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リハビリ ラブ  作者: 黒田 容子
リハビリ ラブ  -シオリside
6/24

確実な「また今度」

元々 淡白なのか。

余り 人見知りをしない反面、離れていっても 追い掛けてまで執着しないのが私。


利害だけの人間関係を持たなくても やっていけちゃう位の…アレですよ、アレ。

それはそれで 大人でカッコイイと思ってる自分もいるけどね、

ときたま 寂しくなると 選んだ潔さの故に すがりに行くアテが乏しかったりも、するのよね。




生まれて初めて入った「バーカウンター」

作法も、流儀も分からない

何か一つ頼むにしても、一苦労。


けどそこは 流石 接客のプロだと思った。

「気取ったフルーツジュースみたいなもんだよ。」

軽い前置きの後

「甘いのと大人の味、どっちがいい?」から始まって「じゃあ 旬のフルーツで フローズンなんてどう?」とか「お腹に溜めたい感じ? それとも、流し込みたい?」

上手に 選択肢を見せてくれながら その実 絞り込んでくれている



結局、大林くんが飲んでるものと同じにしてもらった。

「甘いんだけど、ほろ苦くて。さっぱりしているんだけど、パンチが効いてるお酒」


マスターは、ニヤッと笑って「大林くんに出したモノとは ちょっと小細工するね」

滑らかな動作で 器を並べ、液体を混ぜ、巧妙な手付きで 飲み物を調理していく。


一品仕上げる「調理中」は どこか キッチンの道具たちと戯れているようで。

ついつい 魅入ってしまう



食い入るように マスターの手元を見ている私をみて、何か思ったのか。

大林くんは 「先に 遊んでる」と、腕時計を外して 腕捲りを始めた。

それは ほどなく離れた、会話が聞こえるかどうかの距離。

うん、良かったわ

大林くんなら 大丈夫だろうと踏んでいた安堵が やっぱりちゃんと 保証されてる


なにって…

間柄を急に詰めてこられるような 積極性…(ウザさともいう)…が まるでないから。

むしろ、助かるって感じかしら?


だって、かんがえてみようよ、

男女が 夜に二人きりで バーカウンターにいたら。

口説かれたり、そのあと どうこう進むが 規則かのような風潮あるじゃない?

なんかよくわからないけど、世間的なそんな「流れ」ってやつ

それが嫌だったの。

もしね、もしよ?

一歩 譲って それが私の勝手な偏見だとしても、自分をいつも以上に 繕うのは 好きじゃない。


例えそれが、超大手グループのカイシャに勤めてる若手の中間管理職のメンズで、

業者の立場にしてみれば、手厳しくとも話が通じる理想の仕事相手な「デキる男」だとしても。


我ながら 自分ルールの打算で動くところはあるけど、恋愛とか交友とかは 一段と食指が 動かないのよね。

「アタシのテリトリーに入ってこないで!」乱すモノは 私の前に立たないで頂戴ぐらいな?

…だから 私は『淡白』だと 評している。




我に帰った時、おまかせしました、と ラフに注がれたカクテルが出てきた

「どうぞ。ちょっとだけ お酒が入ってるレモネード」

聞けば、

「大林くん、いつも 車で来るから飲まないんだ。

ウチのレモネード、気に入ってくれてね 最初はいつもこれなんだ」


さりげなくイタダキマスを唱えて 口をつけた。

あっ、これはすごい。自分が知ってる、本物のレモンの味。

自動販売機とか 食卓にならぶ瓶詰めのレモン果汁とは ちがう、ほんのり薄皮を舐めた味と 剥いた時の香り


「リアリティある。…レモンだ」

ふふふ そういってくれて 嬉しいよ

マスターが 照れたように笑った

「くつろいでいって。暖かいお茶とかも出せるから」



何度飲んでも、これぞって 言葉が 思い付かないな、このレモネード

しっとりとした気分で、手元のグラスを眺める。

それぐらい美味しい手元の飲み物に 気分も酔いしれてきて、マスターとたわいもない世間話を 楽しむ。

ぼちぼち続けているうちに、レモネードも 氷が当たるぐらいに減ってきた

話してるだけじゃ、物足りないくらい ちょっと 欲が出てきたかも??


