5、ららら団vsアースレンジャー!
「やい、ららら団! 覚悟しろ!」
大地はそう叫んで、拳を顔の前に構えた。
「フッ、何の用かね、君達」
都築はずきずきする後頭部を両手で押さえながら、ふらふらと立ち上がる。
「今日の昼休みのはらぺこ騒動は、おまえらの仕業だろう?」
明が、びしっ、と都築を指差しながら言う。
「いや、生憎と我々は無関係だ」
都築がそう言ってその場を立ち去ろうとすると、はるかが都築の前に立ちふさがった。
「今回はわたしの出番なんですよぅ。そんなこと言わずに付き合ってくださいぃ~」
うるうる顔で美少女に頼まれて、断れるはずもない。
「ふむ、美少女の頼みとあらばしかたあるまい。少しだけ付き合ってやるとしよう」
都築がくるり、と大地たちの方に向き直る。
「さて、何用かな、アースレンジャーの諸君。私も暇ではないのだ。さっさと用件を言いたまえ」
「昼の騒動の目的! それに損害賠償と謝罪文を提出してもらおうか」
明がまた、びしっ、と都築を指差す。
「そう何度も他人を指差すのは止めたまえ」
都築は床から櫛を拾い上げて、髪を整え始める。
「それに先ほども言ったとおり、我々は昼の騒動には関わっていない。諸君らの要求はナンセンスだな」
ふ、と笑って都築は肩をすくめた。そのまま、くるりと一行に背を向けると、足早に立ち去ろうとする。
「おい、待て! っと、ううっ!」
大地が追おうとしたところ、突然後ろから誰かにスリーパーホールドをかけられたものだから、思い切り首が絞まって情けないうめき声をあげてしまう。
「うちの都築に何の用だい、東大地」
首を絞めた犯人、優香はぎりぎりと大地の首に回した右腕に力をこめた。
「おお、優香ではないか。この場は君に任せる。私はなぜか妙に頭が痛むので、すこし保健室に寄ってくる」
「ああ、湿布でも貼ってもらってきな」
優香が片目で都築に合図をすると、都築はひとつうなずいて足早に立ち去った。
「くそ、大地を放せ!」
明がびしっ、と優香を指差す。
「仲間が心配してるよ。どうしようかねぇ、大地くん?」
優香が大地の耳元で囁いた。
「う、うう、む、胸が背中に当たって、気持ちいい……」
「……」
優香は、無表情に大地を締め落とした。
「せんぱいのえっちぃ」
はるかとかなたが、きゃいきゃいと騒ぎまくる。
「……さて、馬鹿はほっとくとして、話を聞かせてもらおうか。何をうちの都築に迫ってたんだい?」
優香が腕組みをして、転がった大地を右足で踏みつける。
「それが人に話を聞こうという態度か?」
明が、またまたびしっ、と優香に指を突きつける。
「あんたさ、いちいち人を指差すの止めてくれないかな。それ、すごくイライラするんだけど」
優香がギリギリと大地を踏みにじりながら言うと、明はふっ、と鼻で笑って肩をすくめた。
「これは心理的な戦略の一環なんだ」
「ええ~! 単なるくせだと思ってましたぁ」
「ただのかっこつけじゃ、なかったんですかぁ?」
双子が後ろでひそひそ囁きあうが、明は聞かなかったことにする。
「さぁ、大地から離れろ!」
またもやびしっ、と優香に指を突きつける明。
「いいよ。倒れたまんま、人のスカートの中を覗こうとする馬鹿なんて、いらないね」
優香は無表情に大地の顔面を踏みつけると、明の方に蹴り飛ばした。
「ぐはぁ、意外にもアニメプリント柄ぁ~っ?!」
「……で、何の用で都築をいじめてたんだい?」
「昼の腹ペコ騒動の件だ。あれはららら団の仕業なんだろう」
「しらないねぇ」
優香は首を左右に振って、ひとつため息を吐いた。
「あたしらには、世界征服という大きな目標があるんだよ。いちいちその辺でつまらない騒ぎなんか起こしはしないよ」
「本当か?」
明は、大地に肩を貸して立ち上がらせながら言った。
「うちの仕事じゃないよ。あたしらだって昼飯確保するのに苦労したんだから。そうだねぇ、食べ物のことなんだから、保健委員会か家庭科研究会にでも行ったらどうだい?」
優香は、あくびをしながらそう言うと、じゃあね、とその場を去ってしまった。
明はそれを見届けたあと、大地の鳩尾に思い切り肘を叩き込んだ。
「一人でいい思いしやがって」
「……て、天国と、地獄……がくっ」
大地が廊下に崩れ落ちる。
その時!
「きゃああああっっっ!!」
遠くから、女生徒の叫び声が聞こえてきたではないかっ!
「大地、行くぞ!」
明は口から泡を吹いている大地を小脇に抱え、超特急で現場に急行した。




