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リハビリ ラブ  作者: 黒田 容子
リハビリ ラブ  -シオリside
9/24

麻痺が引いた時

家が雨漏りになったアタシに 「ウチくる~?」


そこで初めて 自分が女で大林くんが男なのを 思い出した

麻痺してたことに 甘えてた




大林くんが、トイレから戻ってきた。

何事もなかったような顔してる。


怖くて聞けない

『私、女なんだけど。』

普通、ルームシェアって、恋人同士だよね?同棲だよね?

男女友達同士の同棲って、ありえないよね?

貴方を男だと思ってるんだけど、私のこと、人畜無害な欲情もしてもらえないオンナだと思ってるの?


「答え出た?」

「なにが…?」

喉がカラカラで声が出ない。

緊張で、引きつって なおさら響かない。


「いい きっかけかな と思って、言ってみたんだけど。…イヤだった?」

先ほどからしゃがんだままの私の真正面に、すぐ隣で あぐらを組む大林くん。

「どうって…」

返事はしてものの、怖くて聞けない質問を抱えたままの私には、言葉が続かない

心臓が必要以上にバクバクしてる。バクバクが、首とか耳まで響いてしまってるような気分

胸が、喉が締め付けられてるように苦しい

どうしよう、苦しくて 泣くつもりないのに泣きそうになる


「俺と暮らすって ハードルたかい?」

ニコっと笑う。私のこと、落ち着けようとしてる、気を使ってくれてる

「意識はしてくれてるんだ。それ聞けて良かったよ」

胸がグッと苦しい。何かが刺さるように苦しい。


適度に聞き流して欲しいんだけど、と大林くんは 笑って軽く言う

「たまーに シたくなる時あったよ。いつからか その回数が増えてきてね」

大林くんの『シたくなる』の意味が、残念ながら分かってしまう。 もう、30代も中盤。とぼけるフリは 年齢的に出来ない。

どうする? どうする? その言葉だけが 頭の中で脈打つドキドキと一緒に プレッシャーを掛けてくる。


大林くんの手が 伸びてきて、距離が近づいた。

「ああ 俺も 『男』に戻ってきたんだね、って思うようになった」

…まだ こないで。とっさに体が身構える。


不思議。

さっきまでは 体が触れ合うかどうかの隣でも、なんの違和感なかったのに、自分の気持ちが この人を「知らない人」と思おうとしている


「俺たちって、気の置けない友達みたいな感じで しょっちゅう会ってたでしょ?

 でも、たまにフッと我に返るんだ。…そういえば、たいした付き合いの長さじゃないのに どうしてこんな?って」


体育すわりで、両腕を抱えて座っていた私。このまま 殻に籠ってしまいたい

「どうせ、この部屋じゃ眠れないでしょ? 今、決めて」

大林くんの手が伸びてきて、そしてそのまま 捕まれようとした。

「このまま、俺の家にくる?」

有無を言わさない迫力… くる?じゃなくて、くるよね? 念を押すような強くて大きな手のひら


ついに 腕に手が掛かった。

あっ…嫌じゃない…

当たり前のように ただ触られてるのが 気恥ずかしくも、小さく嬉しい


気恥ずかしくて 逃げたい気持ちもある

でも 本当は 逃げないで このまま抱き寄せられてもいいと思ってる


ねえ

私が 無駄に 迷わないように 捕まえ続けて。

勢いに任せて 流れに乗せて。


引き寄せる力に 足が崩れていく

それを呆然と受け止めながら、どこか遠くで 喜んでいる自分がいる



恋愛に直感ってあったんだ

熱くて 心地よくて、このまま もっと抱き寄せて欲しいと思った。遠慮しなくていい、もっと傍に引き寄せてほしいと思った。


自然と、捕まえてる大林くんの手に自分の手が触りにいこうとしている。

本当は 気恥ずかしくて、払い除けたかった。

けど、『今 やったら この手を掴み直すまで どれぐらいロスしてしまう…?』

今まで 知らなかった自分が 冷静に大胆な行動をとらせている


自分でもまだドキドキしてる

でも ドキドキした音を心地よく聞き流しながら どうすべきか 分かっている 自分もまたいる


大林くんの顔を、そろりそろりと見上げてみた。


顔は笑ってる、良かった

でも 目だけ笑ってない。

『喰われる!』とっさに思ったけど でも、ね『喰われてもいいかも!』って思った。


だってこれは『男の顔』。本能の欲が宿った男の顔

このまま、床にでも押し倒されて 胸とかお腹の下とか 見られても、捧げても、いいと思った。

頭のどこかで「抱かれる」って意味がリフレインする。


あぁ、なんか 久しぶりに 私も「女」に戻ったかも。

きっと『女の顔』してる。


知らずと微笑んでいたらしい

「どうしたの?」って聞かれた。だから、

「いま、『おスケベ』してもいいかもって思った」

「おスケベ、ね」

大林くんが、苦笑する。

なんか 久しぶりに 「女」に戻ったかも。

「おスケベ」してもいいかもって


「おスケベ、ときたか」

大林君が もう一度口にして笑う


そして。

「詩織…」名前を呼ばれたとき もう一度胸が詰まって目をつぶった

それが自然だと思えた

体がゆっくり仰向けに倒されるのが分かる…そして。唇に暖かい感覚がかぶさって、雨音が聞こえないぐらい体温に包まれた


おぼろげに 大林くんの名前を思い出した

確か『貴紀(タカノリ)


クレジットカードのサイン、会社に送られてきたメールの署名、財布の社員証

意図して覚えたんじゃなくて ずっと一緒にいたから 刷り込まれるように覚えていた


今の気持ちも 自覚するきっかけを待つように ずっとずっと 埋もれたまま この時を待っていたのかもしれない


「好きだよ、言い忘れてたけど」

「うん。好きかも。聞き忘れてたけど」

腕の中にぎゅっと つよくつよく巻き締められていく

久しぶりに、誰かに髪をなでられる感覚… ふわりと力が抜けて 身体を預ける自分がいる


なんの躊躇いもなく 口から言葉が洩れる

「恋なんて久しぶりなのに、どうすればいいかとか 忘れてなくてよかった」

タカノリが笑う

「俺も、30越えて、もう一度恋愛できると思わなかった。」

「ヤダ、私 34よ?」

聞こえない…と、タカノリのとぼけた声がして、思わず二人で笑いあった




互いの心音が落ち着いた時、タカノリが身体を起こした。

「俺の理性が飛ばないうちに、支度して? まずは、貴重品と衣服だけで十分でしょ?」



そうして、私は 数時間で 次の入居先が決まったのであった…


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