直後、ペコペコは背後から絶対零度の視線を感じて、凍てついた。
「……私の作戦に、何か意見でも?」
プロミネンスは小さく笑いながら、ペコペコに紅炎乱舞をぶちかました。
燃え尽きたペコペコに活を入れると、ちいさくコホン、と咳をしてプロミネンスは言った。
「少し、作戦を変更します。その正義の味方とやらを、叩き潰してきなさい」
(最初から、そうすりゃよかったのによー)
心の中だけでつぶやいて、ペコペコはふらふらと立ち上がった。
体力は虫の息。防御力も、攻撃力も、最大値の十分の一以下。
(こんなにしといて敵を倒して来いとは無茶もいい所だ)
そう思うものの、断ったり文句を言ったりしようものなら、その場で再び紅炎乱舞を食らわされるのは目に見えている。
(進むも死、留まるも死。同じ死ぬなら前向きにいくかぁ?)
自嘲気味に小さく微笑むと、ペコペコはつらい一歩を踏み出そうとした。
その時。
「そこまでだ! 悪党どもっ!!」
ペコペコの頭上から声が響いた。
見上げると、解体工事用に汲み上げてある簡易足場の上に数人の男女の姿があった。
「とうっ!」
掛け声と共に、一斉に飛び降りてくる。お約束として、約一名が頭から地面にめり込んだりするが、一行は無視してペコペコの前に立ちふさがった。
「この学園を騒がす不届き者は、俺達が許さないぜっ!」
鋭い声と共に、びしっ、とペコペコを指差す者がいる。もちろん、そんなカッコつけをするのは明であった。
「あんたらが一番、騒々しいと思うんだがよ?」
ペコペコは無表情に言った。
「何者です」
プロミネンスが、アースレンジャー御一行様に険しい視線を向けた。
「よくぞ聞いて、くださいましたぁ!」
はるかが、かわゆく右手を天にかざす。
「かなたちゃん、わたしのかっこいいとこ、しっかり撮っててね?」
言いつつ、かざした右腕を拳に握り、ぐい、と思い切り後ろに引く。
「へーんしんっ! あーすぶれすれっとぉ!」
はるかが、引いた右腕と妙な腕時計のついた左腕を、体の前でクロスさせる!
それからはるかは、後ろでこっそり大地と明の手によって組み上げられていた簡易テントの中へ、いそいそと潜り込んだ。
「……? いったい、何を?」
プロミネンスがいぶかしげな顔でテントを見つめるが、アースレンジャー御一行様に動きは
ない。
……待つこと二分と四十五秒。
テントの入り口から、全身藍色の奇妙な人影が姿を現した。その奇妙な服装は、どうやら学校指定のジャージを染め直して、色のついたビニールテープで飾りをつけただけのものであるらしかった。頭の方にはこれも自作のものらしい、フルフェイス型のヘルメットのようなものをかぶっている。
「学園戦隊あーすれんじゃー、あーすこばるとですぅ!」
はるかはポーズを取りながらそう叫ぶと、ペコペコの方を向いた。
「覚悟してくださいねぇ!」
右手をピストルの形にして、ばぁ~ん、と撃つマネをする。
そんなアースコバルトの様子を見て、プロミネンスが呆れたように息を吐いた。
「一人三分として、九分弱かかる計算ですか? まったく、相手をしてられませんね……」
ぶつぶつとつぶやくプロミネンスに、カメラ片手のかなたが声をかけた。
「あとでちゃんと編集して、一瞬で変身したことにしときますから、気にしないでおいてくださいね?」
プロミネンスはそれを聞いて頭を押さえた。
「……ペコペコ」
「はいよー」
ペコペコは、気の抜けた声で答えながら、無拍子でいきなりアースコバルトの鳩尾に拳を入れる。
声を上げる間もなく、アースコバルトが崩れ落ちた。
「くそう、貴様! 卑怯だぞ!」
大地が叫ぶとペコペコは小さく笑った。
「変身するのも名乗りを上げるのもわざわざ待ってやったっていうのによぉ、どこが卑怯だっていうんだ? いちいちかっこつけて意味のないポーズを取ってるやつが悪いんじゃねーか」
ひひ、ひひひ、と笑いながら、ペコペコはアースコバルトの胸倉を掴みあげて、大地たちの方に向かって放り投げた。
「くそう、俺達も変身だ!」
