3、正義の戦士アースレンジャー出動!
「せーんーぱいっ! いーっぱいもうかっちゃったから、何かおごってあげますよぅ」
底抜けに明るいのーてんきな双子が、大地と明の周りで”大繁盛の舞”を踊りまくる。
「おい、おーぼけ姉妹! おまえら一体いくら稼いだんだぁ?」
半分、いや百五十パーセントあきれ果てた口調で、大地と明がため息と同時に問う。
「ええ~とですねぇ」
「仕入れ値をさっぴいてぇ……」
片方はソロバン、もう片方は電卓片手にかちゃかちゃやって。
「「ざっと、三百六十九万とんで二百と九十三円ですぅ」」
双子の声が、見事にハモった。
「……マジ?」
大地が、疑わしげな視線を双子に向ける。
「まあまあの儲けですぅ。せんぱぁい、一万円までなら、なんでもおごったげますよぅ」
「そんだけ儲けて、まあまあ?」
明が、ふうと息を吐いた。
そのとき、ふと大地が壁にかかっている時計を見た。
「おい。よく考えたら、ってよく考えなくてもなんだがとっくに五限はじまってる時間じゃないのか?」
まわりを見回せば、紙袋に顔を突っ込んでゾンビのようにがつがつとパンを食い漁っている連中ばかり。
教師も同レベルなんだから、授業がまともに行われている可能性は低いが、それでも一応生徒として、授業時間に教室以外の場所にいるというのは妙に落ち着かない。
「うむぅ、これは事件だ、事件に違いないっ!!」
拳を握り締め、妙に力が入っている大地。
そこへ校内放送が、何の脈絡もなく突然流れる。
――ぴんぽんぱんぽん。
えー、特撮研究会の人は、急いで物理準備室まで集合してください。繰り返します。特撮研究会の人は……――
放送を聞いてすぐに、大地と明は顔を見合わせた。
「アースレンジャーの出番のようだな」
大地が言い、明がうなずく。
「わぁい、今回はわたしの番ですぅ。かなたちゃんは、レポーターしっかりやってくださいね」
はるかがにこにこしながら言う。
「ま、そんなのは後だ。とっとと行こうぜ」
大地が拳を握ってポーズを取り、明と双子が芝居がかった様子でうなずいた。
ここで少し説明せねばなるまい。彼らの所属する特撮研究会とは、またの名を正義の味方同好会という。そして、彼ら四人こそがこの学園の平和を守る、正義の戦士アースレンジャーなのである!
そして、物理準備室こそが彼らの基地であり、そこへ集合すると言うことは、アースレンジャーの出動を意味するのであった。
「おい、遅いぞおまえら」
物理準備室の主、泉拓真はそう言って一行を迎えた。彼は物理教師。そして特撮研究会こと、正義の味方同好会の顧問である。
以前、生徒に改造手術をしようとして警察に捕まったことがあるとか(ちなみに女生徒だったので罪状は強制ワイセツ罪)、怪しげな研究で物理実験室を異次元の彼方にすっ飛ばしたことがあるとか(事実、現在物理実験室はこの学校に存在しない)、その他とんでもない噂の持ち主だが、その噂全てを否定できないのが、泉の泉たる所以であり恐ろしい所である。っていうか、こんなやつが正義の味方を指揮してていいのか?
それはさておき。
「センセ、これでも走ってきたんですよ」
大地がまた意味もなくカッコをつけてポーズを決める。
「言い訳はいい。それより、状況はわかっているな?」
「事件のことなら、もちろん」
明がうなずく。
「やはり、ららら団の仕業でしょうか。これまでになく事件の規模が大きいようですが」
「わからん……が、可能性は高い。というわけでアースレンジャー出動だ! きっと叩けばホコリのみっつやよっつ出てくるだろう。とりあえずいつものようにたたいてみてくれ」
泉はそう言って、びしぃっ、とドアを指差した。
「ゆけ、アースレンジャーよ! 学園の平和は君達が守るのだっ!」
「ラジャー!!」
びしっとポーズを決めて、大地達はうなずいた、そしてそのまま、だっ、と部屋を駆け出してゆく。
「あ、まってくださいよぅ」
その後ろを、ちょっと遅れてカメラとマイクを持ったかなたが続く。
「任せたぞ!」
泉はそう言うと席に着き、こっそり取っておいた出前のラーメンをがっつき始めた。
彼もまた、ハラペコ光線の影響を受けていたのである。