「大林くん、そろそろ 遊んであげなよ」マスターが 声を掛けてくれた

「ああ、ごめん」

一人で打っては練習していた大林くんが戻ってきた


「じゃあ 始めようか」

ルールは?って聞いたら 「あとで」だって

でも、聞かなくて良かったかも


「とりあえず、この球を ここに当ててごらん」とか

「この玉を、ここへぶつけてごらん」とか

言われた通りに打ちに行くので精一杯

ゲームなんて なかなか進まない


でも、マスターも 大林くんも 何も言わないで見守ってくれるのが 気持ちいい

「トリッキーに散らしてくれるから いい練習になる」

気を遣っていってる風には思えないほど 大林くんは 淡々と 玉に狙いを定めている

その我を忘れてる顔が 正直 安心させてくれた


私も、下手なりに? 頑張ってコツを探るのに集中しちゃった

仕事とか 家の事以外で 夢中になるって 久しぶりかも。

なかなか 楽しいものね


好きなもの飲んで、話したくなったら マスターと話して

それでも 物足りなくなったら、玉突き遊びに構ってもらう。

すっかり 居心地のいい空間に味をシメて 私はホクホクの上機嫌だった。


ビリヤードって、頭脳戦でありテクニック戦。

無理に話さなくても、ゲームが成立するし、自分の世界に入っても 怪しまれないのが、ちょっと 気に入った、かも。

…大林くんって、若い顔して渋い趣味持ってる。



店に入って 二時間くらいしたかもしれない。

お互い、何となく集中力が切れて、だらんとした感じ。

どちらとも言うことなく「帰ろうか」になり、席を立った


「またね。気を付けて」

背中越しにマスターの声が聞こえ、「えぇ また来ます。」多分 社交辞令じゃない声で答えられたと思う



店から外に出る階段を進みながら、大林くんがいう。

「ありがとう、俺も楽しかったよ」

このドアを開ければ、今日のイベント?は本当に終わってしまう。

大林くんが、電話のむこうだけで、接点が続いてた「取引先のお客さん」に戻ってしまう。

あれ、ちょっと 惜しいと思ってる?私。

「おかげさまで、私も 楽しませていただきました」

甘いような、苦いような空気が流れる…心のアラームが、居心地悪いですと訴えてきそうになる。


それを破ったのは、大林くんだった。

「じゃ、また!」

すぱっとした、別れ方。

颯爽とした後ろ姿が 潔くも 味気ないくらいサッパリしている。


ちょっとだけ、良かったと思う自分がいる。

いけない、いけない

今はよくても 今後は きっと 面倒ごとになる。

面倒を孕む人間関係なんて、手間だもの、いらない。


冷たい外気を、気合で吸い込んで よしっ と強気とともに吐いて。

私は 家に向かって 勢い良く歩きだした。




ぶっちゃけたところ、お店自体は 超気に入った。

マスターが 黙々とカクテルを作る姿を見ているだけで、後学になるというか...飽きない。

人が仕事をしている姿って、好きなのよね。

私って、よっぽど 「仕事」が好きなんだと思う。


いや、仕事中毒みたいな そこまでの熱心さはないんだけどね、

「精進」とか「○○道」みたいな邁進できる本職って カッコイイと思っちゃうところがあるから。

人間関係の煩わしさとは 外界へと廃して、淡々と進んでいく環境って あこがれる。


そんなわけで、一人で飲みにくることも 増えてきた。

偶然 大林くんに会ったこともあったし、マスターの紹介で 違う人と対戦する大林くんを見かけることもあった。



大林くんは、実際、本当に「コソ練」相手が欲しかったらしい。

通称「クマ吉」というライバルがいるのだそうで「ここぞとおもうところでも、ミスをしない」強敵なんだって

「この俺が、ついに コソ練が必要になってきたわけよ」と笑っていた

偶然会ったときは たまに 相手になったりした

私は、勝負とかが出来る次元じゃないけど やっぱり 大林くんにとっては、いい練習相手らしい


いつしか「じゃあ、また」ここでまた会うのが、当たり前の毎日になっていた。

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