明はアースコバルトをなんとかキャッチすると、かなたの方に向かって放り投げ、大地と一緒に簡易テントに飛び込んだ。
だが、今度はペコペコも大人しくながめてはいなかった。
ずん、ずんとテントに近づいて、一気に剥ぎ取ったのである。
「いやん、えっち!」
ぱんつ一枚の大地がボケをかますが、ペコペコはそれを無視した。
「さっきは女の子だったから多少は遠慮したが、いちいちおまえらが着替えるのに付き合う義理はねーんだよ」
とりあえず、すぐ側にいた大地にペコペコパンチを叩きつける。
だが大地は、ぱんつ一丁のままそれをするりとかわし、なおかつペコペコの腕をさっと両手で抱え込むと、ペコペコのパンチの勢いを利用して一本背負いを決める。
「人間、心に余裕が必要だよ、うん」
大地と明は地面にめり込んだペコペコを尻目に、いそいそと着替えを続行する。
「く、くそう、してやられちまったぜ」
頭を左右に振りながらペコペコが起き上がると、大地と明は既に着替えを終えてポーズを取っていた。大地がライトブラウンの衣装、明がワインレッドの衣装である。デザインは先のはるかのものとまったく同じだ。
「アースブラウン、参上!」
「……おなじく、レッド参上」
なぜか明は声が小さい。
「はっきり名乗れよ、赤いやつ」
ペコペコが自分は名乗りすら上げてないのに、明につっこむ。
「アースレッドだよ! 言わなくたって、わかるだろう?」
むっとした明が怒鳴ると、ペコペコが笑った。
「どこぞの殺虫剤みてぇな名前だな」
「ほっとけっ!」
明が拳をわなわなと振るわせる。
「行くぞっ!」
レッドは両の拳に炎を宿らせ、ペコペコに飛び掛った。が。
ぺち。
あっさりと返り討ちに合い、レッドは地面に叩き落される。
「くそう、やるな!」
再び飛びかかろうとして。
ぺち。ぶちゃ。ばき。どか。どしゃ。ぐちゃ。
全部かわされた上におまけのカウンターをくらって、レッドはあっという間に体力が赤ゲージに突入してしまう。
「そのへんでやめとけよ。お前、馬鹿力だけで戦い方が全然なってないって」
ぽてちを頬張りながら観戦していたブラウンが、真打とーじょーとばかりに指をコキコキと鳴らしながらペコペコの前に立ちふさがった。
「俺の必殺拳法を受けて、五体満足でいたやつぁいないぞ?」
ブラウンはそう言いつつ右手を天に左手を地に向け、ペコペコにむかっていかにもな構えを取る。
「ほほう、少しは楽しめるかぁ?」
ペコペコもブラウンの構えを見て、何やら奇妙な構えを取る。意外にもなんらかの武術の心得があるらしい。
「俺の技、受けきれるかな?」
ブラウンは言いつつ。すっと右足を後ろに引いた。
「きやがれヘッポコ! ぼっこぼこにしてやらぁ!」
ペコペコもカウンターを決めるべく体を沈める。
「喰らえ必殺! いきなり最終奥義!」
ブラウンは地面に隠されていたバズーカ砲を左手で拾い上げ、肩に担ぐと同時にいきなりぶっぱなした。
「なっ?!」
拳法というからには何かしらの格闘系の技に違いないと思い込んでいたため、カウンターを目論んでいたペコペコは対応しきれずあっさりと飛び道具の直撃をくらう。
「き、きったねぇ!」
「力の劣るものは知恵で対抗するのだよ。知恵と勇気! 努力と根性! ああ、なんといい響きだろう」
「よせ大地。お前が言うとすっげー安っぽい言葉に聞こえる」
明がため息と一緒に言った。
「ははは。正義の味方は常に勝たなくてはいけない! 敗北は即、世界の破滅を意味する。ということは、いかなる手段をつかってでも勝たなければいけないということなのだ!」
馬鹿笑いする大地に、双子が拍手を送る。
「「ナイス卑怯! せんぱぁい」」
その様子を茫然と眺めていたプロミネンスは、ふう、とひとつ息を吐いた。
「なるほど。あなた達の考えはよくわかりました。ならば未開の原住民などと馬鹿にせず、こちらもしかるべき対応をさせてもらいます」
そこへ都合よくフレアが到着する。
「お姉様! 奇生獣をリバースさせます」
フレアが空中に奇妙な文字を浮かび上がらせると、光が天からペコペコに降り注ぐ。なぜか空には突然暗雲が湧き起こり、雷までもゴロゴロ鳴りはじめる。
「目覚めよペコペコ。仮初の肉体より出で、その幻身を現せ」
フレアの言葉に応えるようにペコペコの体から何やら蒸気のような物が立ち上り、自身の全身にまとわりつき始める。
「すっげー、特撮いらずだぜ……」
大地がつぶやく。特撮研究会の一員としてはなかなかに興味深い現象である。
まとわりついた蒸気のような物が形を取り始めたかと思うと、そこにいたのはもう平凡な男子生徒のペコペコではなかった。もう、でろんでろんでぐちょんぐちょんの、べちょべちょのでんでろでんになっていたのだ。
異常なまでに大きな口! 異様な触手がぐにぐにとうごめき、どっぷりとした腹にもこれまた巨大な口が涎を垂らす。
一見して全身これ胃袋? といった感じの奇妙な生物。これこそが本来のペコペコの姿なのであった。
「やれ、ペコペコ! おまえの力で恐怖を皆に刻み込め! ふふふ、ふはははははっ、あーっはっはっは!」
プロミネンスが横で聞いていたら恥ずかしくなるほど高笑いをする、
「……お、お姉様?」
流石にフレアも恥ずかしそうだ。こっそりと野次馬の影に隠れたりする。
「「気持ち悪いですぅ」」
双子がなぜか嬉しそうに騒ぎまくる。
「ぺこぺーこ!」
ペコペコが妙に間の抜けた叫び声を張り上げ、大地達に向かってじりじりと歩み寄る!
「ま、まて! さっきバズーカで撃ったことなら謝るから、な、勘弁してくれ」
大地は思いっきり逃げ腰である。
「ごめんで済んだらけーさつはいらねーよなぁ。許して欲しけりゃ俺に喰われろよ」
ペコペコが、ひひ、ひひひと笑いながらじろりと大地を睨みつける。
「む、むう……」
(こ、これは逃げた方いいかもしれないなぁ……)
大地が心の中でつぶやいたその時!
「ふははははははっ! 学園を騒がすふとどき者め!」
先ほど大地達が現れた作業用の足場の方から怪しい高笑いが聞こえてきたのである!
「なんだぁ? 他にもせーぎの味方がでてきやがったのかぁ?」
ペコペコが足場を見上げる。しかし逆光になっていてその姿ははっきりしない。
「勘違いしないでもらおう。我々は悪の秘密組織、ららら団である! 我々に断り無く学園に騒ぎを起こそうなどとは、見過ごすわけにはいかんのだ」
とう、と掛け声がしてふたつの影が地上に舞い降りる。
「私のことはミスター・グレイトとでも呼びたまえ。そして私の後ろに控えているのが……」
「美少女怪人ユカユカだ!」
なんのことはない。マントを羽織った都築に、ゴジラのマスクをかぶった優香である。
「さあユカユカよ。愚かなものどもに、身の程というものを教えてあげたまえ!」
「ふふふふふふふ。あんたたち、覚悟はいいかい?」
軽く構えをとったユカユカが、地面に砂埃を巻き上げながら一瞬でペコペコとの間合いをつめた。
「むぅ?!」
慌ててユカユカに向き直るペコペコ。カウンターを決めようと右の拳に力を溜める。
だがユカユカはスピードを緩めない!
「あはは、このあたしを止められるとでも思ってるのかい?」
「らららだか、るるるだか知らねーが、死にやがれ!」
思い切り拳を振り下ろしたペコペコの目の前でユカが消える!
「ど、どこに消えやがった?」
「遅いんだよ、あんた」
上からの声に顔を上げるペコペコ。太陽を背に、影が迫ってくる!
「くっ!」
ペコペコはとっさに両腕を頭の上でクロスさせ、衝撃に耐えようとした。
(カウンターは間に合わねぇ、いったん受けてから反撃だ!)
だが衝撃は予想もしなかった方向から来た。
「とろいだけじゃなくて、おつむの方も弱いようだねぇ」
下から突き上げたユカユカの拳がペコペコのアゴを砕いた。そのままさらにユカユカは下半身のバネをつかってその体勢からさらにもう一段、ペコペコの身体を突き上げる!
げふっ、と血を吐きながらペコペコの巨体が宙に浮いた。だがユカユカの勢いは止まらず、さらに上昇する。
「おわりだよ」
上空でえびぞりになったユカユカは、両手を組み合わせると思いっきりペコペコの脳天に叩き付けた!
ぐきゃっ、と嫌な音がしてペコペコの頭部がへこむ。そのままペコペコの身体は地面に叩きつけられ、一回バウンドして動かなくなった。
ユカユカは空中でくるりと一回転すると、スカートの裾を押さえながら華麗に地面に降り立った。
その場にいた全員が、口をあけたまま唖然としていた。最初にユカユカがダッシュしてからわずか五秒足らずの出来事だった。
「おおう、ぃよぅくやった、ユカユカよ!」
ミスター・グレイトはそう言ってプロミネンスに挑発的な笑みを浮かべた。
「さて、まだやる気はあるかね?」
プロミネンスは無言で拳を握り締めていたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「今日のところは私達の完敗のようです」
悔しげにそう言うと、プロミネンスは指を鳴らした。
すると野次馬の影に隠れていたフレアがそそくさと前に出てきて、ユカユカの前で一礼した。
それからブラウンの方を向いて一礼すると、おいでおいでと手招きをする。
首をかしげながらブラウンが歩み寄ると、フレアはどこからとも泣く菓子折りを二包み取り出して、ユカユカとブラウンにそれぞれ手渡した。
「つまらないものですが、どうぞお納めください」
そう言ってフレアはスカートの端をちょっと持ち上げて微笑んだ。
「わたくしたち”星闇の美姫”ダークプリンセスは、遠く異星より参りました侵略者でございます。何分この惑星にも不慣れなもので、ご迷惑をおかけすることも多々あるとは思いますが、ひとつ今後ともよろしく御付き合いくださいませ」
そう言ってもう一度スカートの端を持ち上げて一礼すると、フレアは倒れているペコペコに歩み寄り、背中の辺りをごそごそやってファスナーのようなものを開けると、ペコペコの身体から男子生徒を引っ張り出した。
「原我平太さんはお返しいたします。なおこれまでの行動は奇生獣による擬似人格によるものであり、彼自身の意思とは何の関係もございませんので、どうかお咎めなきようお願いいたします」
フレアは最後にもう一度礼をすると、静々とプロミネンスの後ろに下がった。
「なるほど、宣戦布告ってやつだな」
静かに構えるブラウンとは対照的に、ユカユカの方はさっそく菓子折りの包みをがさがさやっていた。
「ほお、こりゃあたしの好きなぴよこちゃんじゃないか!」
「お気に召されたようでなによりです」
フレアがにっこりと微笑んだ。
「ふむ、気に入ったよ。前にも誘った気がするけど、後で茶でも飲みに来ないかい?」
「っ!? は、はい……後ほど」
前に誘われたのは紅あやの姿の時だったが、ユカユカにはばれている様だった。
(認識阻害機能は正常に動いています……。なぜ正体がばれたのでしょう)
スーツの機器が正常に動作していることを確認しながらフレアは思った。
(この惑星の侵略……、思ったよりも時間がかかりそうです)
「お姉様、行きましょう」
フレアはプロミネンスの袖を引いた。
「ではまたいずれ、相見えよう」
プロミネンスは小さくうなずき、指をパチンと鳴らす。するとたちまちのうちに二人の姿はその場から掻き消え、静かなる闇の空間へと転移していた。
「お姉様、先ほどのららら団の方たちなのですが……」
「こんな未開の地にしては、興味深い者達ですね。特にあのユカユカとか申すもの。改造もしていない人間が、素手で奇生獣を倒すとは信じられません」
玉座に腰掛けて、プロミネンスが笑う。
「味方に引き込むことを考えてもよろしいでしょうか?」
フレアが姉に問いかける。
「話し合いの余地はあると思えます。幸い向こうから会談の誘いを受けていますし」
「敵でいてくれた方が面白そうではありますが。いいでしょう。一度こちらから出向いてみましょう」
プロミネンスは小さくうなずいて、フレアの手をそっと握った。
「……ところで、さきほどの菓子折りは、もう残っていないのですか?」
「すみませんお姉様、先ほどので全部です。ららら団を訪ねる時には、また用意いたしますので」
「いえ、そうではなくて……」
きゅう、と子犬が鳴くような可愛い音がしてプロミネンスが小さく頬を染めた。
「……少しおなかがすいてしまいました」
フレアはお姉様可愛いと思いながら、すぐに何か用意しますとちいさく微笑んだ。